遠くに行くとは言ったけど、異世界は遠すぎませんか…？

本編

18

やっぱりこの世界に肉はないのかもしれない
何せ、卵も牛乳も木からとれるんだから…

その場に崩れ落ちてうちひしがれたい衝動を何とかこらえ、ただただ足を動かす
クロノさんがどうしたのかと心配するようにこちらをチラチラ伺っているが、気にしたり取り繕ったりする心の余裕は今はない

だって肉がないんだもの

まじか～…
肉、ないのか…
悲しい…
ちょっと期待しちゃったぶん、悲しみがでかい…

そんなことを考えながらとぼとぼと屋敷への道を歩く
ため息をつき、何とか気持ちを切り替えようと顔をあげた次の瞬間、私の視界にあるものが飛び込んできた

「…は！？」
「え！？び、びっくりした…
な、なんですか？」

大声を出した私のせいでクロノさんがビクッと肩を震わせた
困惑した目で私を見ているが、それを気にかけている余裕もやはりない

「ク、クロノさん…
あ、あれは…」

恐る恐る目に移った一本の木を指差すと
クロノさんは私の指す方に視線を向け、口を開いた

「あれ…？
おや、“ソーセージの木”ですね
“ベーコンの花”まで咲いてる…珍しい」
「や、やっぱり！！」

叫んでその木に走って近寄る
近くで見るとその木には本当にベーコンが花のように渦巻いてくっついており、所々にソーセージが実のようにぶら下がっていた

そうだよね！
よく考えたらそうだよね！？
卵も牛乳も木からとれる世界なんだもん
ベーコンやソーセージだって木の実として存在しても何もおかしくないよね！
何で思い付かなかったんだろ！？

当初は牛肉とか鶏肉とかを予想していたが、そんな贅沢は言わない
ベーコンとソーセージがあれば十分だ

嬉しすぎてにやける口許をそのままに、クロノさんを振り返ってたずねる

「これ、食べられます、よね？」
「あぁ、はい
うちの国ではあまり馴染みはありませんが、花も実も食べられますよ
獅子の国や戌の国なんかでは、好んで食されていると聞いています」
「ですよね！」

やった！
これで今日は肉入りの夕飯だ！