初恋と想い出と勘違い

瀬野凜花

文字の大きさ
上 下
84 / 96

84 初デート1

しおりを挟む
 合宿から帰ってきて数日経ったある日。
 私は王都の中心部にある噴水にむかっていた。

 今日は、ルーと2人で会おうと約束した日だからだ。いわゆる、デートである。私たちは噴水で待ち合わせをしているのだ。

 貴族の男女が会う時は、本来ならば男性が女性の家まで馬車で迎えに行き、そこから目的地へ向かうので待ち合わせはしない。
 それにもかかわらず私たちが待ち合わせをしているのは、私がまだ両親にルーとの関係を話せていないからだ。

 お父さまは私には最高の男性と結婚してほしいのだと言って、私が男性を連れてきた時には厳しい目で審査するのだと意気込んでいる。
 昔手紙を出して返事が返って来なかったことを嘆く私を見て、ルーに対して「許さん!」と息巻いていたことを覚えている私としては、なかなかルーと恋人関係になったことを言い出しにくかったのだ。

 ルーはそんな私の気持ちを尊重してくれて、待ち合わせにしようと提案してくれたのだった。

 噴水の前につくとルーは先についていて、私の姿を見つけると手を振った。

 私はルーに駆け寄った。

 ルーは街で浮かないようにシンプルな服を着ていた。白いシャツに紺色のベスト。ズボンは細身で、スラリとした長い脚を強調していた。身長の高いルーはどんな服でもかっこよく着こなすことができるようだった。むしろ服がシンプルだからこそ、その顔の良さが引き立っている。

「ルー、その服、とっても似合ってるわ」

 ルーは目を細めた。

「ありがとう。君も、とっても綺麗だ。その服……。あの花の色に、よく似てる」

 そう。私が今着ているワンピースは、あの思い出のピンクの花に似ていて一目惚れして購入したものだった。既製品で平民の服なので着る機会はあまり多くはないが、大のお気に入りだった。

「ルーもそう思う? お気に入りなの」

 くるりとその場で一回転すると、スカートがふわりと揺れた。

 さっそくお店を見てみようと歩き出した私の手は、すっぽりとルーの大きな手の中におさまった。
 私は少し動揺したものの、必死に平静を装った。私は男性に慣れていないからちょっとしたスキンシップでも照れてしまうのだが、ルーはどうやら照れる私を見て楽しんでいるようなのだ。今日はルーの思い通りの反応なんてしないわ。

 そう決意したものの、子どもの頃とは違う大きくて骨ばった手は、ルーが男性であることを意識させる。
 だめだめ。今日こそは、頑張るのよ。

 繋いだ手とは反対の手で気になったお店を指さした。

「あの店に行ってみたいわ」

 今日はなんだか良い感じだわ。普通に話せてるもの。

 そう思ったのも束の間。ルーの手の力が一瞬緩んだかと思うと、指と指を絡めて繋ぎ直された。

 うわぁぁぁ、むり。

 私はプシューッと音が出そうなほど頬を紅潮させ、へなへなとその場にしゃがみ込んだ。
 頭上からルーがくすくす笑うのが聞こえてくる。いつもルーの方が上手だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします

天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。 側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。 それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。

お飾りの私と怖そうな隣国の王子様

mahiro
恋愛
お飾りの婚約者だった。 だって、私とあの人が出会う前からあの人には好きな人がいた。 その人は隣国の王女様で、昔から二人はお互いを思い合っているように見えた。 「エディス、今すぐ婚約を破棄してくれ」 そう言ってきた王子様は真剣そのもので、拒否は許さないと目がそう訴えていた。 いつかこの日が来るとは思っていた。 思い合っている二人が両思いになる日が来ればいつの日か、と。 思いが叶った彼に祝いの言葉と、破棄を受け入れるような発言をしたけれど、もう私には用はないと彼は一切私を見ることなどなく、部屋を出て行ってしまった。

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...