出逢えた幸せ

ずーちゃ

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第四章:想う心と○○な味の……

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「なんか、腹減ったな……」

 よく考えたら、みっきーの店で軽くサンドイッチを食べただけだったのを思い出した。

 あんまり食べずに、酒ばっか飲んじゃってたな。

「なんか無いかなぁ……」

 言いながら、啓太の持ってきたダンボールから、ゴソゴソとみかんを取り出してテーブルの上に置いた。

「酒に合うかなぁ、みかん」

 自分の猪口に、なみなみと酒を手酌しで注いで、みかんを口に入れる。

「結構いける……」

「どれどれ……俺も……え……? いけるか? これ。あんま合わないと思うんだけど?」

「そんなこと言うなら食うなよ」

「あっ、全部自分のもんにすんなよ。このみかん、俺が持ってきてやったんだぞ」

 男二人で、馬鹿な事を言い合いながら、みかんをつまみにして酒を飲んで、もうそろそろ寝るか……と思った頃。

「あっ! そうだっ!」

 いきなり啓太が、思い出したように上を見上げてデカい声を出したから、俺は酒をなみなみと注いだ猪口を、落としそうになったじゃないか!

「なんだよ、いきなりぃ」

「なあ? その透さんて人さ、身長は180をちょっと越えたくらい?」

「……んー、それくらいかな……?」

「んで、さらさらで、ツヤツヤの黒い髪?」

「うん……なんで?」

「俺、今日その人に会ったかも……」

 ――えっ?!

「どこで? どこで会ったんだよ?」

 その一言で、眠気も吹っ飛んで、思わず啓太の肩を両手で掴んでガクガクと揺さぶってしまった。

「ああぅあぅあぅ、おおぃ、やめろって、酔いが回るっ!」

「あ? ああ、ごめん。んで、どこで会ったんだ?」

 俺は 啓太の肩を掴んでいた手を離し、姿勢を正して啓太の答えを待つ。

「どこって、ここの……直の部屋の前だよ」

「……え?」

 俺の部屋の前?! 透さん、ここに来てたってこと?

「俺、10時くらいにも、野菜持ってここに来たんだよ。そしたらドアの前にコートを着た男の人が立ってて……」

「うん、それで? 何か言ってた?」

 啓太にその時の状況を詳しく訊きたいのに、勝手に心臓がバクバクして、身体が震えて息が上がる。

「直が留守だから帰るとこみたいだったんで、俺でよければ御用件をお伺いしますがって言ったら……」

「うん…」

「また来るからいいって、帰ってった」

「えーーーっ!?」

 なんと言うすれ違い……。

 俺が透さんのマンションで待っている時、透さんは俺の部屋の前で待っていた?!

「なんで……その話を先に言わないんだよ、啓太ぁ」

 と、言ってみたけど、もちろん啓太が悪いわけじゃない。

 帰ってきた時点で聞いていたとしても、終電もなくなっている時間じゃ、どうにもならなかった。

「ごめんって、悪かったって。ほらもっと飲め……ってもう空っぽかよ」

 途中から常温で呑んでいた四合瓶の中身は、もうとっくになくなっていた。

 啓太は、項垂れてる俺の頭を撫でながら、慰めてくれているんだけど、俺……、なんだか……。

「けいたぁ……」

「ん? どうした? ビールでも飲むか?」

 いや、アルコールはもういらない……。

「なんか俺……、やばい……、気持ちわりぃ」

「えっ!?」

 頭を撫でてくれている啓太に、寄りかかる。

「……ぅ……、」

「うわっ、ちょっ、ちょっと待てっ!! ここで吐くなっ! トイレ! トイレまで我慢しろ!」

 啓太は、慌てて俺を支えながら、トイレまで連れて行ってくれた。ワンルームなのに、こんなにトイレが遠く感じたのは初めてだ。

「うーーーー」

 トイレの便器の前に座り込んでる俺の背中を、啓太が擦ってくれてる。

「透さんとすれ違いだった話に、悪酔いでもしたか?」

 ――あぁ、情けない……。日本酒なんてもう飲むもんか。

 気持ち悪さと戦いながら薄れゆく意識の中で、それでも……透さんが会いに来てくれたんだって事が、なんだか嬉しくて嬉しくて。

「……直、お前……、何泣きながら吐いてんだよ」

 多分、嬉し泣きだったと思うけど、俺は自分が泣いてる事も、啓太のその言葉も、翌日にはまったく覚えていなかった。

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