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Extra3:幸せのいろどり ―透side―
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「婚約解消だけでも大問題なのに、その理由が他に好きな人がいて、しかもそれが男だなんて」
そう言いながらも、美絵さんは軽蔑している様子もなく、ただ悪戯を思いついた子供のようで……。
「きっと、提携の話は流れるんでしょうね」
勿論、その事は俺も分かっている。だけど……父は、俺が会社を辞めることも、美絵さんとの婚約を解消することも、最初からある程度予想しているような態度だった。
その様子からは、今後の運営に不安など何もないという自信に満ちていた。俺ごときの結婚くらいでは、きっと揺るがないものがあるのだろう。
「社長に言っても別に構わない……。それに俺は、この件で父に勘当されている身なんです」
それはきっと形だけでも責任をとらせる事と、『……おまえは、好きに生きなさい』と言った父の愛情なのだろう。
「だから、俺と美絵さんが結婚しても、きっと坂上社長も何の得にもならないでしょう」
「じゃあ、その彼のご両親は?」
「え?」
直くんのご両親……。その言葉に、俺は初めて焦った。
「その彼のご両親に、息子さんは10歳も年上の男性と身体の関係がありますって言ったら……」
「……そんなこと! 直くんには関係のないことでしょう?」
「じゃあ、決まりですね」
そう言って、嬉しそうに頬をほころばせている美絵さんは、どこか楽しそうだ。
「……2月14日……まで……」
「……え?」
「……ちょっとだけ、想い出をつくるくらい……それくらい、いいでしょう? 足がこんなんじゃ、何かと不安だし……」
だから、実家に帰ったらいいのに……と言いたいところだったけれど、怪我をしてしまったことに、多少の責任も感じていた。
それに、本当に直くんの家族にまで迷惑が及ぶようなことがあったら、取り返しがつかない。
「2月14日まで、本当に、ただ一緒にいるだけでいいんですね?」
「はい」
押し切られてしまった感は否めないが、俺は2月14日までの間、美絵さんの希望を受け入れることにした。
それで、美絵さんが納得してくれるのなら。
俺が彼女にしてきた思わせぶりな態度と、怪我をさせてしまった責任も、こんな事で許してもらえるのなら。
何よりも、直くんに迷惑がかからない為にも、この方法しか、今は無いと思った。
***
その日の夜に神谷さんに連絡を取り、事情を話して、仕事の事と、あと住む所の相談をした。
神谷さんは快く引き受けてくれて、取り敢えず帰ってからの身の振り方は決まっている。
あとは……。
あれから直くんは、どうしているんだろう。結局会えないまま、大阪に来てしまったことが気がかりだった。
最後に逢ったあの夜に、直くんを傷つけたまま、時間だけが過ぎていく。
このまま連絡せずに、逢えない時間が過ぎていけば、もう俺のことなど忘れてしまうかもしれない。
何よりも、あの夜のことを思えば、直くんは俺のことを忘れたいと思っているに違いなかった。
いきさつを教えてくれた光樹先輩も、もう俺に遠慮することなく、直くんに想いをぶつけていくだろう。
遠い距離と、逢えない時間に焦りを感じるのに、勇気がなくて……。
何度も直くんの携帯番号を表示させては、また閉じるを繰り返していた。
そう言いながらも、美絵さんは軽蔑している様子もなく、ただ悪戯を思いついた子供のようで……。
「きっと、提携の話は流れるんでしょうね」
勿論、その事は俺も分かっている。だけど……父は、俺が会社を辞めることも、美絵さんとの婚約を解消することも、最初からある程度予想しているような態度だった。
その様子からは、今後の運営に不安など何もないという自信に満ちていた。俺ごときの結婚くらいでは、きっと揺るがないものがあるのだろう。
「社長に言っても別に構わない……。それに俺は、この件で父に勘当されている身なんです」
それはきっと形だけでも責任をとらせる事と、『……おまえは、好きに生きなさい』と言った父の愛情なのだろう。
「だから、俺と美絵さんが結婚しても、きっと坂上社長も何の得にもならないでしょう」
「じゃあ、その彼のご両親は?」
「え?」
直くんのご両親……。その言葉に、俺は初めて焦った。
「その彼のご両親に、息子さんは10歳も年上の男性と身体の関係がありますって言ったら……」
「……そんなこと! 直くんには関係のないことでしょう?」
「じゃあ、決まりですね」
そう言って、嬉しそうに頬をほころばせている美絵さんは、どこか楽しそうだ。
「……2月14日……まで……」
「……え?」
「……ちょっとだけ、想い出をつくるくらい……それくらい、いいでしょう? 足がこんなんじゃ、何かと不安だし……」
だから、実家に帰ったらいいのに……と言いたいところだったけれど、怪我をしてしまったことに、多少の責任も感じていた。
それに、本当に直くんの家族にまで迷惑が及ぶようなことがあったら、取り返しがつかない。
「2月14日まで、本当に、ただ一緒にいるだけでいいんですね?」
「はい」
押し切られてしまった感は否めないが、俺は2月14日までの間、美絵さんの希望を受け入れることにした。
それで、美絵さんが納得してくれるのなら。
俺が彼女にしてきた思わせぶりな態度と、怪我をさせてしまった責任も、こんな事で許してもらえるのなら。
何よりも、直くんに迷惑がかからない為にも、この方法しか、今は無いと思った。
***
その日の夜に神谷さんに連絡を取り、事情を話して、仕事の事と、あと住む所の相談をした。
神谷さんは快く引き受けてくれて、取り敢えず帰ってからの身の振り方は決まっている。
あとは……。
あれから直くんは、どうしているんだろう。結局会えないまま、大阪に来てしまったことが気がかりだった。
最後に逢ったあの夜に、直くんを傷つけたまま、時間だけが過ぎていく。
このまま連絡せずに、逢えない時間が過ぎていけば、もう俺のことなど忘れてしまうかもしれない。
何よりも、あの夜のことを思えば、直くんは俺のことを忘れたいと思っているに違いなかった。
いきさつを教えてくれた光樹先輩も、もう俺に遠慮することなく、直くんに想いをぶつけていくだろう。
遠い距離と、逢えない時間に焦りを感じるのに、勇気がなくて……。
何度も直くんの携帯番号を表示させては、また閉じるを繰り返していた。
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