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最終章 ヤクザが来たでござる

飯テロ

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~ ハーフタイム (4時間経過) ~

「だから言ったのに……陛下の話に合わせちゃダメって」

「聞いてないぞそんな話」

「笑えるぅ♡ ケンジのクソザコ脳みそじゃ馬車の中で言われたことなんか一日経ったら忘れちゃうのぉ?」

 また馬車の中か……翻訳が機能する前の事なんか言われても困る。というか馬車の中で重要な話しすぎだろ、このメスガキ。

 エイヤレーレ陛下の魔族に関する話はすでに4時間に及んでいた。陛下に聞いたところまだまだかかりそうな感じなので、現在はハーフタイムを設けて給水や、補給食をとって体力の回復に努めているところである。

 エイヤレーレ陛下もこの4時間喋り続けで大分体力を消耗したようで、現在ペカと俺とは反対側の部屋のコーナーに座って補給をし、セコンドと思しきメイドが肩をもんだり状態のチェックをしている。

「ちょっと聞きたいんだが、ペカ」

 ペカは補給食のチーズを齧りながら「何?」と聞き返してくる。なんかハムスターみたいでかわいい。

「陛下が言ってることは、どこまで確かなの?」

「こっちが聞きたいわよ」

 なんだと。

「たとえば……聖剣……エメラルドソードとかは、存在するの?」

「ある訳ないじゃない」

 カーン!

 タイムオーバーだ。ゴングが鳴らされて、エイヤレーレが立ち上がる。後半戦の始まりに備えて俺は自分の両頬をきつめに叩いた。


~ さらに4時間後 ~


「つ……疲れた……」

 ようやく俺達は解放された。

 というか陛下がとうとう倒れてしまって、それと同時にメイドがタオルを投げ込んでTKO判定である。よほど自分の言葉に興味を示してもらえたのが嬉しかったのか、力尽きるまで話し続けたのだ。

 ぐうぅ、と俺の腹が鳴る。

「とりあえず、何かちゃんとした物を食べよう。真夜中だけど、厨房に行けばなんかあるだろ」

 ペカの方もよほど疲れたのかいつもの軽口も鳴りを潜め、とぼとぼと俺の後をついてくる。これは相当まずいな。何か精のつくもの、いや、甘いものでも作って食わせてやろう。

 しかし食堂と併設された厨房についてみると、パントリーに鍵がかけられており、ほとんどの食材が使えない状態だった。

「あるのは、調味料と、卵と……あと、このソースパンに入ってるのは? む……これだけあれば、がつくれそうだ!」

「ねえ、何でもいいから早く作ってよ! ペカ、スイーツが食べたいし♡」

 ここが男の見せ所だ。現代日本のメシウマチートで異世界人を魅了してやる。

 先ずは卵を卵黄と卵白に分けて、卵白の方を泡立ててメレンゲ状にする!

「なにこれ? 白くてふわふわ、おいしそー♡」

 ふふふ、待ってろペカ。さすがになにも味付けしてない卵白だから美味しくとも何ともないぞ。

 角が立つ程度にメレンゲができたら卵黄の方には砂糖とシナモンパウダーを入れて、メレンゲとざっくり混ぜ合わせ、バターを溶かしたフライパンで一気にオムレツにする。

「ふわー、いい匂い♡ ケンジ料理なんてできたのね! こっちの小さい鍋は使うの?」

 ペカが火をかけたソースパンを不思議そうにのぞき込む。そう。このソースパンの中身こそがこのスイーツのキモだ。俺もまさか異世界でこんな食材に会うとは思わなかった。

「ソースパンの中身は小豆を砂糖で煮込んだもの。すなわちアンコだ。これをフライパンで作ったメレンゲオムレツで包んでメスガキわからせスイーツの完成! 名付けてオムァンコだ! 熱いうちにどうぞ!!」

 辺りに甘い匂いが充満する。フッ、深夜だってのに罪な男だぜ、俺は。

「わあ、美味しい! ふわふわ柔らかくてほんのり甘いオムレツ生地にシナモンの香りがいいアクセントになってて、中のアンコは小豆の柔らかい甘さが引き立ってて、その……とにかく甘いばっかりで。甘くて甘い。こう、なんだろう? 一口目はいいんだけどそれ以降はちょっとくどくなってくるかな……もう少しこう、味にメリハリが欲しいっていうか」

 どうやらメスガキにも好評のようだ。俺も腹が減っていたので一緒に食べながら今日の事について話をする。なんやこれ甘っ。

「今日、女王が言ってたことなんだけど、ホリムランドが魔族の攻撃を受けてるってところまではいいんだよね?」

「それは間違いないわ。実際国境じゃ魔王軍とバチバチやってるしぃ」

「この国に、魔王のしもべが入り込んでるってのは?」

「…………」

 ペカは目を伏せて答えない。正直俺も全てが正しいとは思っていなかった。城壁近くの食堂で魔族を見つけはしたが、あれは「食堂に魔族がいた」だけで、「魔族がスパイ行為を働いていた」証拠にはならない。極論を言うとたまたま鳥の形態の魔族がその辺ぶらぶらしてただけの可能性だってある。

「じゃあ、聖剣がどうとか前世がどうとか言ってたのは?」

「嘘……と言い切れないけど、かなり怪しいとは思う。でも実際フーリエン王家は元々この地を治めてた巫女の家系だから、全部が嘘かって言われると……」

 先祖がどうとか前世がどうとかずっと言っていたが、普段の俺なら「妄想だ」と一笑に付す。だが、そう言い切れない気持ちも分かる。なぜならここに世界を救うために神様に遣わされたとかいう胡散臭い少年が実在するからだ。

「魔族から集団ストーキングを受けてるってのは?」

 ペカは再び黙る。

 そうだ。やはりこれが現代日本であったら、俺も一笑に付して終わりだろう。だがここはファンタジー世界。実際俺は自分の転移先にストーキングしてくる魔族を毎回燃やしている。

 日本ならそんな労力をかけて集団でストーキングして何の得がある。と一言で終わるが、実際エイヤレーレはこの国の女王で、人々の希望で、魔族と敵対している。

 なんというか、こう……ファンタジー世界と妄想の親和性が高すぎて、どこまでが真実でどこからが妄想なのかが、全く区別がつかない、という。

「実際、ペカはどう思うんだ? というか俺はこの世界で何をすればいい?」

 ペカは食べ終わったスイーツのスプーンを口にくわえてしばらく考え事をしていたが、やがて考えがまとまったのか、俺に答えた。

「とりあえず陛下の気が済むようにやってほしい」

 気が済むように……

「ペカはねぇ、神託によって選ばれて、教会の認定を受けて勇者となって魔族からこの世界を救う様に陛下にお願いされたんだけどぉ……」

 どうもはっきりとしない。いつもは歯に衣着せぬ……というか不必要に煽ってくるペカが言い淀んでいる。

「正直言って陛下の言ってることは全然分かんないしぃ……」

「もういい。大丈夫だ。陛下の事は俺に任せろ」

 思わずそう言ってしまった。あの勝気なペカが泣きそうな表情でしょんぼりと俯いてるのが見てられなかった。

 王宮で見ている感じ、ペカの立ち位置はかなり微妙だ。宰相をはじめ、国の中枢を担う高級官僚は陛下の言葉には我関せずといった感じだった。

「こう言っちゃなんだが、宰相たちはペカにエイヤレーレを押し付けようとしてるんじゃないのか?」

「今日見ただけで……そこまで分かったの?」

 ペカは瞳に涙を溜め、上目遣いで俺を見つめて来る。やっぱりそうだったのか。この広い王宮の中で、一人で苦労してたんだな、このメスガキも。

「正直国境の魔王軍の対処は正規軍でできてるけど、陛下はそれ以上に魔王への警戒を強く説いて来るし……もうどうしたらいいのか……」

「いいんだ。俺に任せろ」

俺はペカを抱きしめて諭すように言った。

「エイヤレーレは、統合失調症だ」
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