327 / 351
Extra3:幸せのいろどり ―透side―
(92)
しおりを挟む
倒れる時に、傍にあった椅子に足がぶつかってしまったらしく、取り敢えず冷やしてみたものの、美絵さんの足の甲は、段々腫れてきて内出血もある。
病院で診てもらうと、左足の甲にヒビが入っていた。
アンクルサポーターで固定して安静にしていれば、2~3週間で治るということだったけれど。
タクシーでマンションまで戻り、リビングのソファーまで俺の肩に寄りかかりながら、なんとか歩ける状態だ。
怪我をした時の状況が状況だけに、俺にも責任がある。
取り敢えず、彼女の父親である社長に連絡しなければ……。そう考えて携帯を取り出すと、「あ、待って」と、美絵さんが声をかけてきた。
「……お父様には、私から電話します」
取ってくださいませんか。と、言う美絵さんに、クラッシックスタイルの電話スタンドに置かれてある受話器を手渡した。
ありがとうございます。と、受話器を受け取る美絵さんからは、さっきの激しい感情は消えていて落ち着いているように見える。
「……あ、もしもしお父様ですか? 美絵ですけど……」
電話の会話を傍で聞いているのも気が引けるので、俺はダイニングテーブルの方へ移動した。
「……実は、足を怪我してしまって。今、動けないんです……」
会話をなるべく聞かないように、俺は他のことを考えようとしていた。
この後、美絵さんを家まで送り届けて、社長に会って、婚約解消の事を話して、辞表を提出しなければならなかった。
それからもう一度ここに戻って、荷物を整理して送り返す手配をして……と、そこまで考えて思い出した。
荷物をどこへ送ればいいのか、決めていなかった。
今まで住んでいたマンションは、継母に引き払われているので、戻ることは出来ない。かと言って、実家に送るわけにもいかないし。
考えあぐねていると、電話をしている美絵さんの声が耳に届いてきた。
「ええ。だから、暫くはここで透さんと一緒にいますので、仕事の方は……ええ、お願いします」
――え?
そこしか聞いていないので、話の内容が理解できなかった。
――ここで一緒にいますと言うのは、今日はまだ暫くここにいると言っているのだろうか。
「透さん、ありがとうございます」
美絵さんは、明るい笑顔で俺に受話器を渡した。
「……あの、社長は何て仰ってました?」
「私が、怪我して動けないと言ったら、じゃあ、透くんに有給休暇を取らせるから、一緒に居てもらいなさいって」
「……え?」
そんなこと、出来るわけがない。本当に社長はそんなことを言ったんだろうか。
「美絵さん、それは無理だよ。俺は婚約も解消して、会社も辞めるつもりで……」
「分かってます。だから……最後くらい私のわがままを聞いてくれませんか?」
「……そんな……結婚しないと分かっているのに、ここで一緒に……なんて駄目だ」
「……じゃあ、いいんですか……?」
美絵さんは少し頬を紅潮させて拗ねたような表情で、ふいっと、視線を逸らして言葉を続けた。
「透さんが私と結婚しない理由をお父様に言ってしまっても?」
病院で診てもらうと、左足の甲にヒビが入っていた。
アンクルサポーターで固定して安静にしていれば、2~3週間で治るということだったけれど。
タクシーでマンションまで戻り、リビングのソファーまで俺の肩に寄りかかりながら、なんとか歩ける状態だ。
怪我をした時の状況が状況だけに、俺にも責任がある。
取り敢えず、彼女の父親である社長に連絡しなければ……。そう考えて携帯を取り出すと、「あ、待って」と、美絵さんが声をかけてきた。
「……お父様には、私から電話します」
取ってくださいませんか。と、言う美絵さんに、クラッシックスタイルの電話スタンドに置かれてある受話器を手渡した。
ありがとうございます。と、受話器を受け取る美絵さんからは、さっきの激しい感情は消えていて落ち着いているように見える。
「……あ、もしもしお父様ですか? 美絵ですけど……」
電話の会話を傍で聞いているのも気が引けるので、俺はダイニングテーブルの方へ移動した。
「……実は、足を怪我してしまって。今、動けないんです……」
会話をなるべく聞かないように、俺は他のことを考えようとしていた。
この後、美絵さんを家まで送り届けて、社長に会って、婚約解消の事を話して、辞表を提出しなければならなかった。
それからもう一度ここに戻って、荷物を整理して送り返す手配をして……と、そこまで考えて思い出した。
荷物をどこへ送ればいいのか、決めていなかった。
今まで住んでいたマンションは、継母に引き払われているので、戻ることは出来ない。かと言って、実家に送るわけにもいかないし。
考えあぐねていると、電話をしている美絵さんの声が耳に届いてきた。
「ええ。だから、暫くはここで透さんと一緒にいますので、仕事の方は……ええ、お願いします」
――え?
そこしか聞いていないので、話の内容が理解できなかった。
――ここで一緒にいますと言うのは、今日はまだ暫くここにいると言っているのだろうか。
「透さん、ありがとうございます」
美絵さんは、明るい笑顔で俺に受話器を渡した。
「……あの、社長は何て仰ってました?」
「私が、怪我して動けないと言ったら、じゃあ、透くんに有給休暇を取らせるから、一緒に居てもらいなさいって」
「……え?」
そんなこと、出来るわけがない。本当に社長はそんなことを言ったんだろうか。
「美絵さん、それは無理だよ。俺は婚約も解消して、会社も辞めるつもりで……」
「分かってます。だから……最後くらい私のわがままを聞いてくれませんか?」
「……そんな……結婚しないと分かっているのに、ここで一緒に……なんて駄目だ」
「……じゃあ、いいんですか……?」
美絵さんは少し頬を紅潮させて拗ねたような表情で、ふいっと、視線を逸らして言葉を続けた。
「透さんが私と結婚しない理由をお父様に言ってしまっても?」
0
お気に入りに追加
463
あなたにおすすめの小説
【R18】息子とすることになりました♡
みんくす
BL
【完結】イケメン息子×ガタイのいい父親が、オナニーをきっかけにセックスして恋人同士になる話。
近親相姦(息子×父)・ハート喘ぎ・濁点喘ぎあり。
章ごとに話を区切っている、短編シリーズとなっています。
最初から読んでいただけると、分かりやすいかと思います。
攻め:優人(ゆうと) 19歳
父親より小柄なものの、整った顔立ちをしているイケメンで周囲からの人気も高い。
だが父である和志に対して恋心と劣情を抱いているため、そんな周囲のことには興味がない。
受け:和志(かずし) 43歳
学生時代から筋トレが趣味で、ガタイがよく体毛も濃い。
元妻とは15年ほど前に離婚し、それ以来息子の優人と2人暮らし。
pixivにも投稿しています。
年上が敷かれるタイプの短編集
あかさたな!
BL
年下が責める系のお話が多めです。
予告なくr18な内容に入ってしまうので、取扱注意です!
全話独立したお話です!
【開放的なところでされるがままな先輩】【弟の寝込みを襲うが返り討ちにあう兄】【浮気を疑われ恋人にタジタジにされる先輩】【幼い主人に狩られるピュアな執事】【サービスが良すぎるエステティシャン】【部室で思い出づくり】【No.1の女王様を屈服させる】【吸血鬼を拾ったら】【人間とヴァンパイアの逆転主従関係】【幼馴染の力関係って決まっている】【拗ねている弟を甘やかす兄】【ドSな執着系執事】【やはり天才には勝てない秀才】
------------------
新しい短編集を出しました。
詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。
娘の競泳コーチを相手にメス堕ちしたイクメンパパ
藤咲レン
BL
【毎日朝7:00に更新します】
既婚ゲイの佐藤ダイゴは娘をスイミングスクールに通わせた。そこにいたインストラクターの山田ケンタに心を奪われ、妻との結婚で封印していたゲイとしての感覚を徐々に思い出し・・・。
キャラ設定
・佐藤ダイゴ。28歳。既婚ゲイ。妻と娘の3人暮らしで愛妻家のイクメンパパ。過去はドMのウケだった。
・山田ケンタ。24歳。体育大学出身で水泳教室インストラクター。子供たちの前では可愛さを出しているが、本当は体育会系キャラでドS。
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
どうすればよかったの…
まい
BL
大企業に務めているエリート(束縛彼氏)と大学生のお話です。
ある日、新(あらた)の束縛に耐えられなくなった唯斗(ゆいと)が別れを切り出すが別れてもらえずにそのまま監禁されてしまいます。
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる