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7・依頼人⑦向井絢斗

俺の望みは

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結局、ケントさんはそのまま帰っていった。服を着て追いかけたものの、すでに車は去ったところだった。
しばらく呆然としていたが、気を取り直して涼くんの行方を探す。

食堂で夕食を食べていた涼くんを見つけ、俺はにじり寄った。
「涼くんっ!」

「あまね、体調戻った?」

「ケントさんになに言ったの」
俺は頭痛もあり少しイライラしていた。態度にトゲがあることはわかっていたが、怒りがおさまらない。

「……ケンカした?」

「だからなにを言っちゃったか教えて」

「……あまねが、制服を人にやったって言った」

「なにそれ」
なんでそんな話から、ああいう詰問になるんだ?

「他は?」

「あとで部屋で話そう。とりあえず、あまねも食べな」
涼くんは、ちらりとほかの寮生に視線を向けた。

「ごめん」
ハッとし、俺は口をつぐんだ。
そして俺は朝食であまった牛乳だけもらい、部屋に戻った。

チョコをひとくち食べ、牛乳を飲む。

窓を開け外を見ると、今夜は新月で真っ暗だった。

以前、涼くんと月の話をしてから、ときどき寮の窓から空を眺めていた。
冬の澄んだ空は星が綺麗で、月がないおかげで余計に輝いて見えた。

自分に非があることはわかっているのに、涼くんにあんな態度をとってしまった。謝ったら許してもらえるだろうか。

涼くんはなかなか来なかったので、先に風呂を済ませた。
それからさらにしばらくして、涼くんがやってきた。
「涼くん、ごめん」
俺が謝ると、涼くんはハグしてくれた。ホッと、胸を撫で下ろす。

誘われ、二段ベッドの下に、並んで座る。
「あのさ、オレが今から聞くこと、とりあえず正直に答えてほしい」

「わかった」

「いくよ。1、ケント先生が好きである」

「うん」

「2、制服のニットベスト、欲しがる生徒がいたのであげた」

「うん」

「3、森内玲央がエッチしてほしいと言ったのでヤッた」

「うん」

「4、誰かからお願いされたら、できる範囲でなんでもしてあげたい」

「うん」

「5、たとえば死ねと言われたら、死ぬ」

「それは、いいえかな」

「6、いっしょに死んでほしい、と言われたら死ぬ」

「……うーん。状況による」

「7、ケント先生からいっしょに死んでほしい、と言われたら死ぬ」

「うん」

「8、ケント先生に他の人とエッチするなと言われたら、守る」

「うん」

「終わり。ケント先生、聞きましたか?」

「え?」

「ごめん、オレ、今日ケント先生と連絡先交換してたんだ。今通話中になってる」

「うそ……」

「ケント先生、ちゃんとあまねと話してください、って言ってるでしょ?  はっきり言わないと伝わらないんですよ」
涼くんが、電話越しにケントさん?に説教している。

「あまね、ごめん。オレがケント先生に、あまねは相手が望んだらなんでも差し出しちゃうから不安だ、って言ったんだ。制服のこととか、自分の時間とか、身体とか。自己犠牲が多すぎて、心配になるって。エッチしたことはさすがに言わなかったけど、さっきバレたんだろ」

「ご……ごめんなさい、ケントさん……」

「暗黙の了解だと思ってた。ごめんな、あまね」



それから、涼くんのスマホで3人で話をすることにした。
どうも、ケントさんははっきり言わないし俺は察せないし、なかなか話が伝わりにくいようだ。

さっき、ケントさんは俺が自己犠牲によりどこまでもOKするのが許せなかったようで、不機嫌になっていた。しかも、恋人なのにかかわらず他の人とセックスしたことも怒っていた。ただ、俺は浮気したつもりじゃなく、人助けの意味合いが強かった。それを、電話越しで伝えてなんとかわかってもらえた。誰もが同じではなく、ケントさんが格別な存在なことも。
今度からはセックスはさせない、とお互いに約束をし仲直りをした。

そして、俺の体調不良を心配した涼くんが、ケントさんちに行くのを土曜にしてほしいと提案してきた。

「あまね、今夜は夕食も食べれてないんです。一回生活習慣を整えさせてください」

ケントさんちに行くとハードなセックスが待ってるから、とは言わなかったが、たぶん涼くんはそれを心配したのであろう。
会えないのは寂しかったが、涼くんの言うとおり休息をとることにした。

「ありがとう、涼くん」
電話を切ったあと、改めて涼くんに感謝の意を伝えた。

「いいよ。オレはあまねがずっと元気で幸せでいてほしい」

俺は涼くんの肩に、頭を乗せた。



……あ。


森内くんのは浮気のつもりじゃないけど、涼くんとのキスは浮気だな、と思った。
でもそれができなくなるのは辛いなあ、と感じている俺はやはり淫乱なのだろうか。

「オレは、このまま続けたい」

頭上から、俺の心の声が漏れたかと思った。

顔を向け、涼くんを見つめる。

「あまねと、このままの関係がいい」

「……俺も」

大好きな涼くんの綺麗な顔が近づき、唇が口の端にかすかに触れる。
口を少し開け、涼くんの唇を挟む。

ゆっくりとまぶたを閉じると、涼くんは唇と唇が重なるように俺の頭を押さえた。


浮気をしない、と発した口に涼くんの舌が淫らに入りこみ、グチュグチュと激しくかき回す。俺の舌は必死に応え、唾液が絡み身体中がジンジンとしびれ熱を帯びた。

「んんっ━━♡」
女みたいなかわいらしい声を上げると、涼くんは俺をギュッと抱きしめながら押し倒し、硬くなった下半身を俺に当てた。

「はぁっはぁっ」
激しくキスをされ、息の上がった口に糸がつたった。涼くんは俺を見下ろして「えろ……」とつぶやく。
ケントさんに操を立てたそばから、俺は涼くんと快楽に溺れているのに、なぜか少しの罪悪感も感じなかった。それどころか、

「まだ食堂開いてるし、少し食べに行こ?  食べれたら、もっと気持ち良くしてやるから」
そう涼くんに言われ、気持ち良くされる自分を想像して、甘イキする始末だった。


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