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本編

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婚約発表の翌日
ゲームの記憶を思い出したことや殿下の不思議な行動のせいで精神的な疲労感を感じていた私は、自邸で紅茶を飲みながら一息ついていた

「お疲れですね」

私付きの侍女であるマーサがおかわりのポットを持って声をかけてくる

「そう見えるかしら…」
「はい」
「そう…私もまだまだね」

苦笑して答えるとマーサが気遣うような表情を浮かべる

「やはり殿下と婚約は気が重いのでは?」

そう言われ笑って否定した

「そんなことないわ
皇太子の婚約者も、リスト公爵家の令嬢も、求められるものに大差はないもの」

そう
どちらも落ち着きや教養の深さ、気高さと美しさなど…
求められているのはとりあえず完璧であることただ一つ
幼い頃からそうあるべきだと育てられたので今さら大変だとは感じない

しかしマーサは首をふった

「そうではなく…
アルベルト殿下がお嫌ではないのですか?」
「殿下?」

質問に、目を瞬く
問い返すと彼女は眉間にシワを寄せて言葉を続けた

「だって…
魔法学校に入学される前まであれほど親しくしておられましたのに、急にお茶会もなくなってよそよそしくなってしまわれたので…
今まであえてお聞きするのは控えておりましたが、いつも温厚なお嬢様がお怒りになるほどの何かがあったのでは?」

そう言われきょとんとマーサを見つめる

なるほど…
端から見るとそう見えていたのね

一国の皇太子がそんな風に思われているのはいただけない
すぐに誤解を解かなくては…

「違うわ
どちらかと言うと怒らせてしまったのは私なの」

そう言うとマーサが目を見開く

「お嬢様が、ですか?」
「えぇ、幼い頃に許されていた降るまいが、大きくなっても許されるものだと勘違いしていたのよ」
「…?詳しくお伺いしてもよろしいですか?」
「えぇ、構わないわ
座って?久しぶりにお茶しながらお話ししましょ」

遠慮するマーサを説き伏せて向かいに座らせ、ゆっくりと話し始めた

__________________________________________________


そこでね、気がついたの
いくら幼馴染みで親しくして頂いていたといっても、私と皇太子殿下では身分が違うのよ
殿下はもう子供ではないのだからきちんとわきまえるように教えてくださったの」

流石よね、と呟いて紅茶を口に運ぶ
殿下は子供気分の抜けきらない私をわざわざ叱ってくださったのだ

なんて親切なのだろう
もし、あの時殿下が何も言ってくださらなければ、私はきっと人前でも殿下に馴れ馴れしく接していたに違いない
そうなれば身分もわきまえられない不届きものだと後ろ指を指され、笑われることになっていたはずだ
何より、そんなことでは今後ヒロインに注意するときに示しがつかないではないか

…あぁ、
もしかしたらゲームでの私はそうだったのかもしれないわね…

そう考えながらマーサに視線をやると、なんとも言えない表情をして座っていた

「…どうしたの?なんだかすごい顔をしているけど」
「…お嬢様、もしかして本当に殿下に感謝しておいでですか?」
「?当たり前じゃない
殿下が叱ってくださらなければ恥を晒すところだったのよ?」
「…」
「それにしても、公爵令嬢として恥ずかしいわ…
自分でそんなことにも気がつけなかったなんて…」

ため息をついて持っていたティーカップを置くとマーサが微妙な顔をしたまま立ち上がった

「…冷めてしまいましたね
取り替えて参ります」
「あら、温め直すからいいわよ?」
「いえ、せっかくですので気分を変えましょう
この間取り寄せた茶葉が届く時間ですので」
「そうなの?ならお願いするわね」
「かしこまりました
一度失礼いたします」

礼をして退室したマーサを見送り、一拍置いて首をかしげた

微妙な顔だったけれど…
誤解はとけたのだろうか?
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