紫の桜

れぐまき

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お兄様の寝所までやって来たのはいいが、お兄様はまだお休みだとお兄様付きの女房達に言われてしまった
起こすかと聞いてくる彼女らに自分でやると伝え、そっと声をかけながらそっと室内を覗きこんだ


「おにいさま…?まだお休みですか?」


其処に居たのは…

「「……」」

眠るおにいさまと妙に綺麗な顔をした、おにいさまと同じくらいの年頃の男の人だった
目を見開いた男の人と目を合わせたまましばし固まる


まぁ、綺麗な人



……って、そんな場合じゃない!
だめじゃん!!
おにいさま以外の方に顔みせちゃっ!
っていうかこれってどんな状況!?
え、何!?禁断の世界!?薔薇!?バラが咲き乱れるの!?
マジで!?!?


混乱し、訳がわからなくなった私はとりあえず無言のままくるりと踵を返し、走り出す
しかし、それよりも早く手をつかまれ逃亡は阻まれた



「きゃっ…!?」



走り出そうと勢いを付けていた私は踏みとどまれずに床に向かって倒れていく

うわ!顔面から!?

「っ!……………?」

ぎゅっと目をつぶり体を固くするが思っていた衝撃は来なかった
かわりに体を包むのは華やかな香

そっと目を開けてみると先程の男の人
どうやら支えてくれたらしい

「あ…え、っと……」

逃げ出そうとした手前、なんと言っていいかわからずに口ごもると彼のほうから声がかけられた

「お怪我はありませんか?」

「あ、…は、はい…助けていただいて、ありがとう、ございます…」


戸惑いながらも一応伝えると美しい微笑が返ってくる


「いえ、無事でよかった」


う、わぁ…
ホントに綺麗な方…

見惚れていると、微笑みはそのままに彼はまた口を開く

「“おにいさま”と言うのは源氏の君の事ですか?
彼ならまだお休みのようですよ
よろしければお目覚めになるまで私とお話して待っていませんか?」

「え、あ、…はい」


美しい笑顔で拒否は許さないとばかりに言われ、私は頷くしかなかった
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