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第1章 聖剣アヌスカリバー
魔眼のイルウ
しおりを挟む俺達の目の前に立ちはだかった魔王軍四天王第二の刺客。
耳がとがっているからエルフってやつか。それとも肌が黒いからダークエルフなんだろうか。詳しくないから分からん。っていうかこの世界にエルフとかダークエルフとかいるかどうかも分からんし。ただの耳が長い人かもしれん。
とにかく、褐色の肌とは対照的に白い髪を編み込み、体にはタトゥーを入れた、妙に扇情的でセクシーな服装の女性が城門の外には立っていた。
城門を守っている衛兵たちは最初の内こそ槍を構えて今にも飛び掛からんと臨戦態勢だったけど、俺が来たと分かると「あ、勇者だ」「あいつに任せときゃいっか」みたいな感じで距離を取り始めた。そんなだからここまで侵入されちゃうんだよ。
「カルナ=カルアが世話になったらしいわね。ふふ、見た目には可愛らしいぼうやにしか見えないのにねえ」
可愛らしいとか言われちゃったよ、なんかドキドキするな。見たところ相手も俺とそんな歳が変わらない感じの、普通の、というかかなり可愛いらしい少女に見えるんだけど、もしエルフなら実際の年齢はもっと上だったりするんだろうか。それにしても美人でスタイルいいなあ。
しかし可愛らしいものの、異様な雰囲気を放っている。この国の中心部まで何の障害もなく侵入してきたし、やっぱりそれなりに強いんだろうなあ。まあ、所詮聖剣の敵じゃねえけど。
「奴の目、紅く光り輝いておるだろう……」
「ん?」
アスタロウが何やらぶつぶつ囁いてくるので見てみると、確かに赤いだけじゃなく、光ってるようにも見えるなあ。
「決して奴の目を見てはいかんぞ」
「ふざけんなよお前見ちゃったじゃねえか!!」
言い方ってもんがあるだろうがお前! そんな言い方したら普通見ちゃうだろうが! そういう時は先に「眼を見るな」って言ってから説明するもんだろうが!
「奴の異名『魔眼』は文字通り奴の得意とする瞳術からつけられておる。目が合えば金縛りにあうぞ」
「遅ぇんだよなにもかも!! そんなだからこんなとこまで魔族に侵入されんだよ!! 体が痺れて動かねえよ!!」
「なに? ケンジ、眼を見てしまったのか」
おめえのせいだよ! っていうか言いながら俺の体を触るな! 痺れてる時に触られるとくすぐったいんだよ!
「なんということだ、これでは聖剣が抜けないではないか」
そう言いながら尻を擦り付けてくるな! くすぐったいし、何より汚い!
「どうした勇者とやら? 聖剣を使わないのか? 聖剣はどこにある?」
このおっさんのケツに刺さってんだよ。っていうか聖剣を抜けないのはお前が金縛りにあわせたからだろうが。
その時、余裕の笑みを湛えたまま、イルウはパチンと指を鳴らした。瞬間、俺の拘束が解除されて身動きが取れるようになった。異様な脂汗をかきながらも、俺はまず真っ先にイルウから視線を外した。
「あれ? もう痺れとれちゃった感じ?」
そう言いながらしつこくアスタロウが俺の体を突っついてくる。
「てめえ本当いい加減にしろよ! 好き放題突っつきまわしてくれやがって! 今度はお前が痺れろ!!」
「ぐわ、や、やめぬかケンジ!」
アスタロウの顔を掴んで無理やりイルウの方に向けさせたが、金縛りにあうことはなかった。魔眼は常時発動してるわけじゃないのか。
「フッ、こんな時に遊んでるとはよほど腕に自信があるようだな」
遊んでませんけど。本気ですけど。
「だが、聖剣を抜かなければお前に勝ち目はないぞ? どうする?」
目は赤いままだが、妖しい輝きは消えている。やろうと思えば今の一瞬でもできたはず。それをしないのは、強者の余裕か、いや、違うな。
狙いは聖剣か。
考えてみれば当然か。
前回俺は四天王の筆頭を一撃で山の向こうまでフッ飛ばしてるんだからな。魔王がその力に着目するのも当然と言えば当然。
正直あんなクソみたいな聖剣くれてやりたいけど。
「聖剣が狙いか、魔族よ。しかし聖剣は選ばれし勇者にしか抜くことができんのじゃ。今まで多くの者が挑んできたが、柄に触れる事すら叶わなかった。本当に『勇気ある者』にしか抜くことが出来んのじゃ」
そういうこと?
自分的には、もしかしてこの間の国王のが演技じゃなくて本当に抜けなくて......って可能性も少しは残ってるかもって考えたんだけど。
触れることすらできなかったって……いくらなんでもそれはないもんね。
結局あれか。「おっさんのケツの穴から剣を引き抜く勇気」のある者が聖剣を使えるってこと?
で、今まで召喚した異世界転移者もあの臭い剣に触る勇気がなかったところ、空気の読めないアホが来て剣を抜いてくれましたってか。やってられん。
「フフ、話が早いわねおっさん。もし私に扱えなくても、手に入れるだけで充分よ。後は海にでも投げ込んでやれば人類の希望は断たれる」
やめろ、汚染水を垂れ流すことになるぞ。いや、処理水って言った方がいいのか? まあいいや。でも俺もあの剣には二度と触れたくないんだよね。
「おっさん、聖剣はどこにあるの? 正直に言えば殺さないであげるわよ」
お前が今話してるおっさんのケツの穴ん中だよ。
「殺さば殺せ。たとえわが命を絶たれようとも、人類の希望たる聖剣をお前などに渡す気はない」
人類の希望たる聖剣をケツの穴に入れるな。このおっさん言ってることだけは格好いいんだよな。
「フン、なら望み通り殺してあげるわ。ただし、殺すのはおっさんの方じゃなくて勇者の方よ。さあ、聖剣を抜かないと死ぬわよ」
う、ターゲットをこっちに絞りやがった。イルウは腰に提げていた短剣を抜く。魔眼と剣のコンボを決められれば逃れる方法はない。周りの衛兵どもは完全に観戦モードだ。お前らちょっとは自分事として考えろよ。
しかしまあ、眼を見たら金縛りにあうんなら単純に目を見ずに戦えばいいんじゃ? とはいえ、聖剣は抜かなきゃ戦えないし、考えものだが。
「頭の悪そうなお前の事だからどうせ『目を見ずに戦えばいい』とでも思っているんだろう。無駄だ。我が瞳の魔力からは逃れることはできない。私の目を見ずにはいられまい」
意識的に視線を逸らしてはいる。しかし何か不思議な魔力というか魅力というか、俺の視線は奴に吸い寄せられていった。まずい。
「喰らえッ!!」
探検を振りかぶり、切りかかってくる。
「フンッ!」
しかしすんでのところで短剣を躱し、俺はイルウの鳩尾にボディブローを叩きこんだ。
「グッ……な、なぜ……?」
全く警戒することなく無防備にカウンターを急所に喰らってしまったイルウはその場にうずくまる。
「『勇者』に、二度同じ攻撃が通用すると思うなよ」
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