出逢えた幸せ

ずーちゃ

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Extra3:幸せのいろどり ―透side―

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 美絵さんは、俺の手から写真を指で摘むようにしてスッと取り上げると、弱々しく微笑んだ。

「高岡直って、最初女の子の名前だと思いました……」

 そして、写真を眺めがなら「どこからどう見ても女の子にしか見えませんもの」と、まるで独り言のように呟いてから、俺に視線を合わせた。

「最初は、ショックでしたけど……男の子に嫉妬しても始まらないと思い直しました」

 美絵さんは、驚きのあまり椅子から立ち上がっていた俺の目の前までくると、ゆっくりとした動作で俺の胸に顔を埋めた。

「……美絵さん……」

「だって、いくら好きでも男同士では結婚できないでしょう?」

 俺の背中に、そっと美絵さんの腕が回される。

「……私は……大丈夫です。透さんがその人のことを好きでも、ちゃんと妻としての役割を果たしますから……」

 だから……と、言いながら俺を見上げる大きな瞳に強い意志を感じる。

「だからお願いです、私と結婚してください」

「美絵さん、それは……できない」

 縋るように抱きついてくる美絵さんの肩に、そっと手を置いて身体を遠ざけようとすると、逆にしがみ付いてくる。

「好きなんです。ただ、傍にいたいんです……。それだけでいいからっ」

 美絵さんの声は、最後の方は悲痛な叫びのように聞こえて、俺は胸が抉られるような痛みを感じた。

 だけど……だからと言って、その気持ちに応えることはどうしても出来ないのだから。

「美絵さん、落ち着いて」

 そう言って、美絵さんの身体を少し強引に押し返した。

「……う……っ……」

 美絵さんの瞳からまた大粒の涙が零れ落ちて、頬を濡らしている。

「美絵さん、そんな結婚は辛いだけだよ。幸せになんてなれない」

「……私は……私はそれで幸せです。透さんの傍にいるだけでいいのに、何故駄目なんですか? その人とは結婚出来ないのに」

 美絵さんは、そう言いながら大きく首を横に振る。次から次へと溢れる涙を拭おうともせずに。

「美絵さんが、俺と一緒にいるだけで幸せだと言ってくれるのは、とても嬉しいけれど、その気持ちには俺は応えることができない」

 ――そう……俺も一緒にいるだけで……それだけで幸せだと思える人がいる……。

「俺がずっと一緒にいたいと思う人は、直くん……その写真の彼だけなんです」

 俺の言葉に、美絵さんは俯いてしまった。そして小さく呟くような声が聞こえてきた。

「……そんなの、……ない」

「……え?」

 よく聞き取れずに、少しだけ屈んで聞き返すと、美絵さんは涙をいっぱいに溜めた潤んだ瞳で俺を見上げた。

「そんなの、許さない! 世間だって、認めない!」

 そう言って泣きながら、勢いよく俺の首にしがみついてくる。

「――あっ!」

 その反動で、思わず後退った足元に何かがぶつかり、ガタンッと大きな音が部屋に響く。その音と共に、俺は美絵さんに抱きつかれたまま、後ろ向きに床へ倒れてしまった。

 傍にあった椅子も一緒に倒れていて……。

「……っ……」

 咄嗟に頭は庇ったけれど、背中と腰を強打して一瞬息が出来なかった。

「……美絵さん……大丈夫ですか?」

 俺の胸に顔を埋めた形で倒れた美絵さんに声をかけると、顔は上げずに小さい声が返ってくる。

「……痛……、っ」

「え? どこか打ちました?」

「……足が……」

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