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Extra1:君の初めては全部……
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目隠ししていたネクタイは、俺の涙でグチョグチョに濡れている。
「どうしたの? どこか痛かったりした?」
背中を宥めるように何度も摩りながら、優しい声で訊いてくれる。俺は透さんに抱きついたまま、首を横に振った。
透さんは、みっきーのこと、もう大丈夫だからって言ってくれてたけど、でもやっぱり、あの時の事は、今でも俺の心の隅に引っかかっていて……。
しかも、初めてドライを経験したのがあの時だったなんて、本当に俺もう……、それダメじゃんって思う。お仕置きされても当然なんだけど、いや、透さんのお仕置きならいつでもOKなんだけど! でも透さんの顔を見ることが出来ないエッチなんて、やっぱり我慢できなかった。
「ごめんなさ……、透さん…… っ、俺、……やっぱ、我慢できなくっ……って」
「え……? 我慢って? 何を?」
透さんは、しゃくりあげながら途切れ途切れに答える俺の頬を、優しく両手で包んで、覗き込むようにして目線を合わせた。
「透さんの顔が見えないのっ、我慢できなっ……だからっ、ごめん、なさ……っ」
「なんで……、謝るの?」
「……だって……、目隠ししたのは、お、お仕置きだったんでしょ?」
俺がそう言うと、それまで心配そうな表情で俺を見つめていた透さんの口元が緩んで、プッと吹き出して笑われてしまった。
「お仕置きって……」
「ち……、違うの?」
「なんでそう思ったの?」
「だって、俺が初めてドライを経験した時の相手が透さんじゃなかった……から……?」
「ああ……、それは……」
透さんは、そこで一旦言葉を区切り、俺の体をギュッと抱き寄せた。
「光樹先輩に、直くんの初めてを盗られたのは、ちょっと悔しいけど……」
耳元で呟くような声が聞こえて、胸がキュッと掴まれたように痛くて。
「やっぱり俺が悪いからっ……。あの時俺がみっきーと、あんなことに——っん……」
勢いよく顔を上げて、途中まで言いかけた言葉は、唇を透さんに人差し指で押さえられて遮られてしまう。
「直くん、あの時の事、まだ気にしていたの?」
そう言って、俺の髪を撫でながら見つめてくる瞳はすごく優しいけど、俺は応えられなくて俯いてしまった。
透さんは、そんな俺の頭をポンポンと優しく叩いて、クスっと小さく笑う。
「でもね、光樹先輩のことがあったから、俺は自分の気持ちに気付くことができたんだよ」
心地良く響く優しい声に、不思議と気持ちは落ち着いていく。
頭を引き寄せられて、俺は透さんの肩に顔を埋めた。
「生まれて初めて嫉妬して、生まれて初めて手放したくないと心から思った。生まれて初めて本気で人を好きになった」
頭のてっぺんに、チュッとキスを落とされて顔を上げれば、優しい瞳に見つめられていた。
「直くんも……、そうじゃない?」
――俺も……そう。本気で好きだと思えたのは、透さんが初めてだった。
あの時、考えて悩んで後悔することで、気付いた気持ちが確かにあったから。と言って、透さんは少しはにかむように微笑んだ。
「直くんが、俺の初恋なんだよ」
「……透さん……」
「少しだけ遠回りしたかもしれないけどね」
どうしよう……。俺、やっぱり透さんが大好き過ぎる。
「光樹先輩に直くんの初めてを先に盗られたのは確かに悔しいけど、でもこれからは、直くんの初めては全部……俺も一緒に経験できるんだから」
――だから、一緒に初めての経験をいっぱいしようね。
「どうしたの? どこか痛かったりした?」
背中を宥めるように何度も摩りながら、優しい声で訊いてくれる。俺は透さんに抱きついたまま、首を横に振った。
透さんは、みっきーのこと、もう大丈夫だからって言ってくれてたけど、でもやっぱり、あの時の事は、今でも俺の心の隅に引っかかっていて……。
しかも、初めてドライを経験したのがあの時だったなんて、本当に俺もう……、それダメじゃんって思う。お仕置きされても当然なんだけど、いや、透さんのお仕置きならいつでもOKなんだけど! でも透さんの顔を見ることが出来ないエッチなんて、やっぱり我慢できなかった。
「ごめんなさ……、透さん…… っ、俺、……やっぱ、我慢できなくっ……って」
「え……? 我慢って? 何を?」
透さんは、しゃくりあげながら途切れ途切れに答える俺の頬を、優しく両手で包んで、覗き込むようにして目線を合わせた。
「透さんの顔が見えないのっ、我慢できなっ……だからっ、ごめん、なさ……っ」
「なんで……、謝るの?」
「……だって……、目隠ししたのは、お、お仕置きだったんでしょ?」
俺がそう言うと、それまで心配そうな表情で俺を見つめていた透さんの口元が緩んで、プッと吹き出して笑われてしまった。
「お仕置きって……」
「ち……、違うの?」
「なんでそう思ったの?」
「だって、俺が初めてドライを経験した時の相手が透さんじゃなかった……から……?」
「ああ……、それは……」
透さんは、そこで一旦言葉を区切り、俺の体をギュッと抱き寄せた。
「光樹先輩に、直くんの初めてを盗られたのは、ちょっと悔しいけど……」
耳元で呟くような声が聞こえて、胸がキュッと掴まれたように痛くて。
「やっぱり俺が悪いからっ……。あの時俺がみっきーと、あんなことに——っん……」
勢いよく顔を上げて、途中まで言いかけた言葉は、唇を透さんに人差し指で押さえられて遮られてしまう。
「直くん、あの時の事、まだ気にしていたの?」
そう言って、俺の髪を撫でながら見つめてくる瞳はすごく優しいけど、俺は応えられなくて俯いてしまった。
透さんは、そんな俺の頭をポンポンと優しく叩いて、クスっと小さく笑う。
「でもね、光樹先輩のことがあったから、俺は自分の気持ちに気付くことができたんだよ」
心地良く響く優しい声に、不思議と気持ちは落ち着いていく。
頭を引き寄せられて、俺は透さんの肩に顔を埋めた。
「生まれて初めて嫉妬して、生まれて初めて手放したくないと心から思った。生まれて初めて本気で人を好きになった」
頭のてっぺんに、チュッとキスを落とされて顔を上げれば、優しい瞳に見つめられていた。
「直くんも……、そうじゃない?」
――俺も……そう。本気で好きだと思えたのは、透さんが初めてだった。
あの時、考えて悩んで後悔することで、気付いた気持ちが確かにあったから。と言って、透さんは少しはにかむように微笑んだ。
「直くんが、俺の初恋なんだよ」
「……透さん……」
「少しだけ遠回りしたかもしれないけどね」
どうしよう……。俺、やっぱり透さんが大好き過ぎる。
「光樹先輩に直くんの初めてを先に盗られたのは確かに悔しいけど、でもこれからは、直くんの初めては全部……俺も一緒に経験できるんだから」
――だから、一緒に初めての経験をいっぱいしようね。
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