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恋愛編

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それ以降、ことあるごとに彼女を試した

彼女と出会う機会があれば必ず話しかけたし、人好きのする笑顔も振り撒いた
それでは反応が薄かったため、少し笑顔の種類を変えて特別感も出したし、好意を匂わす発言を増やすのに加え、エスコートにかこつけてボディタッチまで試した
他の令嬢ならば頬を紅潮させて喜び、すぐに落ちてくれるだろう

しかし彼女の表情はほとんど変わらない

時折、瞳がわずかに揺れることはあるが、たたみかける前に美しい仮面のような笑顔に隠されてしまう
しかも、そのわずかばかりの変化も喜色ではなく、どちらかと言えば迷惑そうなもののように感じるのだ

なかなか尻尾ださないなぁ…
てか、ここまで迷惑そうにされたり無反応が続くと自信なくなるんだけど…

人目もあるため、ラピス皇国皇太子の婚約者であり公爵令嬢という身分を持つ彼女にあまり強引なことはできない
もしそんなことをして見とがめられれば、今まで目標に向かって自分が築き上げてきたものが崩れてしまいかねないのだから

本来ならそろそろ諦めるべきなのだろう
この手の人種相手に深追いすれば自分が痛手を食うことになりかねない
それはわかっているのだが…

…どうしても気になるんだよね~…

彼女と関わる度に、彼女の作り物めいた美しい笑顔を見るたびに、本物の表情が見てみたいという思いが増していく

もうちょっとだけ…
もう一回だけ…
次こそ…

そんなことを続け、気がつけば時間が許す限り彼女の仮面を剥がす方法を考えるようになっていた

そんな中、絶好のチャンスが訪れる偶然彼女が森の中へ入っていくのを見かけたのだ
声をかけようとしたが急いでいるのか人目を避けているのか…
辺りを見回しながら早足で先を急ぐのをみて声をかけるのをやめ、そっと後を追った
何をするのかと様子を伺っていると、シートを広げて飲食をはじめたのだ

あぁ、だから人目を避けてたのか…

貴族の中にも遠駆けに出たときなど、外出先で地面に座して飲食をする者もいることにはいるが、上流貴族の令嬢では珍しい

しかも…食べてるの、手作り?

取り寄せたり、パティシエに作らせたにしては素朴な見た目の焼き菓子
加えて令嬢達が作りたがるような華美な見た目のものでもない

まぁ…流行りものを好むような人物ではないんだろうけど…

さらに驚いたのは菓子を食べた彼女の反応だった

っ!
今…笑った…?

遠目かつ、横顔だったので明確な変化は確認できなかったが、雰囲気が和らぎ目元が綻んだ
それは無表情に近かいものではあるが、いつも浮かべている美しすぎて胡散臭い表情よりも、はるかに美しかった
その後、我慢できなくなり声をかけたことでその表情は隠れてしまったが、どうしてもあの顔がもう一度みたくなってしまった

お菓子食べてあの顔だったんだから…
似たようなものを食べさせれば見れるかな?

そう思い立ち、すぐに使用人に言いつけてフロランタンを用意させた



目の前で会話を続けている二人を見つめる

思考にふけっている間に機嫌を損ねていたアルベルトの雰囲気も、セシリア嬢のとりなしのおかげで気がつけばずいぶん穏やかになっていた
そして彼女の表情は、やはりいつもの完璧すぎる笑顔

綺麗なんだけど、やっぱりさっきの顔のがいいなぁ~…

菓子を食べて浮かべた先程の彼女の笑みを思い出す
目尻を下げ、頬はほんのりと染まり、口角が上がって纏う雰囲気が一気に柔らかくなる
冷たく見える整いすぎた容姿からは想像しがたい穏やかな微笑み

その笑顔は次期皇太子妃として裏表の激しい貴族社会を渡り歩いていくには必要のないもの
しかし、女性としてはこれ以上ないほどの武器となるだろう

現に僕も、あの笑顔が見れるなら何でも言うこと聞いちゃいそうだもんなぁ・・・

そんなことを考えながら紅茶を口に運ぶ
ちょうど話が一段落したセシリア嬢がカップを持ち上げるのとタイミングが重なった

「おや、気が合うね」

にこりと笑顔で声をかけるとそうですね、といつもの笑顔で何でもないように返事が返ってきた
隣のアルベルトは少し不満気だ

「もうこんな時間だな。そろそろ戻るか」
「あら、本当ですね
レオナルド様、長居してしまって申し訳ございません」
「いや、構わないよ。楽しい時間をありがとうね」

アルベルトが席を立つ
それに合わせてセシリア嬢も立ち上がった

「御馳走様でした
とても楽しかったです」
「喜んでもらえてよかったよ
うちの国の伝統菓子は他にもたくさんあるから、また取り寄せておくよ
よかったらアルベルトとでも食べに来てね」
「まぁ…お気遣いありがとうございます。楽しみにしておりますわ」
「セシル、行くぞ
レオナルド、邪魔したな」
「うん、また明日」
「それでは失礼いたします」
「うん、またね」

挨拶を交わし二人を見送る
一人になったレオナルドは先ほどセシリアが座っていた空間を見つめた

「・・・ちょっと本気で気に入っちゃったかも」

ぽつりとつぶやかれた言葉は誰の耳にも届かない
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