出逢えた幸せ

ずーちゃ

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第三章:身体と愛と涙味の……

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「こんなに沢山、いつの間に作ったの?」

 テーブルに並んでいる和惣菜の数々は、どれも美味しい。俺がシャワー浴びていた短い時間の間に、どうやって作ったんだろう。

「まぁねー、きんぴらとか煮物なんかは時間のある時に作り置きするから、そんなに手間はかかってないよ」

「へぇー、意外に家庭的なんだね」

「だから、いいお嫁さんになるよって、言ってるじゃん」

「それは、もういいって……」

 みっきーの冗談口調に、軽く突っ込みを入れながらの会話は楽しい。昨日初めて会った人とは思えないくらい違和感がないのは、多分みっきーの性格のせいなんだろうなって思うけど。

 昨夜、色々あったのが嘘みたいな気がしてくる。

 つい流されて身体を繋げてしまって、今ここでご飯を食べてる俺って……って、戸惑いもある。

 透さんの時も、最初は、やっぱり同じように流されてしまったんだけど、あの時とは何か少し違うような気もする。

 だけど、あの時も今も、確かに感じるのは、居心地の良い空間。

 疲れた身体に、みっきーの作った味噌汁が染み渡る。

「あぁーー美味しい」

「そぉ? そう言ってもらえると、作った甲斐があるな」

 俺の言葉に、みっきーが嬉しそうに微笑んだ。

 姿勢正しく、綺麗に箸を使って、食べ物を口に運ぶ動作が美しいなって思う。
 
 料理も上手かったり、マメで、そういえば、部屋もきちんと片付いてる。そういうところ、ちょっと意外だなって思う……。

 飄々としていて、ふざけてばっかりだけど、こうしてみると、端正な顔立ちで長身で黙っていたらモデルみたいなイケメンなのにな。

 そんな事を考えていたら、突然、静かな部屋にインターフォンの音が鳴り響いた。

「はーい、あ? あぁ、上がってこいよ」

 みっきーが応対している後姿を眺めながら、――友達かな、ならやっぱり、もう帰った方がいいかもな……って、思ったんだけど……。

「勇樹だよ」

 振り返ったみっきーが苦笑いしながらインターフォンを指さして口にした名前に、俺は頭が真っ白になってしまった。

「え……?」

 桜川先輩……今、一番会いたくない人かもしれない。

 食べ終わった食器をシンクに運びながら、頭の中は昨日のバーでの事が過っていた。

「なぁ、そう言えば昨日さ、直はなんで勇樹達に絡まれてたわけ?」

 みっきーがテーブルを拭きながらそう言って、俺の方へ視線を向けるけど、ちょっと言い難くて、言葉に詰まってしまう。

「……え、っと……、たぶん……俺が、桜川先輩が前に付き合ってた彼女に、ちょっかいかけたから?」

 俺の言葉に、みっきーは、「ぷっ」と、小さく噴出した。

「えーー? じゃあ、その相手って、ゆりちゃんの事かな」

 ――正解だ……。

 一発で当てた事に驚きながら、俺は小さく頷いた。

 その時、玄関のドアを開ける音がする。

 すぐに「兄貴ー」と、桜川先輩の声が聞こえてきて、ちょっとドキっと心臓が跳ねた。

「おー、こっち持ってきてよ」

 ――桜川先輩が、こっちくるっ!

 俺は会いたくなくて、隠れ場所を探してキョロキョロするしかなくて、かなり挙動不審。

「直、大丈夫だよ、俺がいるし。いつまでも逃げてるわけにも行かないでしょ?」

 それはそうだけどー、昨日の今日だし、気まずいのにー。ああ、俺ってヘタレ!

「兄貴、これ」

 リビングに入ってきた桜川先輩は、大きな紙袋をみっきーに差し出しながら、リビングのソファーで小さくなっている俺に気付いて驚いた顔をしている。

「なんだ……お前、結局兄貴にお持ち帰りされたのか」

「こ、こんにちは」

 桜川先輩の視線が痛くて、思わず俯いてしまう。

「あのな、元はと言えば勇樹のせいだろうが。直が萎縮する事ないよ」

 いきなりぺチンと先輩の頭を叩いて、こめかみを両側から拳でグリグリするみっきー。

「……ッてえな! 俺だって悪くないよ! こいつが淫乱なだけだろ?」

 みっきーの拳を払い退けて、桜川先輩が目を吊り上げて怒鳴ってる。……かなり怖い。

「お前ね、ほんっといつまで経っても子供だな。本当は直の事が気になって、手を出したんだろう?」

「「はあ?」」

 あまりに的外れな言葉に、俺と桜川先輩は同時に声を上げた。

「あれ? 結構気が合ってるんじゃん、二人共」

「そんな訳、あるかよ!」

 吐き捨てるように否定して、桜川先輩は怒った顔のままこっちに近付いてくる。

 その形相に、俺は思わずソファーの上で後退った。

 ソファーに座ったままの俺を桜川先輩は上から見下ろして、みっきーに借りたシャツの第2ボタンまで開けている襟元を左右に引っ張った。

「随分可愛がってもらったんだな、淫乱」

「え……?」

 さっきシャワーを浴びた時、一瞬しか見なかったから首元に一つあるのしか気が付かなかったけど、シャツ隙間から覗くと、胸には無数の赤い痕が散りばめられていた。

「お前、本当に誰でもいいんだな」

「そ、そんな事はない……です……」

 桜川先輩は、俺の女癖の悪さとか……ゆり先輩の事もあって、俺の事をあまり良く思ってなくて、その事を言っているんだ。

 でも、その件については、確かに俺が悪くて、否定した声は蚊の鳴くような弱々しい声になってしまった。


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