天然記念物

天然記念物

俺の名は 天然記念物 だ

覚えておけ

天・然・記・念・物

忘れないようにゆっくり言ってやったぞ


冬が来れば

渡り鳥のように北へ帰ってゆくのだ

何？

向きが逆だろうって？


これだから困る

気温が下がったら暖かいところへ

お前それで平気なのか

悲しくならないか


寒くなったらもっと寒いところへ

暑くなったらもっと暑いところへ

俺にはこれが当たり前だ

だから 天然記念物 なのだ


だが

正直に言おう

俺は悲しみに耐えられない


分かるか

寒さに逐われ南下する鳥の悲しみ

小唄を封じられた曳かれ者の悲しみ


暖かいところへ流されていく

塵になって吹き寄せられていく

俺の　足は硬直し翼は　重く垂れ下がる


教えてほしい　なぜこれほどの悲しみとともに

流され　吹き寄せられていくことができるのか


だから俺は

もっと寒いところへ去る

もっと寒いところで

雪の中に錨を下ろす

そうやって雪が融け

草木が芽吹くのを待つ




春になったら　お前らの前に現れる　かもしれない