331 / 351
Extra3:幸せのいろどり ―透side―
(96)
しおりを挟む
大阪は晴れていたのに、新幹線の窓から見える空は冷たそうな薄い雲に段々と覆われて、到着する頃には霙が降っていた。
新幹線を降りてから、携帯の電源が入っていないことを思い出し、ONにした途端振動して、慌てて通話ボタンを押した。
「――もしもし、お兄ちゃん?」
「……静香……か? どうした?」
『―― もう! やっと繋がった…。何回電話しても繋がらないからお父さんに聞こうと思って、篠崎の家に電話したらお兄ちゃんが結婚するって聞いて……』
継母に聞いたらしく、それで静香は慌てて日本に帰ってきたらしい。
婚約を解消したことを、継母は多分まだ知らないだろう。
俺が大阪に着いた2日後、継母も来ると言って美絵さんに連絡してきた時に、彼女は『今は二人きりでいたいから』と言って、断っていたから。
静香に結婚の話はなくなった事を話すと、『えー? 何の為に帰って来たのか分かんない』って怒りながらも、声は笑っていた。
静香との電話を切った途端、また携帯が振動する。
今度は神谷さんからだった。
『――今から札幌に行く。一緒に来なさい』
神谷さんも、俺に連絡がつかなくて困っていたらしく、また迷惑をかけてしまった。
本採用は4月からということになっていたけれど、札幌で神谷さんが取り組んでいる、コンサルティングと施設設計の仕事の話があって、それに俺を研修という形で連れて行きたいと言ってくれた。
『――じゃあ、空港でな』
通話を終えると俺は、そのまま空港へと急いだ。
今、電話で話した内容を考えると、スケジュール的に、多分1ヶ月は戻って来れそうにない。
――1ヵ月……か……。
それは、今の俺にとっては、とても長い時間で……でもきっと、あっと言う間に過ぎていく。
そして……帰って来る頃には、もう季節も変わっている。
その頃に、直くんの記憶の中に俺がまだ居るという自信は無い。
——今だって……自信なんて全く無いのだけれど……。
お互いの時間が重なるタイミングが取れないのは、運命なのかもしれないなんて思えてきた。
俺も……季節と同じように、俺の心もまた移ろいでしまうのだろうか。
直くんとの出逢いは、俺に人を愛する気持ちを教えてくれる為のものだったのかもしれないなんて、半ば諦めにも似た気持ちが、心の中を占めていた。
***
3月の半ば、札幌での仕事もひと段落ついてきた頃、休みの日に街をゆっくりと一人で歩いてみた。
ふと立ち寄った店で目に留まった、ブルーのクリスタルキーリング。
丸いダークブルーのクリスタルの中に、ライトブルーの小さな星が散りばめられていて、直くんと出逢ったあの夜の、ほんの数分だけ見えた星空が、この小さなクリスタルの中で煌いているように思えた。
大きな瞳を見開いて瞬きもせずに星空を見上げる直くんの横顔が、脳裏を過ぎっていく。その瞳は、このキーリングのように煌いていた。
あの公園の……俺と同じように色を失くした寂しげなベンチに、いつかまた二人で座って、直くんと夜空を眺めることが出来たなら、どんなにいいだろうと、思った筈だったのに。
なんで、諦めようとしていたんだろう。
ただ、時が経ちすぎただけで、俺の気持ちは全然変わっていないのに。
新幹線を降りてから、携帯の電源が入っていないことを思い出し、ONにした途端振動して、慌てて通話ボタンを押した。
「――もしもし、お兄ちゃん?」
「……静香……か? どうした?」
『―― もう! やっと繋がった…。何回電話しても繋がらないからお父さんに聞こうと思って、篠崎の家に電話したらお兄ちゃんが結婚するって聞いて……』
継母に聞いたらしく、それで静香は慌てて日本に帰ってきたらしい。
婚約を解消したことを、継母は多分まだ知らないだろう。
俺が大阪に着いた2日後、継母も来ると言って美絵さんに連絡してきた時に、彼女は『今は二人きりでいたいから』と言って、断っていたから。
静香に結婚の話はなくなった事を話すと、『えー? 何の為に帰って来たのか分かんない』って怒りながらも、声は笑っていた。
静香との電話を切った途端、また携帯が振動する。
今度は神谷さんからだった。
『――今から札幌に行く。一緒に来なさい』
神谷さんも、俺に連絡がつかなくて困っていたらしく、また迷惑をかけてしまった。
本採用は4月からということになっていたけれど、札幌で神谷さんが取り組んでいる、コンサルティングと施設設計の仕事の話があって、それに俺を研修という形で連れて行きたいと言ってくれた。
『――じゃあ、空港でな』
通話を終えると俺は、そのまま空港へと急いだ。
今、電話で話した内容を考えると、スケジュール的に、多分1ヶ月は戻って来れそうにない。
――1ヵ月……か……。
それは、今の俺にとっては、とても長い時間で……でもきっと、あっと言う間に過ぎていく。
そして……帰って来る頃には、もう季節も変わっている。
その頃に、直くんの記憶の中に俺がまだ居るという自信は無い。
——今だって……自信なんて全く無いのだけれど……。
お互いの時間が重なるタイミングが取れないのは、運命なのかもしれないなんて思えてきた。
俺も……季節と同じように、俺の心もまた移ろいでしまうのだろうか。
直くんとの出逢いは、俺に人を愛する気持ちを教えてくれる為のものだったのかもしれないなんて、半ば諦めにも似た気持ちが、心の中を占めていた。
***
3月の半ば、札幌での仕事もひと段落ついてきた頃、休みの日に街をゆっくりと一人で歩いてみた。
ふと立ち寄った店で目に留まった、ブルーのクリスタルキーリング。
丸いダークブルーのクリスタルの中に、ライトブルーの小さな星が散りばめられていて、直くんと出逢ったあの夜の、ほんの数分だけ見えた星空が、この小さなクリスタルの中で煌いているように思えた。
大きな瞳を見開いて瞬きもせずに星空を見上げる直くんの横顔が、脳裏を過ぎっていく。その瞳は、このキーリングのように煌いていた。
あの公園の……俺と同じように色を失くした寂しげなベンチに、いつかまた二人で座って、直くんと夜空を眺めることが出来たなら、どんなにいいだろうと、思った筈だったのに。
なんで、諦めようとしていたんだろう。
ただ、時が経ちすぎただけで、俺の気持ちは全然変わっていないのに。
0
お気に入りに追加
463
あなたにおすすめの小説
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
3人の弟に逆らえない
ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。
主人公:高校2年生の瑠璃
長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。
次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。
三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい?
3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。
しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか?
そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。
調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m
【R18】息子とすることになりました♡
みんくす
BL
【完結】イケメン息子×ガタイのいい父親が、オナニーをきっかけにセックスして恋人同士になる話。
近親相姦(息子×父)・ハート喘ぎ・濁点喘ぎあり。
章ごとに話を区切っている、短編シリーズとなっています。
最初から読んでいただけると、分かりやすいかと思います。
攻め:優人(ゆうと) 19歳
父親より小柄なものの、整った顔立ちをしているイケメンで周囲からの人気も高い。
だが父である和志に対して恋心と劣情を抱いているため、そんな周囲のことには興味がない。
受け:和志(かずし) 43歳
学生時代から筋トレが趣味で、ガタイがよく体毛も濃い。
元妻とは15年ほど前に離婚し、それ以来息子の優人と2人暮らし。
pixivにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる