出逢えた幸せ

ずーちゃ

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第四章:想う心と○○な味の……

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「桜川先輩……?」

 桜川先輩は、ずんずんと一直線に俺を目指して歩いてくる。眼鏡の奥の眼が怖いんですけど……!

「あ、あの?」

「ちょっと話がある」

 そう言うと、桜川先輩は俺の手首を掴んで、すぐ傍にある路地へ入っていく。

 桜川先輩とは、みっきーの部屋で会ってからも、みっきーの店や学食とかで時々顔を合わせる機会はあった。

 何か言われたりされたりって事は無かったけれど、新年会の時の事もあって、やっぱり苦手なのは変わりない。

 それは桜川先輩にしても同じだと思うのに、いったい何の用があるんだろう。しかもこんな人気ひとけのない路地裏に。

 新年会でのあの屈辱が頭を過ぎって、今すぐに掴まれた手を振り払って逃げ出したい衝動に駆られる。

 大通りからかなり離れた角を曲がったところで、俺は建物の壁を背に立たされて、やっと掴まれた手を放してもらえた。

「あ、あの、何ですか? 話って」

 心の中は、早く透さんのマンションへ行きたいという気持ちで満ちている。どんな事を言われるのか不安だけど、早く用件を聞いて終わらせたい。

「そんなに慌てて、何か用でもあるわけ?」

「はい。だからちょっと急いでて……。俺に何か用があるなら……」

 早く言って下さいと、言いかけたところで、肩を押されて後ろの壁に背中がぶつかる。

「……ッ」

 そんなに強い力じゃないけど、予測していなかった背中への衝撃に思わず小さく呻いた。

「な、なんですかっ?」

 俺の顔を挟むように壁に両手をついて、ジロジロと顔を見られたら誰だっていい気なんてしない。

「……お前、兄貴と付き合ってんの?」

 ――ああ……。

 また、俺がいい加減な気持ちで、みっきーと身体の関係をもっていると思っているんだな。

 あの新年会の夜、みっきーと身体を繋げて以来、突然軽くキスをされたりとか、抱きしめられたりとかはあったけど、桜川先輩が考えているような事はしていない。みっきーは、俺がその気になるのを待っていると言っていたから。

 でも運が悪いのか、さっきのスタッフルームで見られた場面は、どう考えてもそういう行為をしようとしていたと、誤解されても仕方がない。

 しかも場所が仕事場である店の中って言うのも、桜川先輩の怒りを買うには十分すぎる要因だよね。

「俺、みっ……お兄さんとは付き合ってないです」

 言いながら、恐る恐る桜川先輩の顔を見上げると、眼鏡の奥の冷たい瞳にじっと見据えられる。

「恋人でもないのに、あんな事するわけ?」

 ――ああ、やっぱり……さっきの場面だけ見たらそうなるよな……。

「あ、あの、本当にさっきのは、その……ふざけていただけで。お兄さんには……その……色々相談に乗って貰ったりしていて……」

 みっきーとの関係を一言で説明するのは、結構難しい。身体の関係はあれ以来無いけど、でもあったのは事実なわけで……。

「こないだ、兄貴のマンションで、体中にキスマーク付けていたよな? それで兄貴はお前の事を本気で好きだと言っていた」

「あ……」

 確かにそうなんだけど……。

「あの時は、その……確かに。でも、あれからは何も無いんです、本当に」

 しどろもどろの俺に、相変わらず鋭い視線が突き刺さってきて、どうにも萎縮してしまう。

「俺、今までお兄さんに……甘え過ぎていました」

 そう……、いつも傍にいてくれて、何かと元気付けてくれたり心配してくれるみっきーに俺は甘えていた。みっきーの気持ちも考えずに。

「だから……」

 ――これ以上甘えられない。

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