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27. 特別講義とか真夏日予報とか
しおりを挟む《今日の見合いはどうだった>志麻》
《俺も気になってた! 志麻センパイ、極妻になれそう?》
《ダメ、最悪。カフェで相手に水ぶっかけちゃった》
《なんだその展開は。意味が分からん》
《ちょ、kwsk》
《ん~色々あって……てか超話長い人だった、校長より長い》
《話長いヤクザウケるwwwww 話長ーんだよ! バシャッ! って感じ?》
《まあ、そんな感じなのかな結局》
《水かけ姫だな》
《理不尽すぎっしょ! マジその場に居たかったわ》
《同感。それで、獅子神氏とは破談になったのか》
《いやそれが、何でか知らないけど明日もう一回デートしたいって言ってきた》
《さらに超展開だな》
《mjd!? それ仕返しに倉庫とかでお仕置きされるパターンでは?》
《や、そんな感じでもないんだよね》
《てかその水ぶっかけられマン、どんな奴なの》
《超イケメンとしか言いようがない。すごく顔が良い》
《何系イケメンなん? ワイルド系? 可愛い系?》
《クール系かなあ。あ、ちょっと環に雰囲気似てるって思った》
《うわーマジ見てみてえ! クール系イケメンヤクザ獅子神さん見てええええ 俺明日見に行こうかな》
《ダメだってば》
《私は作業に戻る》
《おつっすー》
《あ、そうだ、ひとつだけ聞いていい?》
《朱虎に、あたしじゃたたないって言われたんだけど、どういう意味か分かる?》
《なに?》
《ちょwwwwwわろwwwやべえ爆弾投下wwwwwww》
《文字での説明は少々障りがあるな。今から文芸部緊急グループ電話ミーティングを開始する》
《りょか!》
《え、忙しいのにいいの? ありがとー》
「眠い……暑い……」
初夏のくせにやたら照り付けて来る太陽の下、あたしはとぼとぼと歩いていた。
昨日、環から聞かされた『特別講義』の濃すぎる内容のせいで、ほとんど眠れなくて頭がぼんやりしている。
今朝は朱虎の顔をまともに見られなくて朝の用意も送迎も全部断ってしまった。なかなか服を決められなくて朝ご飯はぬきになったし、乗らなきゃいけないバスには乗り遅れて、しかも今日は今年初の真夏日予想だった。おかげで、ひたすら陽に焼かれながら歩く羽目になっている。
「う~……汗が酷い。後でメイク直さないと……全部、朱虎のせいだ」
昨日は環が淡々と男子の生理現象について説明する横で、最初から最後まで風間君が馬鹿笑いしていた。月曜に顔を合わせたらまた笑われるだろう。目の前で笑われたら、さすがにぶん殴らない自信がない。
「あ、そうだ、部活ないからしばらく風間くんと顔は合わせずに済むか……念のため、部室には近寄らないでおこう」
いい加減くらくらしてきたころ、今日のデート場所である美術館が見えてきた。獅子神さんが「志麻さんがお好きそうな企画展をやっているのでぜひ」と指定してきたのだ。美術館の前の公園で待ち合わせの予定だったが、獅子神さんはまだ来ていないようだった。
「企画展って何やってんだろ……ええと、『幽玄の世界――中国書家展』……し、書道?」
獅子神さんはこの企画展のどこがあたしにハマると思ったんだろう。謎だ。
「あたし、選択授業でも一度も書道選んだことないんだけど……これ自分の趣味なんじゃないの?」
やっぱり今日もあの怒涛のトークが炸裂するんだろうか。考えただけでうんざりしてため息をついた時、視界が急にふっと暗くなった。
あれ? 雲が出てきたのかな。
空を見上げようとした時、いきなりぐにゃりと視界が揺れた。
全身から汗が噴き出し、すうっと血の気が引くような感覚が走る。
なに、これ。
心臓が大きく脈打ち、足から力が抜けて――
「危ない!」
ふらついたところを、誰かに受け止められた。
「大丈夫かよ、おい!」
「あ、あれ? あたし……」
男の人の声だ。通りすがりの人だろうか。
目が回ってうまく喋れない。
「横になれるところ……ちょっと抱えるからな」
抱え上げられて運ばれるのが分かったけど、答える余裕なんてなかった。酷い頭痛と吐き気が波のように襲ってくる。
ひたすら耐えていると、柔らかくて涼しいところに寝かされた。ひやりと冷たいものが目を覆うようにかけられる。
あ、気持ちいい。
「スポーツドリンク、飲めるか。ちょっとずつでいいから」
ぼうっとしていると口元にペットボトルを当てられたので、されるがままに少しずつ飲み下した。わんわん鳴り響いていた耳鳴りが、次第に治まってくる。
あたしはどうやら木陰に寝かされているらしかった。涼しい風が吹くと、ざわざわと葉擦れの音がしてすごく心地いい。
「……どうだ、少しはマシになったかよ?」
「ふわっ、はい」
ヤバい、楽になってきたら寝不足のせいでちょっと寝かけてた。
あたしは慌てて身を起こした。とたんにまためまいが襲ってくる。
顔にかけられていた濡れたハンドタオルがぱさりと落ちた。
「あ、無理すんなよ。まだ寝てた方がいいんじゃねえか」
「ありがと……って、え?」
視界に飛び込んで来たのは見覚えのある金髪にジャラっとした鼻ピアス。
顔にはまだ痛々しいあざが残っている。
「……スポドリじゃなくて100%オレンジジュースのが良かったか?」
何となく照れ臭そうな顔で言った相手を、あたしはまじまじと見つめた。
「あ、あんた……ミカ!?」
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