武装聖剣アヌスカリバー

月江堂

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最終章 手を取り合って

決着

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「イルウ! てめえ何やってんだ!!」
 
「はい? スモウとってただけですけど」
 
取り組みの終わった四天王、イルウにカルアミルクの怒号が飛んだ。
 
 まあ……ホント何やってんだとは思うよ。いろんな意味で。
 
「わざと負ければ楽々一勝拾えるところで何本気で戦ってんだ! 魔王様への裏切り行為だぞ」
 
 いうほど本気で戦ってましたかね。私には性欲のままに行動して好き勝手やったようにしか見えませんでしたけど。
 
「はぁ? 私に八百長しろっての? 神聖なドヒョウの上でそんなことをするなんて私にはできないわ」
 
 神聖な土俵の上で〇精するのはいいんスかね。というか冷静になってみれば俺は勃気を操る能力を使えるんだから取り組み中にイルウを萎えさせればよかったのか。後悔先に勃たず。
 
「勇者よ、よくやった」
 
「ああん?」
 
 なんだこのじじい、イヤミか。
 
「これで儂ら勇者側の一勝じゃ」
 
 あ、そうか。俺は負けたけど一応これで勇者側の一勝なんだよな。相撲で負けて勝負で勝った、ってところか。いやあれ相撲か?
 
何とも複雑な気持ちだ。いや、相撲で負けたこともそうなんだけど、それだけじゃなくて、犯されたというか……まあほぼほぼ犯されたようなもんだよな。穴が無事なだけで。
 
 それにしてもどっと疲れた。方向性はともかく、全力でぶつかり合って、挙句の果てに負けて、変な汁ぶっかけられて。肉体的にも精神的にも疲れ果てた。一瞬にすべてをかける相撲はこれほどまでに消耗するのか。
 
「チッ、仕方ねえ。次、出ろ!!」
 
 怒りの収まらないカルアミルクだったようだが、気持ちを切り替えて次の取り組みに進むようだ。イルウはすっきりした顔しやがってちくしょう。
 
「さっ、勇者よ。出番じゃぞ」
 
「え?」
 
 次って……俺? 俺か。そうだよ。他に人いねえもん。今更アンススに「疲れてるからやっぱり出てください」とは言えねえし。アスタロウは問題外だし。俺か。俺か!!
 
 やっべえどうしよう。
 
 疲れ果ててとてもじゃないがもう一回取り組みなんかできる状態じゃないんだが。いややろうと思えばできるだろうけど勝つのは無理だ。
 
 しかも今の取り組みで分かったけど、聖剣を手放してしまった俺は魔族の持つ変な能力を使われたら全くの無力だ。言ってみれば普通の高校生の力で化け物相手に相撲で勝たなきゃいけないって状況だ。
 
「フン、俺がなぜ一試合目にこんな変則的な勝負を受けてやったか教えてやる。二試合目と三試合目で確実に勝てるからだ。中堅、ジョーウィス、出ろ!!」
 
 俺が普通の高校生と違うところと言えば勃気術を使えるということくらいだ。琴エルフ関に勝利した時みたいに相手を勃〇させて不浄負けにさせることができれば勝利できるかもしれない。
 
「我に……まかせよ……」
 
 しかし、カルアミルクの呼び声に呼応して出てきたのは青白い、霊体の、レイスだった。ぼろ布をまとった骸骨の外見で、ふわふわと宙に浮いている。
 
 はい終わりー。負けましたー。あんなもんどうやって倒せっちゅうねん。っていうか実態がないレイスじゃあこっちが勝つことができなくても向こうも俺を倒すことができないんじゃないのか? この試合、引き分け狙いか?
 
「ジョーウィスは触れた相手をカース呪い状態にして自由自在に操ることができる。勝負は一瞬でつくぜ」
 
 はい負けー。ざぁこ。ざこ勇者。聖剣がなきゃ何にもできない。勃気を操るくらいしか能のないざぁこ。意味不明な能力。
 
 などとメスガキ風に自虐してみても問題は何も解決しない。
 
「時間いっぱいです」
 
 エイメに促されて土俵に上る。こいつ、俺が追い詰められてるってのに何の遠慮もねえな。まあ、勝負だから仕方ないが。
 
 しかし、実際どうしたものか。塩を掴みながら考えるも、答えは出ない。当然だ。実体のない霊を相手に、いったいどうやって相撲を取れというのか。
 
 考えても仕方ない。やれることをやるだけだ。俺はやけくそ気味に塩を振りまく。
 
「ギャアァァァァァ……」
 
 清めの塩を振りかけられて、ジョーウィスは春の淡雪のごとく溶けて無くなった。
 
 勝利!!
 
「なにぃ!?」
 
 さすがに二連敗には焦ったのだろう。カルアミルクの表情が青ざめた。
 
「おおおい! ふざけんな!! 今取り組みが始まる前に殺られただろうが! あんなもん反則だ反則!!」
 
「んなこと言われてもケンジ師匠は何もルールに反することはしてないッス。塩が苦手なら土俵に上る前に言ってほしかったッス」
 
 そりゃ当然だ。俺は何も悪いことしてないからな。相手が勝手に成仏しただけだ。へんなものいいつけられていい迷惑だよこっちゃ。
 
「フ……フフフフ」
 
 なんだ? カルアミルク追い詰められすぎてとうとう壊れちゃったか?
 
「くくくく……ハァーッハッハッハ!! いいだろう。そういうことなら東の横綱、このカルナ=カルアが相手をしてやろう!!」
 
 柄に合わない三段笑いを決めてからカルアミルクが羽織っていたマントを脱ぎ捨てると、その下はまわし一丁の姿だった。体形は細マッチョという感じで、とても相撲取りの体格には見えないが、こいつが魔族側の横綱だっていうのか。
 
 ちらりと視線を送ると、西の横綱、琴エルフ関はまだ解説の長机に着席したまま動こうとしない。ただカルアミルクをにらみつけ、座っている。まさに横綱相撲。
 
「それでは、ただいまの勝負を持ちまして……」
 
「土俵に上れ、琴エルフ。西の横綱と東の横綱、どちらが強いのかはっきりとさせてやる」
 
「勇者側が二勝したため……」
 
「スモウのルールでは魔法の使用は禁止されていない。俺に逆らうものはみな、ドヒョウのなかで消し炭にしてやってきた。お前もよく燃えそうな体形してやがるな。魔界相撲の恐怖をたっぷり味わわせてやるぜ」
 
「勇者軍の勝利を宣言するッス!!」
 
「ちょおおおおぉぉい!!」
 
 両手に炎を出して威嚇していたカルアミルクが一転してエイメに詰め寄る。
 
「なんっでだよ!! これから大将戦だろうが!! こっからが盛り上がるんだろうが!!」
 
「なんでって……三番勝負で先に勇者側が二勝したんだから勇者側の勝利に決まってるじゃないッスか。当たり前ッスよ」
 
「か……勝ち抜き戦じゃ……あいつだって二回……」
 
 そう言いながらカルアミルクは俺の方を指さすが、俺は一回戦は魔王軍の先鋒として戦って、二回戦は勇者軍の中堅として戦っただけだからな。勇者軍の一回戦勝者はイルウだから、当然勝ち抜き戦システムじゃない。こいつバカなのか。
 
「消化試合になるスけどやるんスか? 別にいいッスけど、負けは動かないッスよ?」
 
「う、うううう……そんなぁ……」
 
 あ~あ、泣いちゃった。
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