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本編

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本当になんなのかしら…?

私の目の前ではこの国の皇太子であり、本日正式に自分の婚約者となったアルベルト殿下がワインを見つめたまま固まっている

夜中に訪ねて来ておいて、会話もせずにただ居座るのはやめていただきたいのだけれど…

早く退室してくれないだろうかと思いながらも、準備されたワインに口をつけた

…美味しい

あまりの美味しさにじっとワインを見つめる
さすが王宮と言うべきか、深い色合いと香り、芳醇な味わいと微かな渋み…
きっとお高いものなのだろう
いつも飲んでいる安物のワインとは大違いだ

考えてふと疑問に思う

…いつも飲んでいる、安物?

ここラピス皇国では飲酒が認められるのは15歳からである
自分はついこの間15になったばかりで、ワインを飲むのは誕生パーティーの時以来
今が2回目のはずだ
その時飲んだワインも、公爵家のパーティーで出たものなのだからそれなりのもので安物とは言い難かったはず
なのになぜ…?



軽く首をかしげるが、ふわりと漂うワインの香りに呆気なく思考を放棄した

…まぁ、ゲームの記憶があるくらいなんだから、そんなものかしら

勝手に納得し、再びワインを口に含む

それにしても、ほんとうに美味しいこと…

ほぅ…と吐息をついて目を細める
もう一口口に含み、舌の上を転がしながらうっとりと余韻に浸っていると前方から視線を感じた

…?

そちらに目をやるとアルベルト殿下が目を見開き、頬を赤らめて自分を見つめている

「…?」
「…」

何かあるのかと問いかけるように首をかしげるが反応はかえってこない

…ワインを見つめて黙りこんで
私を見つめて黙りこんで…
しばらくまともにお会いしていない間に随分とコミュニケーション能力が残念なことに…

そんな失礼なことを考えつつも、心配しているような、困惑しているような表情を器用につくって口を開く

「殿下?私の顔に何か…?」

問いかけると殿下はハッとした後、音がなりそうな勢いで顔をそらして立ち上がった

「何でもない…!」
「はぁ…
左様でございますか…」
「…今日はもう失礼する
倒れかけたんだ、夜更かしせずに早く休めよ」

それだけ言ってセシリアの反応も待たずに部屋を出ていってしまった
残されたセシリアは閉まった扉を見つめ、眉を寄せる

随分と長い間避けられていると思ったら急に部屋に来て
たいして会話もせずに酒だけ飲んで
まともに挨拶もせずに帰るって…

「(皇子として…というか、人として)…大丈夫なのかしら?」

ポツリと呟いた聞きようによっては不敬罪にとられそうな言葉は、幸いにも誰の耳にも届かなかった
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