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1 県立日輪高校

転校初日④

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 俺と別所先生は教員室を出て階段へ足を向けた。

「2年生の教室は2階で、3年生は3階。まあ、どこの高校も同じだろうがね。……4階は実習室とか文化部用スペース、あとは『その他』ってところだ」

 先に立って階段を上がる別所先生の声が、吹き抜けの空間に反響する。校舎内は相変わらず静まり返っていて、やはり廃校にいるような印象が消えない。そんな俺の胸中を察したかのように先生が振り向いて「静かだろう?」と声を掛けた。

「そうですね。学校に着いた時も生徒は一人も見かけませんでした」
「まあ、すぐに分かるよ」

 別所教諭は微かに鼻で笑った。2階の廊下に着いたが、相変わらずひと気はない。

 「2年2組」と表示されたプレートの下で、別所先生が教室の引き戸を開けて中に入る。俺も続いて入室した。

 確かに、その教室には生徒がいた。これが初めて目にする日輪の在校生だった。

 席に着いていたのは男子3人と女子2人だけ。40人学級の教室内でその5人が、教室の正面に向かって陣形を作るかのように くさびの形に散開して着席している。

 縦横各6列+最後尾4席で並べられた座席の最前列から、5人は図のような配置で並んでいた。窓側の1列は空いていた。



 楔の先端にいる小柄な男子は、微かな笑みを口元に湛えながら鋭い視線を俺に注いでいる。見るからに「俺の頭のキレは半端じゃねえぞ」と言いたげだ。向かって左側──つまり廊下側──の女子は銀縁眼鏡の奥に光る冷たい眼差しが、いかにも優等生というオーラを無駄なく発散している。右側の黒髪ロング美少女は対照的に捉えどころのない茫洋とした雰囲気を漂わせていて、極端な言い方をするなら巫女タイプか。

 そして両端を固める男子生徒。

 両人とも上背があり、頑丈そうな体格から運動部員のように思われる。向かって右の男はやや長めの髪が制服の肩にかかり、痩せぎすだが制服の上からも筋肉質と分かる。銀縁眼鏡の奥から興味深げに俺を見つめる目はサバンナの肉食動物を思わせる。そして左側の男はスポーツ刈り……といっても縮れ髪を頭頂部付近で伸ばしているところは限りなくモヒカンに近い。浅黒い肌と、両目の爛々らんらんと輝く風貌は一瞬東南アジアかアフリカ系かと思ったが、アウトドアの運動部ならこのくらいの日焼けは珍しくないな、と考え直した。

 そしてこの二人の姿勢が特に俺の目を引いた。机に両肘を突き、顔の前で手のひらを合わせて口元を隠している姿勢が両人とも完璧に同じなのだ。楔型陣形に占める位置からして、完璧なシンメトリーの形成を無理強いされたかのように。あるいはこれも俺を出迎える態勢として万全を期した結果なのか? 

 つまり、司令塔となる男子を先頭に、サポート役の女子を挟んで武闘派で両脇を固めたという戦闘隊形の一種と見えなくもないのだが、これは前方からの物理的脅威を想定しているということなのか。古来、霊に対しては結界を張るのが定石のはずだが、まさかこの座光寺信光こそが迎え撃つべき標的? それはいくらなんでも、いや、まさか? ……もちろん、そういった疑念に関しては彼らに直接尋ねないと確かめようもない。

「聖往学園からこのクラスに転入することになった座光寺信光君だ。みんなよろしく」

 別所先生の紹介に続いて俺は教卓の横に立ち、型通りのあいさつをした。

「座光寺信光です。よろしくお願いします」

 お辞儀をした頭の前の方で、5人があいさつを返す気配を感じた。どうやら迎撃対象とは見られていないということか。担任の申し訳なさそうな声が俺の耳に入ってくる。

「見ての通り5人。もう1週間この状態だ。他の33人は全員病欠……というより登校拒否と言った方がいいかもしれないが休んでいる。事情は校長から説明を受けてると思うが……」

 別所先生は同意を求めるように俺の顔を見つめたが、俺が「いえ」と答えると、「そっか。じゃ仕方がない」と落胆の色を表し、前の5人に向かって「一人ずつ自己紹介でもするか?」と声を掛けた。

 先生は催促顔で5人を見回したが、まったく反応はない。両端の「実戦担当(?)」の構えは微動だにせず、司令塔の彼は射貫くような視線を俺から逸らさない。

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