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後編
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遣唐副使になったときいてから二年後。
出発の挨拶に来た彼を、私は涙をこらえて見送りました。
しかし!
それから十数日後!
彼は‶何事もなかった”かのように私を訪ねてきたのです!
驚く私に彼は渡航が失敗したと告げました。
まぁ、その時は拍子抜けはしましたが、どこかほっとしたのも事実です。
出発が来年に延期になったことで、彼がまだ側にいてくれることに、私は素直に喜びました。
そしてその翌年、彼は再び出発しました。
……が、
また渡航が失敗して帰ってきたのです。
二度目は何だか言いようのない気分になりました…。
まぁ、ここまでなら彼に非はありません。寧ろ気の毒なくらいでしょう。
問題はここからなのです!
更にその翌年、彼はもう一度出発することになっていました。
でも彼はそんな素振りは全く見せず、いつも通りに私の元にやってきます。
私は不思議に思いながらも、特に詮索せずにそれを受け入れていました。
ですが、とうとう出発前夜になっても彼は何も言いません。
流石におかしいと思った私は彼に尋ねました。
「……明日、ご出発になられるのですよね?」
「……ん?……あ…あぁ、」
彼の気の抜けた返事に、私はますますわからなくなって眉間に皺を寄せます。
それを見ていた彼は、可笑しそうに笑うだけで何も言いませんでした。
そしていつもと同じように私を抱き寄せ、甘い甘い夜を過ごしたのです。
翌日。
私が目覚めたのは日が高く昇ってからでした。寝過ごした私は大慌て。
あたりまえです、彼を見送ることが出来なかったのですから。
何てことをしたんだと自分を責めていると、いきなりふわりと後ろから抱きしめられました。
驚いて振り向くとそこには唐に旅立ったはずの恋人の姿がありました。
「え!?な、なぜここに!?」
思わず叫んだ私に、彼はニヤリと笑って言いました。
「俺は病だ」
……は?
病気?誰が?
とても元気に見えるけれど……
そう、目が語っていたのでしょう。
彼がもう一度口を開きます。
「俺は病だ。」
「…?」
病?彼が?
私の頭は疑問でいっぱいです。
彼が病にかかっているわけがありません。
だって、彼は昨夜までいたって普通に私と過ごし、今だってこんなに楽しそうな笑顔を浮かべているのですから。
困惑する私を見て、彼は嬉しそうに一つ一つ説明を始めました 。
_______________________
庭を眺めている私を、誰かの腕が囲います。
振り向かなくてもわかる、慣れ親しんだ温もりと香り。
「何をしているんだ?」
「…貴方が遣唐副使に任ぜられていた頃を思い出していたの」
私の答えに、彼は笑みを浮かべます。
「確か大使に腹を立てて仮病を使って断ったんだったな。懐かしいものだ」
「懐かしがることじゃないわ…その後大変だったじゃないの」
そう。
その後、彼は大人しくしていればいいのにそうせず、なんとお上のお怒りをかって流罪になってしまったのです。
「昨年、お許しが出て戻ってこられたからよかったけれど…
もうあんなことしないで頂戴ね?」
少し唇を尖らせて怒って見せると、彼はまた笑います。
「どうだろうな、約束は出来ん」
「もう!そんな事言わないでちょうだい!」
「そんなことより…」
そんなこと、で片付けられてしまいました。
結構…いえ、とても大きなことだと思うのですが…
「昔の事よりこれからの事を考えろ。俺と共にある未来を」
いつもの自信に満ちた笑みを浮かべてそう言われ、私は黙り込んでしまいました。
確かに、昔の事よりこれからの事を考える方が有益かもしれません。
・・・なんだか釈然としませんが。
考えていることが顔に出ていたのでしょうか。彼が笑って私の頭を撫でます。
「これから先、何が起こるかはわからん。前のようなことをしないと約束も出来ん。だが、これだけは約束できるぞ」
スッと大きな手が私の頬に触れ、顔が近づいてきます。
唇同士が触れるか触れないかの位置で一度とまり、大きな彼の口から、甘い甘い言葉が吐き出されました。
「これから先、お前を手放すことはない。絶対にな。」
私の恋人は不思議な人です。
彼の考えや行動を読むことは、この先もきっと私にはできないでしょう。
でも、一つだけはっきりとわかっていることがあります。
それは、彼が私をとても愛していてくれるということです。
出発の挨拶に来た彼を、私は涙をこらえて見送りました。
しかし!
それから十数日後!
彼は‶何事もなかった”かのように私を訪ねてきたのです!
驚く私に彼は渡航が失敗したと告げました。
まぁ、その時は拍子抜けはしましたが、どこかほっとしたのも事実です。
出発が来年に延期になったことで、彼がまだ側にいてくれることに、私は素直に喜びました。
そしてその翌年、彼は再び出発しました。
……が、
また渡航が失敗して帰ってきたのです。
二度目は何だか言いようのない気分になりました…。
まぁ、ここまでなら彼に非はありません。寧ろ気の毒なくらいでしょう。
問題はここからなのです!
更にその翌年、彼はもう一度出発することになっていました。
でも彼はそんな素振りは全く見せず、いつも通りに私の元にやってきます。
私は不思議に思いながらも、特に詮索せずにそれを受け入れていました。
ですが、とうとう出発前夜になっても彼は何も言いません。
流石におかしいと思った私は彼に尋ねました。
「……明日、ご出発になられるのですよね?」
「……ん?……あ…あぁ、」
彼の気の抜けた返事に、私はますますわからなくなって眉間に皺を寄せます。
それを見ていた彼は、可笑しそうに笑うだけで何も言いませんでした。
そしていつもと同じように私を抱き寄せ、甘い甘い夜を過ごしたのです。
翌日。
私が目覚めたのは日が高く昇ってからでした。寝過ごした私は大慌て。
あたりまえです、彼を見送ることが出来なかったのですから。
何てことをしたんだと自分を責めていると、いきなりふわりと後ろから抱きしめられました。
驚いて振り向くとそこには唐に旅立ったはずの恋人の姿がありました。
「え!?な、なぜここに!?」
思わず叫んだ私に、彼はニヤリと笑って言いました。
「俺は病だ」
……は?
病気?誰が?
とても元気に見えるけれど……
そう、目が語っていたのでしょう。
彼がもう一度口を開きます。
「俺は病だ。」
「…?」
病?彼が?
私の頭は疑問でいっぱいです。
彼が病にかかっているわけがありません。
だって、彼は昨夜までいたって普通に私と過ごし、今だってこんなに楽しそうな笑顔を浮かべているのですから。
困惑する私を見て、彼は嬉しそうに一つ一つ説明を始めました 。
_______________________
庭を眺めている私を、誰かの腕が囲います。
振り向かなくてもわかる、慣れ親しんだ温もりと香り。
「何をしているんだ?」
「…貴方が遣唐副使に任ぜられていた頃を思い出していたの」
私の答えに、彼は笑みを浮かべます。
「確か大使に腹を立てて仮病を使って断ったんだったな。懐かしいものだ」
「懐かしがることじゃないわ…その後大変だったじゃないの」
そう。
その後、彼は大人しくしていればいいのにそうせず、なんとお上のお怒りをかって流罪になってしまったのです。
「昨年、お許しが出て戻ってこられたからよかったけれど…
もうあんなことしないで頂戴ね?」
少し唇を尖らせて怒って見せると、彼はまた笑います。
「どうだろうな、約束は出来ん」
「もう!そんな事言わないでちょうだい!」
「そんなことより…」
そんなこと、で片付けられてしまいました。
結構…いえ、とても大きなことだと思うのですが…
「昔の事よりこれからの事を考えろ。俺と共にある未来を」
いつもの自信に満ちた笑みを浮かべてそう言われ、私は黙り込んでしまいました。
確かに、昔の事よりこれからの事を考える方が有益かもしれません。
・・・なんだか釈然としませんが。
考えていることが顔に出ていたのでしょうか。彼が笑って私の頭を撫でます。
「これから先、何が起こるかはわからん。前のようなことをしないと約束も出来ん。だが、これだけは約束できるぞ」
スッと大きな手が私の頬に触れ、顔が近づいてきます。
唇同士が触れるか触れないかの位置で一度とまり、大きな彼の口から、甘い甘い言葉が吐き出されました。
「これから先、お前を手放すことはない。絶対にな。」
私の恋人は不思議な人です。
彼の考えや行動を読むことは、この先もきっと私にはできないでしょう。
でも、一つだけはっきりとわかっていることがあります。
それは、彼が私をとても愛していてくれるということです。
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