302 / 351
Extra3:幸せのいろどり ―透side―
(67)
しおりを挟む
「俺のこと、直くんから訊いていたんですか?」
いくら俺が、直くんのマンションの前にいたからといって、何も知らない光樹先輩が、俺と直くんとの関係に気付くはずはなかった。
光樹先輩は「――まあねー」と、とぼけるように言った後、「透、ちゃんと『俺』って言ってるじゃん」と、嬉しそうに笑った。
「別に、あなたと約束したからってわけじゃありません……」
そんな昔の話をこの人が憶えているなんて意外だなと思いながら、光樹先輩の唇に咥えた煙草の先端の火が、吸うたびに暗い車内で一瞬明るく灯るのを、視界の片隅でぼんやりと眺めていた。
――だけど、今訊きたいのはそんな昔話ではなくて……。
「……直くん……、俺のことを何て言ってたんです?」
「さぁー? 何て言ってたかなー」
光樹先輩はそう言って、口元に笑みを浮かべながらアッシュトレーを引き出し、煙草を指先で弾いて灰を落とす。
「ああ……そう言えば……『透さんは彼氏じゃない』って言ってたっけな」
――彼氏じゃない。
その言葉は、俺の胸の奥に突き刺さる。確かに……言う通りなのに。
「でもまさか、直の言う『透さん』ってのが、透だとは思わなかったから、びっくりした」
光樹先輩は、短くなった煙草をアッシュトレーに押し付けて火を消しながら、くっくっと笑う。
「まさか、透が今も、男を相手にしてるなんてね」
言われて顔が熱くなる。別に、あれから男しか駄目になったというわけでは、なかった。
光樹先輩が、俺の前からいなくなってしまった後、何人か恋人と呼べる人はいたけれど、それは全員女性だったから。
「もしかして、俺とのセックスがよかったから、忘れられなかった?」
「……っ、そんなんじゃ……っ」
慌てて否定する俺の顎を、光樹先輩の指が捕らえた。
「何なら、もう一回試してみる?」
そう言いながら、また距離を縮めてくる。俺は顎を掴んでいた光樹先輩の手を、あわてて払い退けて睨みつけた。
「冗談は、やめてください」
感情を隠しきれない俺に対して、光樹先輩は余裕の表情で笑っている。
「ふふっ、まあ、今は透が直を抱く側みたいだし?」
訊きたいことは、山ほどあった。
直くんと、いつどこで知り合ったのか。
直くんのことを、どう思っているのか。
――何回、直くんの身体を抱いたのか……。
それは、知りたいけれど、知りたくないことばかり。
俺がそうやって考えを巡らせていることなんて知りもせず、光樹先輩が言葉を続ける。
「分かるよ。直は、そこらの女の子より可愛いもんね」
そう言いながら、光樹先輩は2本目の煙草に火を点けた。
「肌なんか、すべすべでさ、吸い付いてくるような感触が堪んないよね」
「……っ」
身体の奥底から、怒りがふつふつと沸いてくるのを感じる。それ以上訊きたくないのに、光樹先輩の言葉は、容赦なく次々と俺の心を抉った。
「ちょっと触れただけで、熱く色づいてく肌に、そそられちゃったよ」
「……やめてください」
言葉を遮ろうと、発した声は小さすぎて、光樹先輩は訊きたくもない話を喋り続けた。
「中に挿れたらさー、めちゃ狭くて、それでいてトロトロでさ、しかも締め付け具合が気持ちいいんだよねー」
「……やめ…… っ」
「俺、もう止まんなくなっちゃって、何度も何度も直の中を……」
「――やめろっ!」
気が付いたら、今まで出したことのないような大きな声で怒鳴っていた。
いくら俺が、直くんのマンションの前にいたからといって、何も知らない光樹先輩が、俺と直くんとの関係に気付くはずはなかった。
光樹先輩は「――まあねー」と、とぼけるように言った後、「透、ちゃんと『俺』って言ってるじゃん」と、嬉しそうに笑った。
「別に、あなたと約束したからってわけじゃありません……」
そんな昔の話をこの人が憶えているなんて意外だなと思いながら、光樹先輩の唇に咥えた煙草の先端の火が、吸うたびに暗い車内で一瞬明るく灯るのを、視界の片隅でぼんやりと眺めていた。
――だけど、今訊きたいのはそんな昔話ではなくて……。
「……直くん……、俺のことを何て言ってたんです?」
「さぁー? 何て言ってたかなー」
光樹先輩はそう言って、口元に笑みを浮かべながらアッシュトレーを引き出し、煙草を指先で弾いて灰を落とす。
「ああ……そう言えば……『透さんは彼氏じゃない』って言ってたっけな」
――彼氏じゃない。
その言葉は、俺の胸の奥に突き刺さる。確かに……言う通りなのに。
「でもまさか、直の言う『透さん』ってのが、透だとは思わなかったから、びっくりした」
光樹先輩は、短くなった煙草をアッシュトレーに押し付けて火を消しながら、くっくっと笑う。
「まさか、透が今も、男を相手にしてるなんてね」
言われて顔が熱くなる。別に、あれから男しか駄目になったというわけでは、なかった。
光樹先輩が、俺の前からいなくなってしまった後、何人か恋人と呼べる人はいたけれど、それは全員女性だったから。
「もしかして、俺とのセックスがよかったから、忘れられなかった?」
「……っ、そんなんじゃ……っ」
慌てて否定する俺の顎を、光樹先輩の指が捕らえた。
「何なら、もう一回試してみる?」
そう言いながら、また距離を縮めてくる。俺は顎を掴んでいた光樹先輩の手を、あわてて払い退けて睨みつけた。
「冗談は、やめてください」
感情を隠しきれない俺に対して、光樹先輩は余裕の表情で笑っている。
「ふふっ、まあ、今は透が直を抱く側みたいだし?」
訊きたいことは、山ほどあった。
直くんと、いつどこで知り合ったのか。
直くんのことを、どう思っているのか。
――何回、直くんの身体を抱いたのか……。
それは、知りたいけれど、知りたくないことばかり。
俺がそうやって考えを巡らせていることなんて知りもせず、光樹先輩が言葉を続ける。
「分かるよ。直は、そこらの女の子より可愛いもんね」
そう言いながら、光樹先輩は2本目の煙草に火を点けた。
「肌なんか、すべすべでさ、吸い付いてくるような感触が堪んないよね」
「……っ」
身体の奥底から、怒りがふつふつと沸いてくるのを感じる。それ以上訊きたくないのに、光樹先輩の言葉は、容赦なく次々と俺の心を抉った。
「ちょっと触れただけで、熱く色づいてく肌に、そそられちゃったよ」
「……やめてください」
言葉を遮ろうと、発した声は小さすぎて、光樹先輩は訊きたくもない話を喋り続けた。
「中に挿れたらさー、めちゃ狭くて、それでいてトロトロでさ、しかも締め付け具合が気持ちいいんだよねー」
「……やめ…… っ」
「俺、もう止まんなくなっちゃって、何度も何度も直の中を……」
「――やめろっ!」
気が付いたら、今まで出したことのないような大きな声で怒鳴っていた。
0
お気に入りに追加
463
あなたにおすすめの小説
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
3人の弟に逆らえない
ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。
主人公:高校2年生の瑠璃
長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。
次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。
三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい?
3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。
しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか?
そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。
調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
娘の競泳コーチを相手にメス堕ちしたイクメンパパ
藤咲レン
BL
【毎日朝7:00に更新します】
既婚ゲイの佐藤ダイゴは娘をスイミングスクールに通わせた。そこにいたインストラクターの山田ケンタに心を奪われ、妻との結婚で封印していたゲイとしての感覚を徐々に思い出し・・・。
キャラ設定
・佐藤ダイゴ。28歳。既婚ゲイ。妻と娘の3人暮らしで愛妻家のイクメンパパ。過去はドMのウケだった。
・山田ケンタ。24歳。体育大学出身で水泳教室インストラクター。子供たちの前では可愛さを出しているが、本当は体育会系キャラでドS。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる