無茶苦茶な人

れぐまき

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前編

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さて問題です。


『子子子子子子子子子子子子』


皆さんはこの文章を読む事が出来ますか?
……普通、読めませんよね。私も読めません。

ですが、私の恋人はこれを
『ねこのここねこ、ししのここじし』
と読んで天皇の怒りを解いたそうです。

……まぁ、あくまで噂であって、本人から聞いたわけではないので本当の話かは分りませんが。


さて、前置きはこれくらいにして本題に入りましょう。
今日は私の恋人について少々お話させていただこうと思います。
…あ、惚気話ではございませんよ?
なんといいますか…
私の恋のお相手は、少々不思議な人なのです。




小野妹子の末裔であるという彼。

身体が大柄なのも確かにめずらしいけれど、この際それは置いておきましょう。
学士でありながら、本当は身体を動かすことの方が好きなことにも、目をつぶります。そういう人もいないことはないでしょうから。
少々人より金銭に淡白な所もありますが、それもまぁ、美点と考えても問題ないはずです。

問題は…何と説明すればいいのでしょう?

……えーっと…なんですかね…
個性が強すぎるというか…周囲に誤解されやすいというか……。
例えば‘夜な夜な地獄に下って閻魔大王の補佐をしている’など、いろいろな噂を立てられたりしているところなのですけど……

あ!誤解しないでくださいね?
別にすごく冷酷な人という事ではないのです。
顔が鬼のように怖いという事でもないのです。脅える必要はありません。
……簡単に言うと、ちょっと変わった性格なのです。

何というのでしょうか?
我が強い、というのが一番近いかもしれませんね。

まぁ、兎に角。
私は彼に驚かされる事が多々あるので、もう既に慣れてしまっているのですが…。
<あの時>ばかりは、慣れるとか慣れないとかの問題ではなかったような気がするんです。


少し聞いていただけますか? 









あれは、今から七年前の事でした。
何時ものように私の元に訪れた彼は当然話を切り出してきたのです。

「遣唐副使に任ぜられた」

と。

それは驚きましたよ。
いくら小野妹子の子孫だとしても、まさか自分の恋人が唐の国に行くことになるなんて思いませんもの。
ですが、驚いているだけではどうにもなりません。
海を超えて違う国に行くのですから、もちろん長い間会えなくなってしまいます。
それどころか、厳しい船旅です。無事に帰ってこられるという保証もありません。
辛くて悲しくて寂しくて…
しばらくの間は泣いていましたが、これでは駄目だと、なんとか彼を送り出す決心をつけました。


今思えば、その決心はすべて無駄だったんですけどね……。
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