甘イキしながら生きてます

ナツキ

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いち。

やっと。

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あーだるい。

大野にヤられそうになるなんて。そんで、仕方なく下手くそなキスを受け入れなきゃいけなかったのが、ほんとうにいやだった。
もう寮に帰ってしまおう。

15時すぎに寮にたどり着き、寮母さんには体調悪いから早退してきましたぁ~といって、部屋に戻って寝ころんだ。


ごろごろ。

ごろごろ。


なんかおなかすいたな。部屋に置いてある小さな冷蔵庫を開けると、おれのはプリンだけ入っていた。2つあるから、1個はあまね先パイにあげよう。昨日謝りにいくの忘れてたし。

そう思っていると、コンコンとドアのノックが聞こえたので返事をする。

「はぁーい」

ガチャリとドアが開いて入ってきたのはゆうと先パイだった。

おれは目を丸くする。

「えっっっ」

「心配で来た」

「~~~なんで?」

「涼が、お前が帰るの見かけたっていうから。教室に荷物も置いたままだろ?」

「あ……」

そうだった。おれ部室からそのまま帰ってきちゃった。
イラつくと、ろくなことないな。

「顔、ケガした?」

「……大丈夫です。部活は休むかもしれないけど」

大野に会いたくないし。

「オレ、座っていい?」

「……どうぞ」

勉強机用の椅子を、くるっと回してゆうと先パイに渡す。おれは2段ベッドの下に腰かけた。


「話したいことあって……」
ゆうと先パイが、低い声で話しはじめる。

うっ……やっぱ、好き……。


「二子コーチのこと、悪くいうつもりはなかった」

「そうですか」

てことは、やっぱり。

「……じゃあ、自分のことでした?」

おれは、一晩考えたことを聞いてみた。

「そう。オレのこと」


「……おれたち、つきあってたんですか?」

これも、考えていたこと。いつものおれなら聞けなかった。機嫌が悪くて、もう聞いちゃえーていう気分になってるから聞けてる。

「つきあいたかったけど、不安だった。だからうやむやにしてた」

じゃあ結局のところどっちなんだ?

つきあってなかった?

せふれ?



ゆうと先パイは、椅子から立ち上がり、制服の裾をズボンから出した。それから、おれのそばに膝立ちになり、おれの右手をすくう。

「伊織、手を入れてみて」

そういって、ゆうと先パイがシャツの裾を広げた。

おれはおそるおそる下から右手を入れていく。

「━━━っ」

おれの指が、先パイのお腹にあたると、先パイはピクリと反応した。


かわいい。

それから上へと手を這わせると、わずかにぽこぽことしていた。おれは動くのをやめる。

先パイの顔をみる。

「……汚いだろ」

自嘲気味に、先パイはいった。




ああ、そうだったんだ。

先パイは、おれに恥ずかしいと思ってたんだね。

それで、つきあえないと思ったの?

それで、見ようとしたおれをふったの?

「なんで?」

おれはなんで、恥ずかしいと思うの、っていう意味で聞きたかったけど、先パイは原因を答えた。

「親父にやられて、痕が残ってる」




たぶん、これはやけどの痕。

同級生の小さなやけどの痕を見たことあるから、知ってる。

さらに手を上になぞらせると、かなりの広範囲がぽこぽことしていた。

おれは、左手も差し込んで、それから手を後ろに這わせて、抱きしめた。


「誇るべき、痕じゃん……」


きれいだなんて、嘘はつかない。先パイも、それは望んでないはずだ。




だから、おれは思ったことを、そのままいう。

「サバイバーの、証だよね……」



おれだから、いえること。


おれの親は、なすすべもなく、あっけなく死んだ。

それって、無念だよね。抗うっていう選択肢なかったんだから。




ゆうと先パイは、生きてる、生き残れたってこと。その証を、なんでおれが汚いっていう?




いうわけないじゃん。


「汚いなんて、いうわけない」


ただそれだけ伝える。




先パイは、おれを抱きしめてくれた。




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