翠の桜

れぐまき

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満開

番外編(従妹姫の襲撃4)

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陽が姿をかくし
闇の世界がやってくる
頼りなく揺らめく灯だけが唯一の明かり
そんな中、私は一人物思いに耽っていた

先ほどはあの女の手前、余裕に振る舞ってはいたが、実際のところ不安がないわけではない


もし、本当に彼女を側室として迎えることになったら?
もし、殿が彼女を愛するようになってしまったら?


ぐるぐると渦巻く嫌な想像をぎゅっと目をつむり追い払う

大丈夫、彼の心を信じればいい
もう何年も彼は私ただ一人を思ってくれていたのだ
今更そんな簡単に心変わりなんてしないだろう

いや、でも、万が一・・・

すぐに復活する嫌な想像
私は大きくため息をついた

「そんなに憂いた顔をして…
どうされたのです?」

言葉とともにふわりと後ろから抱きしめられる
ただよう香の香りと慣れ親しんだ温もりに、ふっと心が軽くなった気がした

「殿・・・」

呼びかけて顔だけそちらを向けば穏やかにほほ笑む彼

「貴女が話を聞いてやれと仰ったから、こんな時間まで聞いていたのですよ?
憂い顔をしたいのは私の方です」

わざとらしくむっとしたような表情を作る彼をみて、私の表情も緩む

「すみません」
「謝罪だけでは足りませんね
私が愛するのは生涯、貴女だけだと貴女もわかっているでしょうに…
なぜその貴女本人から他の女性の愛の言葉を聞いてやれと言われなければならないのですか・・・」

大体貴女は・・・と大げさに嘆き、小言を続ける彼
しかし私はそれに言い返すことはせず、彼の一言に目を見開いていた


生涯、愛するのは私だけ


彼ならそう言ってくれると信じてはいた
信じてはいたが、言葉に出して言われると・・・

かぁっ、と顔に熱が集まるのが自分でもわかった

「…聞いていますか?」

私が反応しないことを不自然に思ったのだろう
小言を続けていた彼が訝しげな顔をして問いかけてくる
顔を覗きこんできた彼は大きく目を見開いた

「・・・」
「・・・」

黙り込んでしまった私たち
しばしの沈黙の後、先に動いたのは業平殿だった


「まったく・・・私は怒っていたのですよ?」

大きなため息をついた彼はそのままぎゅぅっとわたしを抱きしめる腕に力を込める

「そんなに可愛らしい顔をされては怒れなくなってしまいます」

苦笑を漏らし、私の額に唇を落とす

「愛していますよ、姫
誰が何と言おうと、私が愛するのはただ一人、貴女だけです」


私に言い聞かせるようにゆっくりと言葉を区切って言葉を紡ぐ

目元がじわりと熱くなるのを感じた私はそれを悟られないよう、彼の首に腕を回した
首筋に顔を埋めすり寄る
くすぐったそうに身をよじった彼は、ゆっくりと私の頭を撫でそっと囁く


「愛しています」


心が羽のように軽くなる
私は彼の温もりを全身で受け止め、そっと目を閉じた
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