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花束の贈り主

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「そんな暴力的で陰湿なことをする女と結婚することはできない。俺も子爵家を継がなければならない身だからな。代わりに、このハンナと結婚することにした。彼女ならば子爵夫人として俺をしっかりと支えてくれるはずだ」

 ハンナさんと結婚?
 い、一旦そのことは置いておいて、とりあえず冤罪をなんとかしなければ。

「い、いいえ。そんなことはしていません。ハンナさんとはこれが初対面ですし」

 慌てて弁解すると、ユージーンは勝ち誇ったように腕を組んだ。

「動揺したな。図星をつかれたんだろう。ハンナが泣きながら訴えてくれたんだ。それなりの処分は受けてもらうぞ」

 ええ……。私は顔をしかめた。

「大体、お前は毎年毎年誕生日になると花束が送られてきたとかいう自慢ばかりするからな。どうせ恋人からの贈り物か何かだろう。贈り物をしない俺への当てつけか? うっとうしくて嫌だったんだ」

 私は目を見開いた。
 妖精さんはユージーンではなかったのね。
 毎年良かれと思って感想を言っていたのは間違っていたみたい。

 ……というか、彼、今婚約者の誕生日に贈り物をするという礼儀すらもわきまえていないことを大々的に発表してしまったわけだけれど、大丈夫なのかな。

 ユージーンは演説を気持ちよさそうに続けている。

「将来子爵夫人となっても俺を支える気がこれっぽっちもないのが丸わかりだ。花束の贈り主と結婚したらどうだ? 社交界には居場所はないだろうが、愛する男と添い遂げられるんだから本望だろう」

 勝手な想像をふくらませているようだ。
 ユージーンが妖精さんではなかったことが分かり、情もなくなった私は、していないことをしていないと証明するためにはどうすればいいのかと悩み始めた。

 そうだ。

「ハンナさんにお伺いしたいのですが、それはいつのことですか? 私には身に覚えがありませんので、人違いだと思うのですが」

「え、ええと、それは……」

 ハンナさんは、戸惑ったように目を泳がせた。

「そ、そんなに強く言われたら、怖いです」

 ハンナさんは震えながら助けを求めるようにユージーンにすがりついた。

「ユージーン様、キイラさんを見ると突き落とされて階段から転がり落ちたことを思い出して震えが止まらないのです。あちらで休んできてもいいですか。キイラさんのことはユージーン様にお任せしますので」

 ユージーンは豊満な胸をお持ちのハンナさんに腕にすがりつかれて嬉しそうな表情を浮かべた。
 私は自分の胸を見た。
 うん、足元まで視界良好。遮るものは何もない。

 しかし、デレデレしていたユージーンのハンナさんへの返答は、ハンナさんの期待していたようなものではなかった。
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