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恋愛編

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「……美しいな」

感嘆のため息とともに心の底からこぼれ出た言葉
その言葉にセシリアの目が大きく見開かれた

「……え…?」

驚いた様子の彼女を見て自分も驚く

「な、何か悪いことを言ったか…?」
「え?い、いえ。そんな…
その、あまり、その様なことは言われ馴れておりませんので…
驚いただけです」

焦ったような、困ったようなおどおどとした態度でそう答えるセシリア
その返答を受けて自分が失言をしたわけでは無いことにほっとしながらも、すぐにその内容に首をかしげた

「言われ馴れて無いことは無いだろう?」

彼女が美しいのは周知の事実
それに、普段着ているシンプルなドレスや学校で見る制服姿も似合ってはいるが、今日の装いは格別だ

いつもさらさらと揺れる美しい髪は公式な場に出るためにしっかりと纏められ、俺の送ったイヤリングと髪飾り耳元とが揺れている
豊満な胸から細く括れた腰を通り、形のいい尻までぴったりと身体に沿って作られ、裾に向けてゆったりと広がるドレスは、扇情的に見えてもおかしくない
だが、上品な光沢を放つベルベットが使われていることと、彼女の持つ凛とした雰囲気のお陰か全くいやらしさを感じない
人目にさらされる首元にはイヤリングと対のラピスラズリの首飾りが存在を主張していた

じっと観察し、改めて頷く

「やっぱりセシルは美しい、本当にな」
「!」

俺の美意識は間違っていないはずだ
自信満々に力強くそう告げると、セシリアはさらに目を大きく開き、ほんのりと頬を染めた

「それは…ありがとう、ございます」

照れたようにお礼を言われてからハッとする

俺は、今、とても恥ずかしいことをいったのでは…?

気づいてしまったと同時に自身の顔にも朱が差すのを感じる
俺はそれを隠すように顔をそらし、代わりに手を差し出した

「……時間だな、行くか」
「はい…」

お互いに微妙に視線をそらしつつ会場へむかった
_____________________________________________________________________


会場に移動して一通りの参加者達と挨拶をこなし、ダンスタイムが始まった

今日の主役であるレオナルドがパートナー役のローズマリーとファーストダンスを踊る
主役のダンスが終われば次は王族と国賓が加わり、その次からは自由に他の貴族達が加わっていく決まりだ

ファーストダンスが終わったところでセシリアの手を引いてホールの中心に進み、数曲続けて踊る
その間にもちらちらと感じる視線に煩わしさを感じながらも、グッとこらえて踊り続けた

「…そろそろ少し休むか?」
「そうですね、少し休憩いたしましょう」

肯定した彼女を伴って端に移動し、給仕の青年からグラスを受けとる
二人ならんで喉を潤していると大きな声が俺の名前を読んだ

「アルベルト様!」
「……ローズマリー」

駆け寄ってきた金髪の少女

「アルベルト様、わたくしと踊ってくださいませ
アルベルト様と踊りたくてたくさん練習しましたのよ」

ガシリと腕を捕まれ、上目遣いにねだられる
ちらりとセシリアに視線をやると、パチリと目があった

「どうぞ、私のことはお気になさらないでください」

綺麗な笑みでそう言うセシリア
俺は周囲に視線を巡らせ、あることを確認してから頷いた

「……わかった、少し行ってくる」
「…はい、行ってらっしゃいませ」

短いやり取りを終え、今度はローズマリーの手を引いて再びホールの中心へ進む
送り出すセシリアの瞳が僅かに揺れ、声に寂しさが滲んでいたように感じたのは、俺の願望だろうか……?
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