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第一部 イケメン課長の華麗なる冒険

序②*

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 そしてベッドでも、期待を裏切ることなく極上のセックスで有頂天にさせてくれた。テクニシャンな上に超絶倫。何回イかされたか覚えていない。

 初めの2回はコンドームを着けていたが、3回目から生になり、「中に出していいかな?」と聞かれて「出して出して出して!」と叫んでしまった。そうやって2回中出しされた。

 心残りだったのは、朝を一緒に迎えられなかったこと。「ちょっと社で残務整理しないといけないから」という彼を、切ない思いでベッドから送り出した。午前1時過ぎなのに、まだ仕事だなんて……。母性本能がきゅんと締め付けられた。

 でも、また会う約束をしたし、これからもっと分かり合っていけるはず。彼は30歳だと言っていた。結婚してるかどうか、お互い聞くことはしなかった。大人のアヴァンチュールでそんなことを聞くのは野暮だ。左手の薬指に指輪はなかったし、やっぱり奥さんはいないと思う。32歳の私でも十分いける。

 今度こそ落としてやる!

 ……それにしてもアフターピルの副作用がひどい。まるで「セックスの二日酔い」だ。いくら製薬会社に勤めている役得とはいえ、これでは王子様をゲットしたお姫様気分も台無し。今はベッドから身を起こすのさえ恐ろしい。
 遅刻するぐらいなら休んじゃうか。それに、休んでも仕方ないと納得してもらえる理由があるし……。

 沙希はスマートフォンを引き寄せ、総務部管理課長席につないだ。呼び出し音2回で、受話器が取り上げられた。

「管理課です」

 課長の風間浩一。泥の中に沈んでいるような沙希とは対照的な、溌剌とした声。沙希より二つ年上だが、時々弟みたいに感じることがある。

「……おはようございます、小野寺です」
「うんおはよう! どうした」
「あの……『レレレボ』の副作用がひどくて、申し訳ないんですけど今日、お休みしたいのですが」
「うんいいよ! またぁ、張り切ったんだね? 何回中出しされたの?」
「2回です。彼ったら絶倫で、4回戦しちゃいました」
「4回? それくらいでは絶倫の名に値しないな! 僕なら6回はいけるぞ。嘘だと思うなら今度試してみよう」

 またも吐き気がこみ上げてきたのを何とか抑えつけて、沙希は答える。

「はい、また今度」
「ところで、ちゃんと2錠飲んだ?」
「あれ? 3錠じゃなかったんですか?」
「やっぱり。はっはっは!」

 聞き慣れた快活な笑い声が頭にガンガン響いた。

「今回のリニューアルから2錠になったんだよ。注意書きしっかり読まなきゃあ」

 けだるい体に鞭打って立ち上がり、バスルームの洗面台に放置したレレレボの箱を持ってベッドに戻る。「フタツ星薬品」と大きく表書きされた箱の裏に、視力が左右1.2の沙希にも辛うじて読めるような小さい字で「一回2錠」と書かれていた。

「ほんとだ……申し訳ありません」
「まあいいよ。服用時刻と症状教えて」
「飲んだのは、えーと、寝る前の3時ごろです。副作用は、まず頭痛がもう、頭割れそうで。あとそれから、吐き気がひどくて、多分朝食も食べられないと思います」
「朝食は抜かない方がいいよ。どっちにしても明日の朝には副作用も引いてるはずだから、今日はお大事にしてて」
「はい……。本当に申し訳ありません」

 もう一度、「お大事に」と風間が言うのを聞き、受話器が置かれたのを確かめて、沙希は電話を切った。そして、割れそうな頭を枕に戻した。


 一方、東証一部上場の「フタツ星薬品」本社が入居する汐留のビル26階のオフィスでは、完全無欠のイケメンエリートサラリーマン(と自分では思っている)風間浩一が、にこやかな顔でノートパソコンのデスクトップ上にある「レレレボ2×××」のフォルダを開き、「管理課」のファイルに次のように打ち込んでいた。


『**年10月△日午前3時 小野寺沙希(32) NS2回。規定2錠の注意書きを見落とし3錠服用。午前9時現在頭が割れそうな頭痛と朝食も食べられないほどの吐き気』

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