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第四章:想う心と○○な味の……
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現実を認める事が出来ない。
これは何かの間違いだ、透さんが何も言わずにいなくなる筈がない。
頭の中はその事ばかり考えていて、自分が今歩いているという意識もなく、歩く速度は今にも止まりそうなほど遅い。なのに、足は勝手に駅に向かっている。
――俺、いったい何処に行こうとしているんだろう。
透さんに会う為の術は、もう何もないのに。
ふと冷たい雫が頬に落ちたのを感じて、重い足を止めた。
「……雪? ……みぞれか」
雨の混じった雪が降り始め、髪を濡らしていた。
誰もが足を速める中、止めてしまった足を動かすのも忘れ、道行く人達を眺めていた。
まるで、世界中の人がどこかに立ち去り、俺独りだけが、ここに置いて行かれたような気分だった。
透さんも、俺を置いて行ってしまった。何も言わずに……別れの言葉さえもなく。
でもそれが、透さんの気持ちなんだろう。
誰とでも簡単に身体の関係をもつような奴を、透さんが本気で好きになるわけがなかった。
もう二度と会いたくないと、透さんが思っていても仕方がない事だと思う。
でも……、やっと気付いたのに……。
駄目でも何でも、好きという気持ちだけは伝えたかった。最後でもいいから。
その時、不意にポケットの中の携帯が振動して着信を知らせた。
『ハロ~~』
一瞬だけ、透さんかもと思って急いで出れば、聞こえてきたのは、みっきーの陽気な声だった。
「……みっきー?」
『そーだよー、直、体調はもう良くなった?』
みっきーの声を聞くのは、俺がインフルエンザでダウンしてた時、一度だけ様子を見に来てくれて以来だった。
「もう、治ったよ……」
『今日は、とーるさんと一緒かなー? バレンタインだもんねー』
「……」
みっきーの問いに、言葉は詰まってしまう。
『……あれ? なーお? 聞こえてるー?』
「……うん、聞こえてるよ」
『どうした? 元気なくない? 何かあった?』
「やだな、別に……、何も無いってば」
『……直? なんでも言ってくれないと、お兄さん寂しくって死んじゃう』
いつものみっきーの冗談口調が、硬く強張っていた気持ちを、少しだけ和ませてくれる。
同時に胸に熱いものが込み上げて、目の前が涙で滲んでいく。
「ホント……、なんでもないから……」
『直、無理するな』
電話の向こうから真剣で、それでいて優しい声が聞こえてきた。
なるべく、悟られないように喋っているつもりでも、心の中の喪失感は隠すことは出来なかったらしくて、呆気なくみっきーに見破られていた。
「……みっき、俺……、一緒にメキシコ行こうかな……」
これは何かの間違いだ、透さんが何も言わずにいなくなる筈がない。
頭の中はその事ばかり考えていて、自分が今歩いているという意識もなく、歩く速度は今にも止まりそうなほど遅い。なのに、足は勝手に駅に向かっている。
――俺、いったい何処に行こうとしているんだろう。
透さんに会う為の術は、もう何もないのに。
ふと冷たい雫が頬に落ちたのを感じて、重い足を止めた。
「……雪? ……みぞれか」
雨の混じった雪が降り始め、髪を濡らしていた。
誰もが足を速める中、止めてしまった足を動かすのも忘れ、道行く人達を眺めていた。
まるで、世界中の人がどこかに立ち去り、俺独りだけが、ここに置いて行かれたような気分だった。
透さんも、俺を置いて行ってしまった。何も言わずに……別れの言葉さえもなく。
でもそれが、透さんの気持ちなんだろう。
誰とでも簡単に身体の関係をもつような奴を、透さんが本気で好きになるわけがなかった。
もう二度と会いたくないと、透さんが思っていても仕方がない事だと思う。
でも……、やっと気付いたのに……。
駄目でも何でも、好きという気持ちだけは伝えたかった。最後でもいいから。
その時、不意にポケットの中の携帯が振動して着信を知らせた。
『ハロ~~』
一瞬だけ、透さんかもと思って急いで出れば、聞こえてきたのは、みっきーの陽気な声だった。
「……みっきー?」
『そーだよー、直、体調はもう良くなった?』
みっきーの声を聞くのは、俺がインフルエンザでダウンしてた時、一度だけ様子を見に来てくれて以来だった。
「もう、治ったよ……」
『今日は、とーるさんと一緒かなー? バレンタインだもんねー』
「……」
みっきーの問いに、言葉は詰まってしまう。
『……あれ? なーお? 聞こえてるー?』
「……うん、聞こえてるよ」
『どうした? 元気なくない? 何かあった?』
「やだな、別に……、何も無いってば」
『……直? なんでも言ってくれないと、お兄さん寂しくって死んじゃう』
いつものみっきーの冗談口調が、硬く強張っていた気持ちを、少しだけ和ませてくれる。
同時に胸に熱いものが込み上げて、目の前が涙で滲んでいく。
「ホント……、なんでもないから……」
『直、無理するな』
電話の向こうから真剣で、それでいて優しい声が聞こえてきた。
なるべく、悟られないように喋っているつもりでも、心の中の喪失感は隠すことは出来なかったらしくて、呆気なくみっきーに見破られていた。
「……みっき、俺……、一緒にメキシコ行こうかな……」
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