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北の大森林の主
悪魔の微笑
しおりを挟む「さて……、お前達。少し聞きたい事がある」
アイセンレイトはそう言って、汚れた彼女をものともせず抱き寄せた。
「僕の大切な番を暗殺しようとしたよね」
アイセンレイトの剣呑として、ニオクターブ程下がった声にラスティエルは驚いて彼を見ようとすると、そのままぎゅっとされて顔を胸に隠されてしまった。
アイセンレイト自身が怒りに歪んだ顔を、ラスティエルに見せたくなかった。
そう言う理由からの行動だったが、ラスティエルにとって、この行為は恥ずかしい事この上ないものであった。
そして、家族しか知らないアイセンレイトはこういう事に非常に疎かった。
「命令だから。なんて言わせないよ。だって、ねぇ。君達、第二王子に死ねと言われたら死ぬの? ん? 僕の問に答えてみなよ」
「っつ、その女が!」
「違うでしょ。彼女に落ち度は無い。僕らは番でも、僕は、彼女を思って別れてたからね。今まで一度も会ってないし。そ、れ、に、裏切ったのは王子の方だ。好きな女が出来て、そいつを王子妃にしたくなった、ってだけでしょうが。そんな自分勝手な考えで、世界樹が許す訳が無いだろう」
と、図星を言われて何か言おうとした騎士団長は何も言えなくなった。
正確には、アイセンレイトの気迫のせいでなのだが。
「世界樹ですか……? 貴方と世界樹の関係とは? 」
不思議に思った副団長は、アイセンレイトに問い掛けたが、彼の美貌を鑑みて己の関与する事柄では無いと、無意識にも感じ取って、
「嫌、良いです。聞かないのが幸せな時も有る…… 」
そう言って手と首を振った。
アイセンレイトの両の口角がゆっくりと上がる。
これぞ悪魔の微笑み。
逸れを見て、騎士達は「ひいいぃぃぃ~っ」「ひぎゃぁぁぁ…… 」と言った悲鳴を上げて一目散に逃げて行った。
「……………… 」
蜘蛛の子を散らしたように逃げて行く騎士達の、そんな様子を見て、逆にアイセンレイトは眉をしかめたまましばし固まった。
「ちょっと待て……。」
本人としては、はっきり言って納得出来ない。
そして、後ろに控えていたレイに、腹を抱えて笑われたアイセンレイトだった。
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