瀬野の短編集「恋愛」

瀬野凜花

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臆病な僕ときみの嘘

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 最近出来たばかりのカフェに、2人で入った。

 ケーキを一口食べた君は、ムフフと笑ってスマートフォンを手に取った。
 ピロンとメッセージの通知音が鳴る。

『私、実は甘いものが嫌いなんだよね』

 君の前にずらりと並んだケーキたちを見る。
 既に君は1つ目を食べ終えて、2つ目に手をつけているところだった。

「おいしい?」
「おいしい! 来てよかった! ありがとう!」

 食い気味な返事に苦笑する。
 君のケーキを食べている様子を見るだけで、お腹がいっぱいになりそうだ。

『僕のショートケーキは、君にはあげない』

 3つもケーキを注文する君に合わせて、僕も2種類選んだ。しかし、僕は今食べているタルトだけで満足だ。

 メッセージを見た君は少し考えこむ様子を見せたあと、パッと表情を明るくしてスマートフォンに文字を打ち込み始めた。

『お腹がいっぱいだからいらない!』

 ショートケーキを君の方に寄せる。

「ありがとう!」
「どういたしまして」

 君は嬉しそうに食べ始めた。
 口いっぱいに頬張って味わう君は可愛い。

 最初は、エイプリルフールの嘘はメッセージで送るなんていうルールは面倒だと正直思っていた。だが意外と楽しいかもしれない。
 君が声に出した言葉に嘘はないと信じられるから。

「来てよかった!」
「僕も」

 4月1日にデートをすることに乗り気になれなかった僕だけど、すっかり楽しくなっていた。
 もし今日告白したら、良い返事をもらえるだろうか。

 そんなことを考えていたとき、ふと思い出した。
 高校を卒業した年のエイプリルフールのあの日も、こうしてケーキを食べたっけ。
 胸がチクリと痛んだ。
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