上 下
50 / 53
最終章 ヤクザが来たでござる

時空警察ケンジ

しおりを挟む
「ああ、美味い……味がある……」
「久しぶりの野菜が体に染みるわ」
「玉ねぎがこんなに美味しかったなんてぇ♡」

 魔王城の食堂に通された俺達はやたら広いテーブルでオニオングラタンスープをごちそうになった。本当に、体に染み入る旨さだった。この2ヶ月ほど、調味料の無い生活をしていた俺達にはそれだけで十分だった。

「で、聞くまでもない気もするけどお前らは何者なの?」

「一撃絶……四天王筆頭のカルナ=カルアだ」

 カルアミルクが長い名乗りをしようとしたので俺が右手をかざすと、奴は怯えたような表情を見せながら手短に自己紹介をした。

「同じく四天王のサメ魔法の使い手アサイ・ラムなのだ!」

 右手を挙げて元気いっぱいに答えるラムちゃん。カルアミルク以外の四天王見るのって初めてな気がするな。

「あたしはペカ♡ ホリムランドの勇者よ♡」
「私はエイヤレーレ・フーリエン。知っていると思うがホリムランドの女王だ」
「俺はケンジ」
「ここへ赴いたのは他でもない。実は……」
「ちょちょちょちょ、待って待って!」

 エイヤレーレが本題を進めようとしたのをカルアミルクが止めた。本当テンポ悪いなこの男。こいつ燃やした方が話がスムーズに進む気がする。

「……え? ケンジはなんなん? どこの子なん? なに当たり前みたいな感じでモブみたいな雑な自己紹介してんの?」

「……どこの子?」

 何を言ってるのか分からない。何が言いたいんだ、この男は。

「ケンジは、この世界を救ってもらうよう、私が神に嘆願して遣わしてもらった神の使徒だが?」

「神の使徒……? 前回見た、あの小さい子、女神の使徒ってこと?」

「いや、ヤクザ」

「ヤクザ?」

 カルアミルクが頭を抱えて考え込む。何を悩んでいるんだろうか。

「ごめん、全っ然分からん。なんで毎回俺を殺しに来るん?」
「別にお前を殺しには来てない」
「来てるやん!?」

 段々面倒臭くなってきた。別にお前に出会ったことのある人間はみんなお前に出会うために生まれてきたわけじゃないんだぞ。俺がわざわざお前如きを殺すために異世界転移を繰り返してるとでも思ってるのか。

「お前が何を聞きたいのか全く分からないんだけど? お前が何か俺の事について気にするような要素ある? 逆に俺は全くお前に興味ないんだけど」

 カルアミルクは固まって、信じられない物を見るような目でこっちを凝視している。なんか情緒不安定だなコイツ。男のメンヘラなんて害悪でしかない。『理解ある彼くん』は存在しても『理解ある彼女ちゃん』なんてものは存在しないんだぞ。

「うそやろ……?」

 だから何がだよ。イライラする。やっぱり燃やしておけばよかった。でもスープは美味しかったしな。オニオングラタンスープに免じて今回だけは見逃してやろう。

「毎回毎っ回さあ! 俺の人生の最期に現れては手の込んだ方法で敵対して殺しやがって……前回なんかセーフかと思ったら時間差で別の意味で炎上させやがって! 社会的に死んだよ俺の人生!」

 つまり何が言いたいの。

「ラムもカルナ=カルアが何を言いたいのかさっぱり分からないのだ」

 ほら見ろ。仲間から見ても何言ってるか分からないじゃねぇか。
 
「ちょっ、ちょっといいか? ラム」
 
 カルアミルクは少しこちらの様子を気にしながらもラムに近づいて声を下げて話しかける。ロリコンかコイツ。
 
「ラム、お前は知らないだろうけどさ……」
「知る訳ないのだ。あの男がどうかしたのか? あいつは何者なのだ?」
 
 ラムの応対もぞんざいだ。仕方あるまい。付き合いの長い俺ですらカルアミルクが何を言いたいのか全く分からない。
 
 カルアミルクはこちらをちらりと見て、さらに小さい声でラムに話しかける。丸聞こえだけど。
 
「あいつは多分な……」
 
 俺が何だって?
 
「時空警察だ」
 
 何言いだすんだこの男。
 
「時空警察ケンジだ」
 
 宇宙刑事ギャバンみたいな言い方すんな。
 
「理由は分からんが、毎回毎回俺が生まれ変わるたびに現れては殺しに来るんだ。おそらくは、俺が転生前の記憶を持っていることが、時空警察的には良くないんだと思う。それが時空法に抵触しているから、奴はそれを罰しに来ているエージェントだと、俺は睨んでる」
 
 頭大丈夫かこの四天王。そんなだから「四天王」なのに二人しかいないんだな。他の奴はきっと逃げちゃったんだろう。この城に入ってから最低限の使用人くらいしか見ないし。
 
「転生だとか時空警察だとかわけのわからんことを言わんで欲しいのだ。カルナ=カルアがそんなだから他の四天王にも逃げられたのだ」
 
 ほれ見ろ。やっぱりそうじゃねえか。

「カルナ=カルアさん」

 事態を静観していたエイヤレーレが口を開いた。

「まさかとは思いますが、転生がどうだとか時空警察だとか、全てあなたの妄想で、実在しない存在なのではないでしょうか? もしそうだとすれば、あなた自身が統合失調症であることにほぼ間違いないと思います」
 
「と、統合失調症……? 俺が……?」
 
 ショックのあまり崩れ落ちて椅子から床に倒れ込んだカルアミルクを無視して話を進めることにした。

「で、長いこと人間と魔族は敵対してたって聞くけど和解できないかと思って今回女王が直接話に来たわけ、ってことなんだけどさ。魔王は? もうめんどくさいからここに連れてきてよ」

 俺がそう話しかけたが、しかしラムは俯いて何やら難しい表情をしている。俺の言い分としてはかなり不躾ではあると思うものの、しかしこっちだってトップが出てきてるんだ。魔族側にもそれなりの姿勢を見せて欲しい。

「なんか問題でもあるのか? そんなもじもじしてないで言ってみてくれよ」

 そこまで言うとようやくラムはゆっくりと口を開いた。

「魔王様は……病気なのだ。多分、和解は、できないのだ……」
 
 正直言ってラムの言っていることは要領を得なくて意味が解らなかった。病気だから和解ができない? どういうことだろう。病気の治療に人間の生き血が必要、とか? ファンタジーじゃあるまいし。
 
「ま、まて……ラム……」
 
 よろよろと上体を起こし、テーブルに手をかけてカルアミルクが立ち上がる。まだ生きてたのかコイツ。しぶとい奴だな。
 
「俺が……陛下をここに連れてこよう。ケンジも言葉で聞くよりも実際見てもらった方が早いだろう」
 
 まだラムはぶつぶつと言っていたが、しかしそれを無視してカルナ=カルアは食堂から出て行った。
 
「ラムちゃん、聞きたいことあるんだけどさ、魔族って人間の動向を探るためにスパイを放ったりしてる?」
 
「ラムはしてないのだ。森に入ってきた人間を狩るだけなのだ」
 
 もちろんこれだけで断定することは出来ないが、やっぱりエイヤレーレが言ってる監視されてるだとかスパイを紛れ込ませてるだとかいうのは妄想の可能性が高そうだ。
 そんな問答を続けているとカルアミルクが一人の中年男性を連れてきた。
 
 足取りはしっかりしているものの、やせこけた頬に落ちくぼんだ瞳は一目で健康ではないと分かる。黒く長い髪の間からは見事な一対の角が生えており、頭の上部から生えてバーバリーシープのように後ろ側に広がって伸びている。
 
「陛下、こちらへどうぞ」
 
 魔王はエイヤレーレに正対する位置に座る。これ、もしかして歴史的な会談なのでは?
 
「人間と……和睦だと……?」
 
 眉間に皺を寄せる魔王。もう嫌な予感しかしない。とてもじゃないが友好的な表情じゃない。一体この魔王と人間の間にどんな確執があったのだろうか。
 
「この魔王城に多くの密偵を放って儂を二十四時間監視し、集団ストーカーを行って追い詰めておいて、よくもそんなことが言えるな!!」
 
 なんだと。
 
 カルアミルクが、中腰で静かに俺に近づいてきて、耳元で囁いた。
 
「陛下は、統合失調症だ」
 
 なんだと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

魔銃士(ガンナー)とフェンリル ~最強殺し屋が異世界転移して冒険者ライフを満喫します~

三田村優希(または南雲天音)
ファンタジー
依頼完遂率100%の牧野颯太は凄腕の暗殺者。世界を股にかけて依頼をこなしていたがある日、暗殺しようとした瞬間に落雷に見舞われた。意識を手放す颯太。しかし次に目覚めたとき、彼は異様な光景を目にする。 眼前には巨大な狼と蛇が戦っており、子狼が悲痛な遠吠えをあげている。 暗殺者だが犬好きな颯太は、コルト・ガバメントを引き抜き蛇の眉間に向けて撃つ。しかし蛇は弾丸などかすり傷にもならない。 吹き飛ばされた颯太が宝箱を目にし、武器はないかと開ける。そこには大ぶりな回転式拳銃(リボルバー)があるが弾がない。 「氷魔法を撃って! 水色に合わせて、早く!」 巨大な狼の思念が頭に流れ、颯太は色づけされたチャンバーを合わせ撃つ。蛇を一撃で倒したが巨大な狼はそのまま絶命し、子狼となりゆきで主従契約してしまった。 異世界転移した暗殺者は魔銃士(ガンナー)として冒険者ギルドに登録し、相棒の子フェンリルと共に様々なダンジョン踏破を目指す。 【他サイト掲載】カクヨム・エブリスタ

異世界転移は分解で作成チート

キセル
ファンタジー
 黒金 陽太は高校の帰り道の途中で通り魔に刺され死んでしまう。だが、神様に手違いで死んだことを伝えられ、元の世界に帰れない代わりに異世界に転生することになった。  そこで、スキルを使って分解して作成(創造?)チートになってなんやかんやする物語。  ※処女作です。作者は初心者です。ガラスよりも、豆腐よりも、濡れたティッシュよりも、凄い弱いメンタルです。下手でも微笑ましく見ていてください。あと、いいねとかコメントとかください(′・ω・`)。  1~2週間に2~3回くらいの投稿ペースで上げていますが、一応、不定期更新としておきます。  よろしければお気に入り登録お願いします。  あ、小説用のTwitter垢作りました。  @W_Cherry_RAITOというやつです。よろしければフォローお願いします。  ………それと、表紙を書いてくれる人を募集しています。  ノベルバ、小説家になろうに続き、こちらにも投稿し始めました!

未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ
ファンタジー
四十一世紀の地球。殆どの地球人が遺伝子操作で超人的な能力を有する。 日本地区で科学者として生きるヒジリ(19)は転送装置の事故でアンドロイドのウメボシと共にとある未開惑星に飛ばされてしまった。 そこはファンタジー世界そのままの星で、魔法が存在していた。 魔法の存在を感知できず見ることも出来ないヒジリではあったが、パワードスーツやアンドロイドの力のお陰で圧倒的な力を惑星の住人に見せつける!

気づいたら隠しルートのバッドエンドだった

かぜかおる
ファンタジー
前世でハマった乙女ゲームのヒロインに転生したので、 お気に入りのサポートキャラを攻略します! ザマァされないように気をつけて気をつけて、両思いっぽくなったし ライバル令嬢かつ悪役である異母姉を断罪しようとしたけれど・・・ 本編完結済順次投稿します。 1話ごとは短め あと、番外編も投稿予定なのでまだ連載中のままにします。 ざまあはあるけど好き嫌いある結末だと思います。 タグなどもしオススメあったら教えて欲しいです_|\○_オネガイシヤァァァァァス!! 感想もくれるとうれしいな・・・|ョ・ω・`)チロッ・・・ R15保険(ちょっと汚い言葉遣い有りです)

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...