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第2章 冒険者達
カース
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迂闊だった。
まさかそっち側に行くとは。
先入観というかなんというか、完全に読み違いをしていた。フレッシュゴーレムが向かったのは壁を挟んで向こう側、アンススの上半身側に行っちまったのか。
もっと俺達とゴーレムの早さが拮抗してればこんなことにはならなかったんだろうが、完全に「はぐれた」状態になっちゃったせいでこんなことに。
「くそっ、来るなら来い!!」
アンススの掛け声とともに戦闘音が聞こえる。アンススの持ってたマチェーテは腰に巻いてたベルトに差してあったので、今俺の目に見える場所にある。というかこれが引っかかって詰まったんだろうけど。
ということは今アンススは素手であの巨人と戦ってるってこと? しかも腰を固定された状態で? 超絶不利やんけ。とにかく、すぐ反対側に回ってアンススを助けないと。さっきは歩いて十五分くらいだったから走れば5分くらいで助けに行けるか!?
「待て、勇者よ。聖剣で壁を破壊するんじゃ」
そうか、その手があった。大分テンパってるな俺。掛け声一発、思い切り剣を振ると大量の砂塵を発生させながらダンジョンの壁が吹き飛んだ。少し力加減を間違えたか。よくよく考えれば剣の自重だけで石床を貫くような剣なんだ。そこまで力を入れる必要はなかったか。
「アンスス、大丈夫か!?」
彼女の周りの壁もがらりと崩れる。無事かどうかはまだ分からない。しかしほんの一瞬の砂塵の隙間からフレッシュゴーレムの影が見えた。
「喰らえ!!」
あまり力を入れず、剣先だけをスピードに乗せて走らせるように振ると、ほとんど抵抗もなくゴーレムは真っ二つになった。さらに崩れたその肉塊をもう二回ほど切りつけてみるが、ゾンビ映画のようにバラバラになった状態で動いたりはしないようだ。
これで一安心ってところか。俺はアンススに声を掛けながら彼女の背中の上に乗っかっている瓦礫を手で取り除いた。
「う……大きな怪我はない、が……」
彼女の言うとおり大きなけがはなさそうだ。スピードも大したことはなかったが戦ってみても大して強くなかったな、あのゴーレム。それともアヌスカリバーが強すぎるだけか? まあ、四天王を一撃で倒すような無茶苦茶な武器だからな。
しかし、大きな怪我はないものの、アンススは呼吸を荒くして辛そうな表情をしている。
「アンスス、どこかやられたのか?」
素手で戦っていたからか、前腕には無数のひっかき傷があるが、表面からは見えないが肋骨でも折れてるんだろうか。
「迂闊だった……奴の体液を浴びてしまった」
「それは、まずいのう」
体液をかけられた、ってこと? 報道で「体液をかけられた」ってのは、つまり、まあ、変な白っぽい液をかけられたってことで……この場合はどういう意味なんだ? アスタロウが真剣な表情で悩んでるな。どういうことだ?
「アンデッドの体液が傷口や、粘膜に触れると、ごくまれに自身もアンデッド化することがあるんじゃ」
マジか。たしかにゾンビやヴァンパイアに噛まれて感染するなんて話は俺も聞いたことがあるけど。
「傷口に触れてすぐなら酒精で清めれば呪いを払うこともできるんじゃが……今そんなものもない。町に戻ってからではカースが体の奥深くに入ってしまって、もう間に合わん」
「私が間抜けだっただけだ……ケンジくん、アンデッドが発症する前に私の両手両足を縛ってくれ。もしアンデッド化した場合はとどめを、頼む」
冗談じゃない。いくらアンデッド化したとしても、俺がアンススを殺すだなんて、そんな事出来るわけない。
だが状況がよくないことは俺にだってよく分かる。とりあえずがれきの下から救助したアンススをダンジョンの通路に寝かせて様子を見ているものの、やはりあまり体調が芳しくないようだ。
まだアンデッド化を発症してはいないようだが、相変わらず呼吸が荒く、異常な発汗が見られる。いや、異常な発汗は元からか。
「ケンジくん、自分でもわかるんだ。多分これは、体の中にカースが入り込んでいる。そう遠くないうちにアンデッド化を発症するだろう。手を縛ってくれ。頼む」
「バカ野郎! 諦めるな!」
とはいうものの、俺には手が思い浮かばない。とりあえずは彼女を背負って町に行けば何か方法があるだろうか。
「アスタロウ、何か方法はないか? 町での治療が必要ならすぐにでも背負って連れて行く!」
「ひとつ……」
アスタロウが口を開いた。
「ひとつ、方法がある」
方法? 何があるっていうんだ。方法があるならすぐにでも対処したい。
「聖水じゃ。聖職者によって、正当な手順で清められた水を傷口にかけ、口に含ませれば体の中にカースへの抵抗力ができ、アンデッド化を無効化できる。しかし、町に行ってからではアンデッドの発症との時間の勝負になる。正直言って、五分五分というところか……」
「聖水!? 今持ってないのか?」
俺の問いかけに、アスタロウは真一文字に口を結んで目をつぶった。どういうリアクションだこれ。持ってるのか、持ってないのか。
「実を言うとな、ギルドで事前にアンデッドの情報を得ていたじゃろう。念のために聖水を一本用意してある」
「あるなら早く出せよ! いったいどこに……」
そこまで言って俺はハッとした。
まさか。まさかとは思うが。
いや本当。本当にまさかとは思う。
まさか本当にそんなことはしてないだろうと思う。
まさかまさかだよ。
「聖水は……儂のアナルの中にある」
本当にまさかだよド畜生。
まさかそっち側に行くとは。
先入観というかなんというか、完全に読み違いをしていた。フレッシュゴーレムが向かったのは壁を挟んで向こう側、アンススの上半身側に行っちまったのか。
もっと俺達とゴーレムの早さが拮抗してればこんなことにはならなかったんだろうが、完全に「はぐれた」状態になっちゃったせいでこんなことに。
「くそっ、来るなら来い!!」
アンススの掛け声とともに戦闘音が聞こえる。アンススの持ってたマチェーテは腰に巻いてたベルトに差してあったので、今俺の目に見える場所にある。というかこれが引っかかって詰まったんだろうけど。
ということは今アンススは素手であの巨人と戦ってるってこと? しかも腰を固定された状態で? 超絶不利やんけ。とにかく、すぐ反対側に回ってアンススを助けないと。さっきは歩いて十五分くらいだったから走れば5分くらいで助けに行けるか!?
「待て、勇者よ。聖剣で壁を破壊するんじゃ」
そうか、その手があった。大分テンパってるな俺。掛け声一発、思い切り剣を振ると大量の砂塵を発生させながらダンジョンの壁が吹き飛んだ。少し力加減を間違えたか。よくよく考えれば剣の自重だけで石床を貫くような剣なんだ。そこまで力を入れる必要はなかったか。
「アンスス、大丈夫か!?」
彼女の周りの壁もがらりと崩れる。無事かどうかはまだ分からない。しかしほんの一瞬の砂塵の隙間からフレッシュゴーレムの影が見えた。
「喰らえ!!」
あまり力を入れず、剣先だけをスピードに乗せて走らせるように振ると、ほとんど抵抗もなくゴーレムは真っ二つになった。さらに崩れたその肉塊をもう二回ほど切りつけてみるが、ゾンビ映画のようにバラバラになった状態で動いたりはしないようだ。
これで一安心ってところか。俺はアンススに声を掛けながら彼女の背中の上に乗っかっている瓦礫を手で取り除いた。
「う……大きな怪我はない、が……」
彼女の言うとおり大きなけがはなさそうだ。スピードも大したことはなかったが戦ってみても大して強くなかったな、あのゴーレム。それともアヌスカリバーが強すぎるだけか? まあ、四天王を一撃で倒すような無茶苦茶な武器だからな。
しかし、大きな怪我はないものの、アンススは呼吸を荒くして辛そうな表情をしている。
「アンスス、どこかやられたのか?」
素手で戦っていたからか、前腕には無数のひっかき傷があるが、表面からは見えないが肋骨でも折れてるんだろうか。
「迂闊だった……奴の体液を浴びてしまった」
「それは、まずいのう」
体液をかけられた、ってこと? 報道で「体液をかけられた」ってのは、つまり、まあ、変な白っぽい液をかけられたってことで……この場合はどういう意味なんだ? アスタロウが真剣な表情で悩んでるな。どういうことだ?
「アンデッドの体液が傷口や、粘膜に触れると、ごくまれに自身もアンデッド化することがあるんじゃ」
マジか。たしかにゾンビやヴァンパイアに噛まれて感染するなんて話は俺も聞いたことがあるけど。
「傷口に触れてすぐなら酒精で清めれば呪いを払うこともできるんじゃが……今そんなものもない。町に戻ってからではカースが体の奥深くに入ってしまって、もう間に合わん」
「私が間抜けだっただけだ……ケンジくん、アンデッドが発症する前に私の両手両足を縛ってくれ。もしアンデッド化した場合はとどめを、頼む」
冗談じゃない。いくらアンデッド化したとしても、俺がアンススを殺すだなんて、そんな事出来るわけない。
だが状況がよくないことは俺にだってよく分かる。とりあえずがれきの下から救助したアンススをダンジョンの通路に寝かせて様子を見ているものの、やはりあまり体調が芳しくないようだ。
まだアンデッド化を発症してはいないようだが、相変わらず呼吸が荒く、異常な発汗が見られる。いや、異常な発汗は元からか。
「ケンジくん、自分でもわかるんだ。多分これは、体の中にカースが入り込んでいる。そう遠くないうちにアンデッド化を発症するだろう。手を縛ってくれ。頼む」
「バカ野郎! 諦めるな!」
とはいうものの、俺には手が思い浮かばない。とりあえずは彼女を背負って町に行けば何か方法があるだろうか。
「アスタロウ、何か方法はないか? 町での治療が必要ならすぐにでも背負って連れて行く!」
「ひとつ……」
アスタロウが口を開いた。
「ひとつ、方法がある」
方法? 何があるっていうんだ。方法があるならすぐにでも対処したい。
「聖水じゃ。聖職者によって、正当な手順で清められた水を傷口にかけ、口に含ませれば体の中にカースへの抵抗力ができ、アンデッド化を無効化できる。しかし、町に行ってからではアンデッドの発症との時間の勝負になる。正直言って、五分五分というところか……」
「聖水!? 今持ってないのか?」
俺の問いかけに、アスタロウは真一文字に口を結んで目をつぶった。どういうリアクションだこれ。持ってるのか、持ってないのか。
「実を言うとな、ギルドで事前にアンデッドの情報を得ていたじゃろう。念のために聖水を一本用意してある」
「あるなら早く出せよ! いったいどこに……」
そこまで言って俺はハッとした。
まさか。まさかとは思うが。
いや本当。本当にまさかとは思う。
まさか本当にそんなことはしてないだろうと思う。
まさかまさかだよ。
「聖水は……儂のアナルの中にある」
本当にまさかだよド畜生。
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