57 / 125
恋愛編
56
しおりを挟む
皇宮の皇太子執務室にて
アルベルトは山のように積まれた書類と格闘していた
「・・・これ、終わるのか?」
ぽつりと呟くと部屋の端のデスクで同じく書類を纏めていたウェルシュが顔を上げ、厳しい顔つきで眼鏡を押し上げながら口を開く
「終わるかではありませんよ
何としてでも終わらせるのです」
それだけ言ってまた視線を戻してしまった自分付きの文官にため息をつき、諦めて自分も大人しく手を動かしはじめた
言っておくが、今公務に忙殺されているのは仕事を溜め込んでいたからでも、サボっていたからでもない
自分は普段からコツコツと公務に取り組み、余裕をもって終わらすように心がけている
今こんなことになっているのはアンバー王国の訪問に向け、できる仕事はすべて終わらせておこうとしているからなのだ
去年までは非公式な訪問で短期間の滞在だったが、今回は皇太子としての正式な訪問
準備期間とパーティーに出席する日を含めて二週間弱の滞在予定を組んでいる
ただでさえ学校に通っている間は公務を休んでいるのだ
休暇中に二週間も休むわけにはいかない
わかってはいるのだが、さすがにこの量は・・・
再びため息をついて目頭を揉み解しているとウェルシュもため息をついて再び顔を上げた
「集中力が切れていますね
少し休憩をはさみましょうか」
その声にふっと体の力を抜く
「そうしよう。効率が悪い」
ウェルシュがメイドを呼び茶の準備をさせる
それと同時にウェルシュがどこか見覚えのある包みを取りだして渡してきた
「これは…どうしたんだ?」
包みを受け取って問いかけるとウェルシュが答える
「リスト公爵家からだそうですよ」
!やっぱりか
この前セシリアが手土産として持ってきた菓子の包みと似たデザインのそれに、そうじゃないかと予想はしていた
早速包みを解くと中にはクッキーと一口サイズのシンプルなパイが崩れないよう、綺麗に詰められていた
一緒に箱の中に入っていたカードを開くと女性らしい端正な文字が並んでいる
‶装飾品、ありがとうございました
デザインも凄く好みで、とても気に入りました
使わせていただくのを楽しみにしております
一緒に入っているお菓子はほんの気持ちです
クッキーはプレーンとチョコレート、ナッツ入りの3種類
パイの中身はアップルとさつま芋餡です
甘いものがお嫌いではないと伺いましたので今回は甘めに仕上げております
お礼と言っては何ですが・・・
多めに入れておりますのでもしよろしければ執務の合間にでも文官の皆さんと一緒に召しあがってください”
セシリアらしい丁寧なお礼のカードを見て頬が緩む
またセシリアの手作り菓子が食べられるのか
前回とは違う菓子を数種類用意してくれる気遣いもうれしい
ただ…皆さんで、か・・・
ちらりと控えているウェルシュに目をやる
自分もこの間はじめて食べたばかりの彼女の手作りを、こいつに食べさせるのはあまり面白くない
だが彼女は皆さんでと気遣ってくれている
「…」
さて、どうしたものか
眉間に皺を寄せて悩んでいるとそれに気づいたウェルシュが首を傾げた
「どうしました?」
・・・仕方ないか
「……セシリアからだ
執務の合間に皆でどうぞと書いてある」
そういいながら箱を指さすとウェルシュが自分のデスクから立ち上がり、こちらにやってきて中を覗き込む
「おや、美味しそうですね」
「せっかくだお前も食べるか?」
「よろしいんですか?ではいただきます」
その声を合図にメイドたちが菓子を皿に盛り付けていく
せっかくのセシリアの菓子をこいつに分けるのは癪だが彼女が言うなら仕方ない
アルベルトは山のように積まれた書類と格闘していた
「・・・これ、終わるのか?」
ぽつりと呟くと部屋の端のデスクで同じく書類を纏めていたウェルシュが顔を上げ、厳しい顔つきで眼鏡を押し上げながら口を開く
「終わるかではありませんよ
何としてでも終わらせるのです」
それだけ言ってまた視線を戻してしまった自分付きの文官にため息をつき、諦めて自分も大人しく手を動かしはじめた
言っておくが、今公務に忙殺されているのは仕事を溜め込んでいたからでも、サボっていたからでもない
自分は普段からコツコツと公務に取り組み、余裕をもって終わらすように心がけている
今こんなことになっているのはアンバー王国の訪問に向け、できる仕事はすべて終わらせておこうとしているからなのだ
去年までは非公式な訪問で短期間の滞在だったが、今回は皇太子としての正式な訪問
準備期間とパーティーに出席する日を含めて二週間弱の滞在予定を組んでいる
ただでさえ学校に通っている間は公務を休んでいるのだ
休暇中に二週間も休むわけにはいかない
わかってはいるのだが、さすがにこの量は・・・
再びため息をついて目頭を揉み解しているとウェルシュもため息をついて再び顔を上げた
「集中力が切れていますね
少し休憩をはさみましょうか」
その声にふっと体の力を抜く
「そうしよう。効率が悪い」
ウェルシュがメイドを呼び茶の準備をさせる
それと同時にウェルシュがどこか見覚えのある包みを取りだして渡してきた
「これは…どうしたんだ?」
包みを受け取って問いかけるとウェルシュが答える
「リスト公爵家からだそうですよ」
!やっぱりか
この前セシリアが手土産として持ってきた菓子の包みと似たデザインのそれに、そうじゃないかと予想はしていた
早速包みを解くと中にはクッキーと一口サイズのシンプルなパイが崩れないよう、綺麗に詰められていた
一緒に箱の中に入っていたカードを開くと女性らしい端正な文字が並んでいる
‶装飾品、ありがとうございました
デザインも凄く好みで、とても気に入りました
使わせていただくのを楽しみにしております
一緒に入っているお菓子はほんの気持ちです
クッキーはプレーンとチョコレート、ナッツ入りの3種類
パイの中身はアップルとさつま芋餡です
甘いものがお嫌いではないと伺いましたので今回は甘めに仕上げております
お礼と言っては何ですが・・・
多めに入れておりますのでもしよろしければ執務の合間にでも文官の皆さんと一緒に召しあがってください”
セシリアらしい丁寧なお礼のカードを見て頬が緩む
またセシリアの手作り菓子が食べられるのか
前回とは違う菓子を数種類用意してくれる気遣いもうれしい
ただ…皆さんで、か・・・
ちらりと控えているウェルシュに目をやる
自分もこの間はじめて食べたばかりの彼女の手作りを、こいつに食べさせるのはあまり面白くない
だが彼女は皆さんでと気遣ってくれている
「…」
さて、どうしたものか
眉間に皺を寄せて悩んでいるとそれに気づいたウェルシュが首を傾げた
「どうしました?」
・・・仕方ないか
「……セシリアからだ
執務の合間に皆でどうぞと書いてある」
そういいながら箱を指さすとウェルシュが自分のデスクから立ち上がり、こちらにやってきて中を覗き込む
「おや、美味しそうですね」
「せっかくだお前も食べるか?」
「よろしいんですか?ではいただきます」
その声を合図にメイドたちが菓子を皿に盛り付けていく
せっかくのセシリアの菓子をこいつに分けるのは癪だが彼女が言うなら仕方ない
10
お気に入りに追加
582
あなたにおすすめの小説
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
妹よ。そんなにも、おろかとは思いませんでした
絹乃
恋愛
意地の悪い妹モニカは、おとなしく優しい姉のクリスタからすべてを奪った。婚約者も、その家すらも。屋敷を追いだされて路頭に迷うクリスタを救ってくれたのは、幼いころにクリスタが憧れていた騎士のジークだった。傲慢なモニカは、姉から奪った婚約者のデニスに裏切られるとも知らずに落ちぶれていく。※11話あたりから、主人公が救われます。
婚約破棄をいたしましょう。
見丘ユタ
恋愛
悪役令嬢である侯爵令嬢、コーデリアに転生したと気づいた主人公は、卒業パーティーの婚約破棄を回避するために奔走する。
しかし無慈悲にも卒業パーティーの最中、婚約者の王太子、テリーに呼び出されてしまうのだった。
無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。
木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。
本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。
しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。
特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。
せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。
そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。
幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。
こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。
※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)
この異世界転生の結末は
冬野月子
恋愛
五歳の時に乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生したと気付いたアンジェリーヌ。
一体、自分に待ち受けているのはどんな結末なのだろう?
※「小説家になろう」にも投稿しています。
転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜
矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。
この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。
小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。
だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。
どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。
それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――?
*異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。
*「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。
転生悪役令嬢は冒険者になればいいと気が付いた
よーこ
恋愛
物心ついた頃から前世の記憶持ちの悪役令嬢ベルティーア。
国の第一王子との婚約式の時、ここが乙女ゲームの世界だと気が付いた。
自分はメイン攻略対象にくっつく悪役令嬢キャラだった。
はい、詰んだ。
将来は貴族籍を剥奪されて国外追放決定です。
よし、だったら魔法があるこのファンタジーな世界を満喫しよう。
国外に追放されたら冒険者になって生きるぞヒャッホー!
【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる