出逢えた幸せ

ずーちゃ

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Extra3:幸せのいろどり ―透side―

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 ――気が重い……。

 久しぶりに帰った実家のダイニングに並ぶ豪華なコース料理。

 ケータリングのシェフが、すぐそこで実演料理をしている。

 でも、俺は早くこの空間から逃れたくて、料理の味なんて分からない。

「いやー、でもこうやって両家が揃って食事をするのも久しぶりですね」

 そう言って、笑うのは、俺が勤めている会社の坂上社長。そしてその横には、親同士が決めた許婚の美絵さんと、社長夫人。

「本当ですわね。でも、これからは、色々とお会いする機会も多くなりそうですわ」

 俺の父親の後妻で、……継母の美智代が、高らかに笑う。

 父は、何も言わずに、ただ口元に笑みを浮かべてるだけで、いつも場を取り仕切るのは、継母だった。

「来年度はいよいよ、業務提携の話も進むことだし、そろそろ透くんも大阪本社の方に来てもらわないとな」

「そうですわね。では、正式に婚約は年が明けたら直ぐって事になりますわね」

「そうすると、結婚式は6月辺りにしてしまってはどうだろう」

 黙っていると、どんどん話が進んでいく。

「あの……結婚はまだ先でも……」

「あら、透さん、早すぎることなんてありませんわよ。美絵さんをあまりお待たせしては申し訳ないですし」

 いつもそうだ。俺の主張なんて、すぐにこの人に掻き消されて、何も言えなくなってしまう。

「まあまあ、取りあえず、春の移動で透くんには大阪に来てもらう事になるだろうから、そのつもりでいてくれるかね、透くん」

 俺はこの仕事は好きだった。

 父の会社がもっと規模が小さかった頃の話だけど。

 施主様の希望を訊いて、プランを立てて設計をして、できる限りの要望に応えて、家を造り上げて、喜んでもらえた時の笑顔が見たくて、この職業を選んだ。

 だけど……。

 段々と大きくなる会社の中で、家の設計もパターン化されて、量産されていく。

 そこに住む人の為の家を造るというのではなくて、ただ商品を売ることが最優先される。

 それは、そういうものなんだと理解はしているけれど、心のどこかで燻っているのは反抗心のようなものだろうか。

 父の会社を継ぐ為に、建築士や、その他の資格を取ったわけではない……と。

 なのに……気が付けば、自分の周りの環境に流されている。

 本当は、もっと違う何かを……やりたい事があったような気がするのに、俺はその環境を受け入れてしまっていた。

 そのことに、あまり疑問も抱かなかったのは、無意識に色んなことを諦めていたのかもしれない。

 ――恋も、結婚も、仕事も。

 だから、親が決めた許婚のことも、今まではあまり深く考えていなかった。

「美絵さん、今夜は年が明けたら、透さんと二人で初詣にでも行ってきたらどうかしら」

 考え込んでいると、継母が、美絵さんに話しかけている内容が聞こえてきて、我に返った。

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