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第四章:想う心と○○な味の……
(19)
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「なんか、腹減ったな……」
よく考えたら、みっきーの店で軽くサンドイッチを食べただけだったのを思い出した。
あんまり食べずに、酒ばっか飲んじゃってたな。
「なんか無いかなぁ……」
言いながら、啓太の持ってきたダンボールから、ゴソゴソとみかんを取り出してテーブルの上に置いた。
「酒に合うかなぁ、みかん」
自分の猪口に、なみなみと酒を手酌しで注いで、みかんを口に入れる。
「結構いける……」
「どれどれ……俺も……え……? いけるか? これ。あんま合わないと思うんだけど?」
「そんなこと言うなら食うなよ」
「あっ、全部自分のもんにすんなよ。このみかん、俺が持ってきてやったんだぞ」
男二人で、馬鹿な事を言い合いながら、みかんをつまみにして酒を飲んで、もうそろそろ寝るか……と思った頃。
「あっ! そうだっ!」
いきなり啓太が、思い出したように上を見上げてデカい声を出したから、俺は酒をなみなみと注いだ猪口を、落としそうになったじゃないか!
「なんだよ、いきなりぃ」
「なあ? その透さんて人さ、身長は180をちょっと越えたくらい?」
「……んー、それくらいかな……?」
「んで、さらさらで、ツヤツヤの黒い髪?」
「うん……なんで?」
「俺、今日その人に会ったかも……」
――えっ?!
「どこで? どこで会ったんだよ?」
その一言で、眠気も吹っ飛んで、思わず啓太の肩を両手で掴んでガクガクと揺さぶってしまった。
「ああぅあぅあぅ、おおぃ、やめろって、酔いが回るっ!」
「あ? ああ、ごめん。んで、どこで会ったんだ?」
俺は 啓太の肩を掴んでいた手を離し、姿勢を正して啓太の答えを待つ。
「どこって、ここの……直の部屋の前だよ」
「……え?」
俺の部屋の前?! 透さん、ここに来てたってこと?
「俺、10時くらいにも、野菜持ってここに来たんだよ。そしたらドアの前にコートを着た男の人が立ってて……」
「うん、それで? 何か言ってた?」
啓太にその時の状況を詳しく訊きたいのに、勝手に心臓がバクバクして、身体が震えて息が上がる。
「直が留守だから帰るとこみたいだったんで、俺でよければ御用件をお伺いしますがって言ったら……」
「うん…」
「また来るからいいって、帰ってった」
「えーーーっ!?」
なんと言うすれ違い……。
俺が透さんのマンションで待っている時、透さんは俺の部屋の前で待っていた?!
「なんで……その話を先に言わないんだよ、啓太ぁ」
と、言ってみたけど、もちろん啓太が悪いわけじゃない。
帰ってきた時点で聞いていたとしても、終電もなくなっている時間じゃ、どうにもならなかった。
「ごめんって、悪かったって。ほらもっと飲め……ってもう空っぽかよ」
途中から常温で呑んでいた四合瓶の中身は、もうとっくになくなっていた。
啓太は、項垂れてる俺の頭を撫でながら、慰めてくれているんだけど、俺……、なんだか……。
「けいたぁ……」
「ん? どうした? ビールでも飲むか?」
いや、アルコールはもういらない……。
「なんか俺……、やばい……、気持ちわりぃ」
「えっ!?」
頭を撫でてくれている啓太に、寄りかかる。
「……ぅ……、」
「うわっ、ちょっ、ちょっと待てっ!! ここで吐くなっ! トイレ! トイレまで我慢しろ!」
啓太は、慌てて俺を支えながら、トイレまで連れて行ってくれた。ワンルームなのに、こんなにトイレが遠く感じたのは初めてだ。
「うーーーー」
トイレの便器の前に座り込んでる俺の背中を、啓太が擦ってくれてる。
「透さんとすれ違いだった話に、悪酔いでもしたか?」
――あぁ、情けない……。日本酒なんてもう飲むもんか。
気持ち悪さと戦いながら薄れゆく意識の中で、それでも……透さんが会いに来てくれたんだって事が、なんだか嬉しくて嬉しくて。
「……直、お前……、何泣きながら吐いてんだよ」
多分、嬉し泣きだったと思うけど、俺は自分が泣いてる事も、啓太のその言葉も、翌日にはまったく覚えていなかった。
よく考えたら、みっきーの店で軽くサンドイッチを食べただけだったのを思い出した。
あんまり食べずに、酒ばっか飲んじゃってたな。
「なんか無いかなぁ……」
言いながら、啓太の持ってきたダンボールから、ゴソゴソとみかんを取り出してテーブルの上に置いた。
「酒に合うかなぁ、みかん」
自分の猪口に、なみなみと酒を手酌しで注いで、みかんを口に入れる。
「結構いける……」
「どれどれ……俺も……え……? いけるか? これ。あんま合わないと思うんだけど?」
「そんなこと言うなら食うなよ」
「あっ、全部自分のもんにすんなよ。このみかん、俺が持ってきてやったんだぞ」
男二人で、馬鹿な事を言い合いながら、みかんをつまみにして酒を飲んで、もうそろそろ寝るか……と思った頃。
「あっ! そうだっ!」
いきなり啓太が、思い出したように上を見上げてデカい声を出したから、俺は酒をなみなみと注いだ猪口を、落としそうになったじゃないか!
「なんだよ、いきなりぃ」
「なあ? その透さんて人さ、身長は180をちょっと越えたくらい?」
「……んー、それくらいかな……?」
「んで、さらさらで、ツヤツヤの黒い髪?」
「うん……なんで?」
「俺、今日その人に会ったかも……」
――えっ?!
「どこで? どこで会ったんだよ?」
その一言で、眠気も吹っ飛んで、思わず啓太の肩を両手で掴んでガクガクと揺さぶってしまった。
「ああぅあぅあぅ、おおぃ、やめろって、酔いが回るっ!」
「あ? ああ、ごめん。んで、どこで会ったんだ?」
俺は 啓太の肩を掴んでいた手を離し、姿勢を正して啓太の答えを待つ。
「どこって、ここの……直の部屋の前だよ」
「……え?」
俺の部屋の前?! 透さん、ここに来てたってこと?
「俺、10時くらいにも、野菜持ってここに来たんだよ。そしたらドアの前にコートを着た男の人が立ってて……」
「うん、それで? 何か言ってた?」
啓太にその時の状況を詳しく訊きたいのに、勝手に心臓がバクバクして、身体が震えて息が上がる。
「直が留守だから帰るとこみたいだったんで、俺でよければ御用件をお伺いしますがって言ったら……」
「うん…」
「また来るからいいって、帰ってった」
「えーーーっ!?」
なんと言うすれ違い……。
俺が透さんのマンションで待っている時、透さんは俺の部屋の前で待っていた?!
「なんで……その話を先に言わないんだよ、啓太ぁ」
と、言ってみたけど、もちろん啓太が悪いわけじゃない。
帰ってきた時点で聞いていたとしても、終電もなくなっている時間じゃ、どうにもならなかった。
「ごめんって、悪かったって。ほらもっと飲め……ってもう空っぽかよ」
途中から常温で呑んでいた四合瓶の中身は、もうとっくになくなっていた。
啓太は、項垂れてる俺の頭を撫でながら、慰めてくれているんだけど、俺……、なんだか……。
「けいたぁ……」
「ん? どうした? ビールでも飲むか?」
いや、アルコールはもういらない……。
「なんか俺……、やばい……、気持ちわりぃ」
「えっ!?」
頭を撫でてくれている啓太に、寄りかかる。
「……ぅ……、」
「うわっ、ちょっ、ちょっと待てっ!! ここで吐くなっ! トイレ! トイレまで我慢しろ!」
啓太は、慌てて俺を支えながら、トイレまで連れて行ってくれた。ワンルームなのに、こんなにトイレが遠く感じたのは初めてだ。
「うーーーー」
トイレの便器の前に座り込んでる俺の背中を、啓太が擦ってくれてる。
「透さんとすれ違いだった話に、悪酔いでもしたか?」
――あぁ、情けない……。日本酒なんてもう飲むもんか。
気持ち悪さと戦いながら薄れゆく意識の中で、それでも……透さんが会いに来てくれたんだって事が、なんだか嬉しくて嬉しくて。
「……直、お前……、何泣きながら吐いてんだよ」
多分、嬉し泣きだったと思うけど、俺は自分が泣いてる事も、啓太のその言葉も、翌日にはまったく覚えていなかった。
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