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旅の始まり

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 私は地面に落ちていた一枚の紙切れに気づき、手に取った。
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 最愛なる妹 ー フォーリアル・エマへ

 最初に謝らせて下さい。
 今までごめんなさい。

 寂しかったよね…。

 私のした事は決して許される事ではない。         
 いや許して貰おうなんて思っていません。
 ただ貴方と二人の失った時間をもう一度やり直したかった。

 しかしそれも叶わなくなった事。
 本当にごめんなさい。

 まだ書きたい事たくさんあるのに。
 上手く書けない。
 伝えたい事、話したい事沢山合ったのに…。
 
 私は行かなければならなくなった。
 あの薬が何処で作られた物か知ってしまったから。奴らの目的も。
 
 止めないと行けない。

 かつての私の仲間の為にも。
 貴方を助ける為にも。
 
 あれは世に出てはならない物。
 世界は既に終末へと歩み始めている。

 最後にーー
 
 これだけは信じて欲しい。
 私は貴方が大好きよ。
 それはこれからも分からない。
 例えモンスターになってしまった今でも。

 愛しています。
 
 どうかお願いです。探さないでください。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 と書いてあった。

 私は字の癖ですぐに分かった。
 丁寧で綺麗な少し丸みがあるとても女の子らしい字。
 あのモンスターになった悪魔は間違い無く姉だったんだ。

 紙と字から伝わってくる姉の姿。
 纏まりが無い文章。段々とがたがたになっていく字。所々に小さな円形シワが付いていて、その場所は字が滲んでいた。
 手紙を書いていた時、姉はきっと泣いていたんだろう。

 でも、この手紙が残っているということはまだ生きている。
 どうして姉がそんな薬を持っていたのか。
 姉さんのパーティーに何があったのか。
 ちゃんと姉さんの口から全て聞くまで、私の人生は何も始まらない。抜け殻になったままだ。

 と、エマは過去の事全てをガルダに話した。

 その話をガルダは真剣な表情で静かに聞いていた。

 「姉さんも馬鹿よね…。あの手紙を見てあれが姉さんだと分かって。そんな薬が存在すると知って。泣いていたんだと知って。探さない訳ないじゃんね…。だから私は姉の行方を探している。それが私のハンターに成った理由よ」
 私はあの時の恐怖で逃げた自分を蔑むようにガルダに向けてそう言った。
 
 その言葉にガルダは立ち上がる。
 
 そうだよ…。こんな話信じれる筈がない。
 本当だとしても事実を掴んでしまえば、追放者に消される可能性もある。
 巻き込まれたくないのが普通なのだから。

 しかしガルダの口から出た言葉は思いのよらぬものだった。
 
 「てことは、まずは聞き込みからだな。いや待てよ…。追放者に内通している奴がいるかも知れない。無闇に聞くのは危ないな。逆に犯罪を犯し追放者として潜入っていうのも悪くないな。どちらにせよ、先ずは金だ。旅に出る準備をしてからだな」

 え……。

 「その為には、明日から早速お前には採取クエスト手伝ってもらうからな!!」

 何を言っているんだろう…。

 ガルダはエマの間ぽかーんと口を開けた抜けな顔から心情を汲み取り、右手で頭を掻きながらもどかしそうにした。
 
 「だ・か・ら!!姉探し手伝ってやるんだよ!!」

 やっと理解する言葉の意味を。
 「はぁ!?なんで!?そーなんの!?」

 「もう決めた事だ。俺は曲げない!!」

 「意味わかんない!!だって明らかに危険じゃん!!何であんたはそう躊躇もせずに問題ごとに自分から突っ込んでいくの??馬鹿なの!?」

 「お前はその危険に足を踏み入れようとしているんだろ?ならお前も馬鹿だな。それに全く関係ない話でもない。戦争になればダストリュオンを探すどころの話じゃなくなるだろ」

 「たしかにそうかも知れないけどっ!」
 それだけの理由で決めれるほど軽い話じゃない。 しかしガルダは何を言っても「俺も探す」と一点張り。

 「それにお前には黒歴史を見られてしまったから。誰にもバラさないか監視する必要がある!!」

 私はその意味のわからない理由とガルダの頑固さに思わず盛大に笑ってしまった。
 しかもそれをパンツ一丁で言うのだから。
 可笑しくて言い返す気力も無くなった。

 「ハハッ…おかしっ…ほんと変な奴」

 「何がおかしいんだよ」
 
 私は素直にガルダに甘えても良いのかなって思った。だって曲げないんだもん。しょうがないよね。
 「いや何でもないわ。私の負けよ…」

 この時、私は産まれて初めて少しだけ母に感謝した。
 母が私を産んでくれたからーーこの人に出会えたのだから。
 
 ガルダは「んじゃ決まりだな」といい右手を出し握手を求めた。

 「あんたそれンコ着いて無いでしょうね」

 「つ…着いてねぇよ!!」

 「冗談よ」


 ーー二人は握手をした後、交互に睡眠を取り朝を迎えた。
 
 今日を照らす太陽が当たり前の様に世界を照らす。
 
 そして、二人の冒険が始まったのであった。
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