上 下
21 / 125
本編

20

しおりを挟む
「何笑ってるんだい?」

声をかけられ二人してそちらを振り向く
そこに立っていたのは金色の長髪を緩く束ねた青年だった

あ…この方は確か、アンバー王国の…

「レオナルドか」
「ずいぶん楽しそうだったけど何かあった?」
「いや…楽しくはないな」
「えー?めちゃくちゃ笑ってたじゃないか」
「まぁ、笑ってはいたが…」

話し出した二人の邪魔にならないよう、一歩後ろに下がって頭を下げた
視線を伏せながら記憶を整理する

彼の名はレオナルド
アンバー王国の第三王子だ
儚げな容姿に優しい言葉遣いと柔らかな物腰が特徴の攻略対象者の一人
ただそれは表の顔で、本当は計算高い腹黒というのが彼のキャラクター設定だった
まぁ、そんなことはどうでもいい

他国の攻略対象の方々はキャラ的に面倒そうな方が多いからあまり関わりたくないのよね…
このまま私のことは放っておいて立ち去ってくれないかしら…?

そう思いつつ、そっと会話している二人を伺う
するとレオナルド様と目があってしまった
不味いと思って不自然にならない程度の勢いで目を剃らすが、時すでに遅し
彼は笑みを浮かべて殿下に尋ねる

「ところで、そちらのご令嬢は?」
「あぁ、面識なかったな・・・セシリア・リストだ」
「あ!噂の天才令嬢だね?
君の婚約者になったっていう…」

レオナルド様が瞳に好奇心をのせて此方に向き直る

…関わりたくなかったのに…

そんなことを考えているとはお首にも出さず、笑みを浮かべて正式な挨拶の姿勢を取った

「お初にお目にかかります
ラピス皇国、リスト公爵家のセシリアでございます
ご挨拶が遅れて申し訳御座いません」
「あぁ、頭を上げて?」

促されて顔をあげるとレオナルドがすぐ近くに立っていた

「初めまして、セシリア嬢
僕はアンバー王国第三王子のレオナルドだよ
お噂はかねがね。会えて嬉しいよ
仲良くしてくれると嬉しいな」

そう言いながらレオナルド様は流れるように私の手をとり、甲に口づけた

「本当は君とアルベルトの婚約発表会にも友人として顔を出すもりだったんだけどね
どうしても外せない用があって参加できなかったんだ」
「まぁ…そうでしたか」
「うん。でも、無理にでも参加すべきだったかな?
正式な婚約発表の前にこんなに綺麗な人だって知ってたら僕も求婚したのに…残念だよ」
「あら、お上手ですね」
「ん?本気だよ?」

手を握ったまま朗らかな笑顔で話し続けるキラキラ王子
端から見れば爽やかな王子様が友人の婚約者を誉めている図なのだろう
だがキャラクター設定を知っているせいか、どうも胡散臭く感じてしまう

早く離してくれないかしら…

軽く手を引いてみるが痛くない程度に…だが、しっかりと握られていてびくともしない
ひきつりそうになる頬を耐えながら軽く微笑む

「ご冗談を」
「本気なのに…
ま、何にせよ君みたいに美しい人が婚約者になったなんて、アルベルトが羨ましいよ」

そう言って彼の視線が殿下へと移る
それに反応し、今まで黙っていた殿下が口を開いた

「冗談言ってないで手を離せ」
「おや?嫉妬かい?」
「バカか」

殿下がからかうような言葉を切って捨てると、彼は本気なのにと呟きながらも肩をすくめて私の手を解放した

「そんなことより、何か用か?」
「あ、そうだった
魔法史のレポートが全然終わらなくてね
助けてくれない?」
「またか…仕方ないな」
「ありがとう、悪いね」
「そう思うならたまには自分でやれ
・・・魔法史なら明日の朝一か…
時間がない。さっさと行くぞ」

そう言ってこちらに背を向けて歩き出した殿下

「ごめんね、セシリア嬢
また今度」

ウインクを飛ばしてレオナルド様も殿下のあとを追った
頭を下げてそれを見送り、二人が見えなくなったところで息を吐き出す

ヒロインといいレオナルド様といい…
なんだか面倒なことが起きそうだわ…
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方にとって、私は2番目だった。ただ、それだけの話。

天災
恋愛
 ただ、それだけの話。

完膚なきまでのざまぁ! を貴方に……わざとじゃございませんことよ?

せりもも
恋愛
学園の卒業パーティーで、モランシー公爵令嬢コルデリアは、大国ロタリンギアの第一王子ジュリアンに、婚約を破棄されてしまう。父の領邦に戻った彼女は、修道院へ入ることになるが……。先祖伝来の魔法を授けられるが、今一歩のところで残念な悪役令嬢コルデリアと、真実の愛を追い求める王子ジュリアンの、行き違いラブ。短編です。 ※表紙は、イラストACのムトウデザイン様(イラスト)、十野七様(背景)より頂きました

大事なのは

gacchi
恋愛
幼いころから婚約していた侯爵令息リヒド様は学園に入学してから変わってしまった。いつもそばにいるのは平民のユミール。婚約者である辺境伯令嬢の私との約束はないがしろにされていた。卒業したらさすがに離れるだろうと思っていたのに、リヒド様が向かう砦にユミールも一緒に行くと聞かされ、我慢の限界が来てしまった。リヒド様、あなたが大事なのは誰ですか?

【一話完結】才色兼備な公爵令嬢は皇太子に婚約破棄されたけど、その場で第二皇子から愛を告げられる

皐月 誘
恋愛
「お前のその可愛げのない態度にはほとほと愛想が尽きた!今ここで婚約破棄を宣言する!」 この帝国の皇太子であるセルジオが高らかに宣言した。 その隣には、紫のドレスを身に纏った1人の令嬢が嘲笑うかのように笑みを浮かべて、セルジオにしなだれ掛かっている。 意図せず夜会で注目を浴びる事になったソフィア エインズワース公爵令嬢は、まるで自分には関係のない話の様に不思議そうな顔で2人を見つめ返した。 ------------------------------------- 1話完結の超短編です。 想像が膨らめば、後日長編化します。 ------------------------------------ お時間があれば、こちらもお読み頂けると嬉しいです! 連載中長編「前世占い師な伯爵令嬢は、魔女狩りの後に聖女認定される」 連載中 R18短編「【R18】聖女となった公爵令嬢は、元婚約者の皇太子に監禁調教される」 完結済み長編「シェアされがちな伯爵令嬢は今日も溜息を漏らす」 よろしくお願い致します!

救国の大聖女は生まれ変わって【薬剤師】になりました ~聖女の力には限界があるけど、万能薬ならもっとたくさんの人を救えますよね?~

日之影ソラ
恋愛
千年前、大聖女として多くの人々を救った一人の女性がいた。国を蝕む病と一人で戦った彼女は、僅かニ十歳でその生涯を終えてしまう。その原因は、聖女の力を使い過ぎたこと。聖女の力には、使うことで自身の命を削るというリスクがあった。それを知ってからも、彼女は聖女としての使命を果たすべく、人々のために祈り続けた。そして、命が終わる瞬間、彼女は後悔した。もっと多くの人を救えたはずなのに……と。 そんな彼女は、ユリアとして千年後の世界で新たな生を受ける。今度こそ、より多くの人を救いたい。その一心で、彼女は薬剤師になった。万能薬を作ることで、かつて救えなかった人たちの笑顔を守ろうとした。 優しい王子に、元気で真面目な後輩。宮廷での環境にも恵まれ、一歩ずつ万能薬という目標に進んでいく。 しかし、新たな聖女が誕生してしまったことで、彼女の人生は大きく変化する。

人形令嬢と呼ばれる婚約者の心の声を聞いた結果、滅茶苦茶嫌われていました。

久留茶
恋愛
公爵令嬢のローレライは王国の第一王子フィルナートと婚約しているが、婚約者であるフィルナートは傲慢で浮気者であった。そんな王子に疲れ果てたローレライは徐々に心を閉ざしていった。ローレライとフィルナートが通う学園内で彼女は感情を表に出さない『人形令嬢』と呼ばれるようになっていた。 フィルナートは自分が原因であるにも関わらず、ローレライの素っ気ない態度に腹を立てる。 そんなフィルナートのもとに怪しい魔法使いが現れ、ローレライの心の声が聞こえるという魔法の薬を彼に渡した。薬を飲んだフィルナートの頭の中にローレライの心の声が聞こえるようになったのだが・・・。 *小説家になろうにも掲載しています。

婚約破棄をされたのだけど…

深月カナメ
恋愛
学園最後のパーティーで婚約破棄をされました。

婚約者に言わせれば私は要らないらしいので、喜んで出ていきます

法華
恋愛
貴族令嬢のジェーンは、婚約者のヘンリー子爵の浮気現場を目撃してしまう。問い詰めるもヘンリーはシラを切るばかりか、「信用してくれない女は要らない」と言い出した。それなら望み通り、出て行ってさしあげましょう。ただし、報いはちゃんと受けてもらいます。 さらに、ヘンリーを取り巻く動向は思いもよらぬ方向に。 ※三話完結

処理中です...