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第三章:身体と愛と涙味の……
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『相手は誰でもいいって事だね……』
『気持ち良ければ、それでいいんだよね?』
――透さんの言葉。
確かに、今まではそう思ってたんだ。さっき透さんに言われた時も、別に悪い事してないって……。
でも……、いつもとは違う切ないキスや、哀しい声や、身に纏った冷たい空気、
『……俺は……、あの人じゃ、ない……』
最後に見た、憂いを含んだ瞳も……。
思い出すと、胸が痛んで苦しい。
透さんが、俺の事をどう思ってるのかは分かんないけど。透さんにあんな顔をさせたのは、確かに俺で。
気持ちの無いセックスが、相手を傷つける。
――そして自分も……。その事に気が付いたから。
「ふーん、でも俺は、直が俺の事を好きになってくれるように、これからも攻めるよ」
欲しいもんは、奪ってでも手に入れるよ。って言いながら、みっきーは俺の髪をガシガシと掻き回す。
「ちょ……、無理やりはやめてね」
「それは約束できないけど……いつまでもそんな格好のままでいたら、誘ってると思って襲いたくなるし……」
『そんな格好』と、指をさされて下半身に何も着けていない事を思い出して、慌てて服を着ようと立ち上がったら……、
「あ……」
後孔からコポッっと溢れた透さんの名残りが、内股を伝い落ちた。
「あはは、シャワー浴びておいでよ。なんなら俺が掻き出そうか? その後ちゃんと軟膏も優しく塗ってあげるけど?」
「いいって! 自分でできるからっ」
そう言って、バスルームへダッシュすると、後ろからみっきーの笑い声が聞こえてきた。
「そんだけ元気なら大丈夫だね」
一応、心配してくれてたんだなって、さっきまで凍りつきそうだった胸の内が少しだけ暖かくなった気がする。
***
「じゃあ俺、仕事いくね」
狭いユニットバスの洗面台の前で服を脱いでいると、ドアの向こうからみっきーの声が聞こえてきた。
細くドアを開けて、顔だけ出して玄関を見遣れば、靴を履いているみっきーの背中が見えた。
「みっきー、ありがとう。話していたら、なんか少し落ち着いた」
「これも直を落とす為の手口だから、気をつけて」
クスッと口角を上げて、また冗談なのか本気なのか分からない言葉を残して、みっきーが部屋から出て行き、ドアが閉まる。
また少し寂しくなった部屋に、ホーッと溜め息をひとつ吐き出して、俺はバスルームに戻った。
頭からシャワーを浴びて目を閉じる。
――妹だったのか……。
勝手に誤解して、透さんの話もちゃんと聞かないで、消してしまった携帯の連絡先。
透さんは、きっと呆れたんだろうな。だから、妹だと言う事実だけ言って出ていってしまった。
きっと俺のこと、誰とでも寝ちゃう軽いやつだと思ってる。
――もう、透さんには会わないっ。
自分で言った言葉なのに……。
ただのセフレだと思っていたのは自分なのに……。
もう、透さんの事、考えなくてもいい筈なのに……。
心にぽっかり穴が空いたように、遣る瀬ない。
でもそれでも、頭の片隅で、時間が経てばまた会えるんじゃないかなって……簡単に考えている自分もいた。
それはきっと、そう考える方が気持ち的に楽だったからだ……って気付くのは、もう少し後の事だった。
『気持ち良ければ、それでいいんだよね?』
――透さんの言葉。
確かに、今まではそう思ってたんだ。さっき透さんに言われた時も、別に悪い事してないって……。
でも……、いつもとは違う切ないキスや、哀しい声や、身に纏った冷たい空気、
『……俺は……、あの人じゃ、ない……』
最後に見た、憂いを含んだ瞳も……。
思い出すと、胸が痛んで苦しい。
透さんが、俺の事をどう思ってるのかは分かんないけど。透さんにあんな顔をさせたのは、確かに俺で。
気持ちの無いセックスが、相手を傷つける。
――そして自分も……。その事に気が付いたから。
「ふーん、でも俺は、直が俺の事を好きになってくれるように、これからも攻めるよ」
欲しいもんは、奪ってでも手に入れるよ。って言いながら、みっきーは俺の髪をガシガシと掻き回す。
「ちょ……、無理やりはやめてね」
「それは約束できないけど……いつまでもそんな格好のままでいたら、誘ってると思って襲いたくなるし……」
『そんな格好』と、指をさされて下半身に何も着けていない事を思い出して、慌てて服を着ようと立ち上がったら……、
「あ……」
後孔からコポッっと溢れた透さんの名残りが、内股を伝い落ちた。
「あはは、シャワー浴びておいでよ。なんなら俺が掻き出そうか? その後ちゃんと軟膏も優しく塗ってあげるけど?」
「いいって! 自分でできるからっ」
そう言って、バスルームへダッシュすると、後ろからみっきーの笑い声が聞こえてきた。
「そんだけ元気なら大丈夫だね」
一応、心配してくれてたんだなって、さっきまで凍りつきそうだった胸の内が少しだけ暖かくなった気がする。
***
「じゃあ俺、仕事いくね」
狭いユニットバスの洗面台の前で服を脱いでいると、ドアの向こうからみっきーの声が聞こえてきた。
細くドアを開けて、顔だけ出して玄関を見遣れば、靴を履いているみっきーの背中が見えた。
「みっきー、ありがとう。話していたら、なんか少し落ち着いた」
「これも直を落とす為の手口だから、気をつけて」
クスッと口角を上げて、また冗談なのか本気なのか分からない言葉を残して、みっきーが部屋から出て行き、ドアが閉まる。
また少し寂しくなった部屋に、ホーッと溜め息をひとつ吐き出して、俺はバスルームに戻った。
頭からシャワーを浴びて目を閉じる。
――妹だったのか……。
勝手に誤解して、透さんの話もちゃんと聞かないで、消してしまった携帯の連絡先。
透さんは、きっと呆れたんだろうな。だから、妹だと言う事実だけ言って出ていってしまった。
きっと俺のこと、誰とでも寝ちゃう軽いやつだと思ってる。
――もう、透さんには会わないっ。
自分で言った言葉なのに……。
ただのセフレだと思っていたのは自分なのに……。
もう、透さんの事、考えなくてもいい筈なのに……。
心にぽっかり穴が空いたように、遣る瀬ない。
でもそれでも、頭の片隅で、時間が経てばまた会えるんじゃないかなって……簡単に考えている自分もいた。
それはきっと、そう考える方が気持ち的に楽だったからだ……って気付くのは、もう少し後の事だった。
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