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第14話

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 あの出来事から数日が経った。

 どうやら桜井親子は上手くやっているようだ。

 もう桜井莉緒は魔法を普通に使えるようになっていた。

 やらかした。

 敵なのに背中を押してしまった。

 何をやっているのだ余は、せっかくのチャンスだったのに。

 余の目的は魔法少女を倒して地球を征服することだろ?

 自ら離れていってどうするのだ。

 だが、もう過ぎてしまったものは仕方ない、次からは気を付けないとな。

 あと、あの出来事があってから桜井莉緒がなぜか余に構うようになってきた。

 朝余が登校してきたら

「おはよう」

「おう」

「眠そうだね、ちゃんと寝た?」

「ああ」

「ちゃんと朝ご飯食べた?」

「ああ」

「あ~もう寝癖ついてるよ」

 桜井莉緒は背伸びして余の髪を触ろうとする。

「勝手に直そうとするな」

 余はそれを拒む。

「ネクタイも曲がってるよ」

「おい!近いぞ」

「ちゃんと迷わず学校に来た?」

「余をなんだと思っているのだ!あと、お前急に馴れ馴れしいぞ」

「だって宇野くんには感謝してるんだもん。宇野くんのおかげでお父さんと上手くいってるんだよ」

 お前にとっては良いことだがな、余にとっては最悪なことなのだ。

「それに宇野くん世間知らずっぽいし、私心配で心配で」

「お前は余の親か!余に馴れ馴れしくするな」

「はいはい、で、今日ちゃんと教科書持ってきた?」

「だから」

 が、3日前の出来事である。

 あいつ家ではもう母親の代わりになっていないからしわ寄せが余に来ているではないか。

 もしかしたらあいつは元々そういう性格だったのかもしれないな。

 あと、メッセージのやり取りをするために無理やりアプリを入れさせられて、無理やりアドレスを交換させられた。

 なんで桜井莉緒とメッセージのやり取りをしなければならないんだ。

 やり取りって言ってもしょうもないやり取りだ。

『起きてる?』

 とか

『晩御飯ちゃんと食べてる?』

 とか

『もう寝た?」

 など、あいつは完全に余の母親になった気分でいる。

 ブブッ

 噂をすればというやつなのだろうか、桜井莉緒からメッセージが来た。

『まだ起きてる?』

 こんなことで送ってくるなよ。

『起きてたら悪いか?』

 ここで気づいてしまった、これを送ってしまったら今後も返さないといけないじゃないか。

 しまった。寝たことにしとけばよかった。

『よかった~。宇野くん、明日空いてる?』

 明日の予定を今聞くなよ。

『暇だぞ』

 また送ってから気づいてしまった、暇と送ったら何かに誘われてしまうではないか。

『じゃあ明日千沙のバレー観に行こう!』

 なぜ余が敵と一緒に敵のバレーを観なくてはならないのだ。

『行かん』

『え~行こうよ』

 せっかくの休日をなぜお前らに使わなくてはならないのだ。

『絶対に行かん』

『え~~~分かったよ……』

 お!今日は大人しく引いていった。

 今日は余の勝ちだな。

 これで休日は余のものだ。

 ***

 ピンポーン

 ピンポーン

 ピンポーン

 ピンポーン

 だぁ~うっせぇ。

 誰だよこんな朝っぱらから、宅配か?

 ガチャッ

「あ!おはよう宇野くん」

 は?

 ドアを開けてら桜井莉緒が立っていた。

 休日の朝、インターホンが鳴ってドアを開けたら桜井莉緒が立っていた。

「ごめんね、急に」

 ごめんと思うなら急に来るなよ。

「何をしに来たんだ」

 余は確か昨日は無理だと言ったはずたよな?

「バレー観に行こう」

「昨日行かないと言ったはずだ」

 言ったよな?

 言ったっけ?

 言ったか?

「宇野くん暇って言ってたもん」

「暇だが行くとは言っていない」

「暇なんだね、じゃあ行こう!」

 桜井莉緒は拳を空に突き上げる。

 朝から元気だなこいつは。

「とりあえず余は行かないから」

 敵と敵のバレーを観なくならないのだ。

 あれ?昨日もこんな感じだったな。

「はいはい、分かったから。早く準備してね」

「だから余は行かないと言っているだろ」

「はいはい、分かったから。早く準備してね」

 あ~もうダメだ、こいつ退く気ゼロだ。

「あ~~準備するから待ってろ」

 次は絶対居留守使ってやる。

「一人で準備できる?」

「余をなめるな」

 こいつは余を子どもと勘違いしているのか?

 一旦家の中に戻る。

 本当に最近桜井莉緒になめられている気がするのだが、どうしたものか。

 さっさと準備をしないと桜井莉緒がやってきて手伝いにやってきてしまう。

 素早く準備を終え、桜井莉緒のところへ向かう。

「早く出来たね、えらいえらい」

 桜井莉緒は背伸びをして余の頭を撫でようとしてきた。

「お、おい、やめろ」

 余は咄嗟に避ける。

 やっぱりこいつは余を子どもだと思っているようだ。

「あれ~?顔赤いよ~」

「赤くない。ほらさっさと行くぞ」

「うん、行こう」

 どうやらバレーをやっている場所は最寄りの駅から6駅離れているらしい。

 で、今は最寄りの駅まで移動しているの。

 余は桜井莉緒の隣で歩きたくないのだが桜井莉緒が歩幅を合わせてくる。

 何でそんなに隣で歩きたいのだ。

「朝ご飯は食べた?」

「食べてない」

「おにぎり作ってきたけど食べる?」

 こいつやたら大きいカバンを持ってると思ったがそういうことことだったのか。

「食べない」

 敵から施しは受けない。

「どのおにぎり食べる?」

 おい、話を聞け。

 桜井莉緒はカバンをガサゴソ弄っておにぎりを取り出そうとしている。

「梅とゆかりのやつ?塩昆布と鮭のやつ?ひじきと枝豆のやつ?それとも焼きおにぎり?」

 あ、ヤバい。

 聞いただけで余の腹が。

 何でそんなに名前だけでも美味しそうなのだ。

 くっ、今回だけ、今回だけ施しを受けるとしよう。

「一種類ずつくれ」

「四つも食べるんだね!ちょっと待ってね~はい、最初は梅とゆかり」

 こいつ朝から作ってきたのか?

 大変なのによくこんなことするな。

 余はラップを剥がし一口食べる。

 悔しいがうまい。

 梅とゆかりのバランスがちょうど良いんだよなぁ。

「どう?美味しい?」

「まぁ、そこそこ」

「良かった。あ、お茶欲しかったら言ってね」

 用意周到だな。

 水分なんか持っていたら重いだろ。

「おい、カバン持ってやる」

 これでチャラだ。

「え…ありがとう」

「あ、ありがとうって言うな」

 これを言われると変な気持ちになってしまう。

 ダメだ、体がふわふわする。

 くそ、こんな姿敵に見せられるか。

 余は誤魔化すために一気におにぎりを平らげる。

「すごい。全部食べちゃったよ、さっすが男子」

 ふん、余が余だから食べれただけだ。

 ***

 駅まで着いて切符を買う。

 しまった、先に桜井莉緒を行かせて余は走って行けば良かった。

 改札を通ってホームに向かう。

 10分くらい待って電車がやってきた。

 プシュー

 ドアが開き、余と桜井莉緒は乗り込む。

 座れるところが無かったため、立って目的地まで待つ。

 電車が発車し、電車が揺れ始める。

 久しぶりに電車に乗ったが悪くないな、景色が綺麗だ。

 にしてもこの電車は揺れが激しいな。

「きゃっ」

 桜井莉緒はバランスを崩し他の乗客に当たりそうになる。

「おい」

 咄嗟に手が出て桜井莉緒の肩を掴んで、余の方に寄せる。

「危ないから余に掴まってろ」

「うんっ」

 桜井莉緒は余の服の裾を掴む。

 なぜお前の顔が赤いのだ。
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