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9・最終章 依頼人◯天野伊織

終わりに気づいた時

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心配してくれた、と思ったけど。

よくよく考えてみたら怖い。

連絡もなしに、近くのコンビニにいるなんて。
あとで俺に連絡するつもりだったのかな?

「ケントさん、昨日電話気づかなくてごめんね。マナーモードにしてた」

「ああ、涼から聞いた」

「そっか。どこまでドライブするの?」

「……」
ケントさんは答えなかった。

怒ってる……?
そう思ったが、すぐに寮での生活について色々聞いてくれた。

「あまねの部屋は3階の端だろ。涼はどこなんだ?」

「涼くんは2階の端から2番目。もともとは、俺が住んでた部屋だよ。秋吉くんの件で交代したんだ」

「1階が浴場と食堂と事務室?」

「うん、あと洗濯室と、いくつか2人部屋もあるよ。スポーツコースの1年生が住んでる。2階は大きな談話室と、2人部屋。3階も2人部屋で、4階は3年生のための個室」

そういえば、ケントさんにはあまり寮の話を詳しくしたことなかったな。俺の生活、すべて気にする人だから、今度からは寮での話もしていこうかな。


車はしばらく走り、人気のない公園の広い駐車場に着いた。一番奥に停め、ライトを消した。周りは木々に囲まれ、公園への入り口はずいぶんと離れていた。

「あまね」

「うん?」

「キスして」

広い車内は、運転席と助手席で少し距離がある。手はつなげても、お互い移動しないと身体が触れるのは無理だ。

シートベルトを外して、膝をシートにつき、四つん這いの状態で唇を寄せた。街灯でわずかに照らされた車内は薄暗く、ケントさんをいつもより妖艶に魅せた。

ペチャペチャと、口の外で舌を絡ませる。

やさしく舐めてくるケントさんの舌が、気持ちいい。

「仔犬みたいだな」

あ、また犬って言われた。

ふふ、と俺は思い出し笑いをする。

「ケントさんには犬って言われるけど、俺ってネコって言うんだね」

「セックスでどっち側かってことだろ」

「らしいね?  天野くんていう子に、バリネコのドMさんと言われた。あ、天野くんは寮生でサッカー部の1年生だよ。この前『呪いのメェー様』の相談受けたんだ。……サッカー部のキャプテンと付き合ってるみたい」

つい寮での生活を、と思って話したが、嫉妬深いから寮生については言わない方が良かったな。ケントさんが不機嫌になりそうだったので、補足をどんどんつけ加えた。

「む、胸のね、痣を見られて。それでドMなんですね、て言われたの」

なんかどんどん墓穴を掘ってしまった気がする。ケントさんの顔から表情が消えた。

「お風呂で痣を見られたんだよ。共同だからね? ごごめんね、ケントさん、怒った?」
実際はベッドで服をめくられて見られたが、嘘をついた。

「寮で、その天野くんってやつとなにかしたか?」

「相談受けて、たまたま話しただけだよ」

「バリネコ、て意味調べた?」

「絶対ネコってことでしょ?」

「天野くんとヤッたのか?」

「しししてないよっなんで?  それで怒った?  誤解だよ」

「なにかないと、バリネコのドMさん、ていう会話にならないだろ」

「そ、そうかな?」

「あまね、後ろのシートに行け」

「あ、あのね、なにもないからね?  ごめんね?」

俺は怖くなって、下手に出て謝った。

「いいから後ろに行け」

俺は一旦外に出て、後ろのベンチシートに移動した。

ケントさんも遅れて座ったが、表情は取り返しのつかないほど怒りに満ちていた。

「肋骨、痛いか?」

「痛み止め飲んでるから大丈夫だよ」
薬を飲んでても完全に痛みが消えるわけではなかったが、ケントさんが罪悪感にさいなまれないようにと、そう答えた。

なのに、ケントさんは胸を押してきた。

「━━━━ッ゛!!」

「何ヶ所折れてた?」

ミシミシと軋轢音が身体の中に響いた。

「に、2ヶ所。ケントさん、やめて」

「天野とはセックスしたのか?  涼ともヤッたんだろ?」

身体を合わせ、耳のそばで低い声を発するケントさん。その色気漂う声にゾクゾクしながら、俺は必死に謝った。

「し、してないよ。ごめんなさい、寮での生活のこと知りたいのかなと思って。もう言わないから、怒らないで」

謝りながら、涼くんがわざわざケントさんちまで生存確認、と言ってやって来たのを思い出した。
俺、ケントさんに殺される可能性あるってことだよな。涼くんはそれを心配していたんだ。

今、やっと確信した。

ケントさんの胸を抑える手は力を増し、俺は冷や汗が出てきた。

「ケ、ケントさん……折りたいの?」

「涼とヤッたんだってな」


なんで━━━。

涼くんの方に連絡来たって言ってた。ケントさんに病院行ってないの怒られたって。

その時、涼くんが言っちゃったのかな?
いや、俺がケントさんに暴力振るわれるの恐れている涼くんが、言うわけない。
ハッタリだ。

「涼くんとは、『呪いのメェー様』のこといっしょに調べてるだけだよ。電話、気づかなくてごめんね……」

気まずくて、目線を下げると、足下に箱が置いてあるのに気づいた。





……車内でする気なんだ。

キレイ好きのケントさんが?

なんで?

今週行けないって言ったから?

そんなに、待てないの?

俺が思い詰めさせた?

この距離のドライブするくらいなら、ケントさんのマンションに行った方が早かった。

それをしなかったのは?

拒否されると思った?

不安なの?








すぐ嫉妬して、簡単に理性を失うケントさん。








2人が麻薬なんかじゃない。

俺が、麻薬だったんだ。


ケントさんを惑わせてしまった。

狂わせてしまった。



俺のせいだ。



「ケ、ケントさん……」

「もう、寮に帰らせたくない」

「……ケントさん、膝に乗っていい?」

圧迫された胸がようやく解放され、俺は静かに長い呼吸をした。

ケントさんの瞳を見つめながら、膝の上にまたがる。

「ケントさん、大好き……」

手のひらをケントさんの胸元に置き、キスをして舌を差し込んだ。

ケントさんは力強く返し、息ができないくらい激しく咥内を犯された。

「━━━ッはぁ、ケントさん……」

一度唇を離し、ふぅ、ふぅ、と肩に顔を乗せて、休憩する。

「ケントさん、『呪いのメェー様』の事件、もう解決すると思うから、それまで待ってくれる?」

「いやだ」

「ダメ、待ってて。……解決したら、退寮するから、ケントさんちに住まわせてよ」

ピク、とケントさんは反応し、それから髪をやさしく撫でてくれた。


その手は、かすかに震えている。


「あまね……、あまね……」



それからケントさんはうれしそうに、ギュウッとしてくれた。



「毎晩、ケントさんとセックスしたい。縛られて、絞められて、殴られて、めちゃくちゃにしてほしいから」

毎日気を失うまで痛めつけられ、犯される。

きっと、そうやって俺はケントさんに殺されるんだ。






大好きなケントさん。



ケントさんが望むなら、やっぱり俺はなんでもしたいし、拒みたくない。

たとえそれで終わりが来ても、ケントさんに殺されるなら本望だ。





でも。



死ぬのは、事件を解決してから。






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