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第三章 元女子高生、異世界で反旗を翻す
41:いざかかれ! アールテム革命戦争勃発!
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その日は遅めに昼食を食べ、すぐに床に入った。
「ついに、これから寝て起きたら始まるんだよね」
「うん、お姉ちゃん。寝れないよ」
「お腹いっぱいだからすぐに寝れると思うよ。お姉ちゃんが隣でトントンするから」
日は傾いているが、あと二時間は上ったままだろう。
私はカーテンを閉め、ベッドのそばにイスを置いて、そこでリリーが寝るのを待っていた。
「いつもはジェンナさんなのに、何で今日はお姉ちゃんなの?」
リリーを寝かしつけるのも、使用人の仕事の一つである。だが今日は何となくそうしたかったのである。
「私たちが貴族になる前まではお姉ちゃんがやってたでしょ? 今日は久しぶりにやりたかった。明日は大事なことがあるからね」
「うん、いつもはちょっとさみしいけど、今日はお姉ちゃんがいるからさみしくない」
私がリリーの胸を優しくトントンとし始めると、たった数分で寝息が聞こえるようになった。
よかった、ちゃんと寝てくれた。
音を立てないようそーっと部屋を出ると、私も寝る支度を始める。
寝られたのは日が沈むころだった。
「グローリア様、おはようございます」
起きたのは真夜中、満月が一番高く上っている時だった。
ジェンナにだけ遅くまで起きててもらい、私とリリーを起こしてもらうことにしたのだ。
「あと少しで朝食ができあがるので、着替えてお待ちください」
「こんな時間までありがとうございます」
私はまだ開ききっていない目をこする。冷たい水で顔を洗い、ピシャリと両ほほを叩いた。
ふぅ、一気に目が覚めた!
私はあの格好に着替える。
「おぉ……イカつい格好」
音楽隊のみんなのために注文して作ってもらった、軍服である。白を基調に、縁取りはアールテムの象徴の青色、ところどころに金色の刺繍がほどこされている。
あとはいつもの、白いカチューシャに銀色のループ型のピアス、お守りの音符型のペンダント。
自分で見てもカッコかわいいとしか言えない。
「これを着てれば、『あの人だけみすぼらしい格好』とかないもんね」
これは私が殺されそうになったパーティーでの反省だ。音楽隊が演奏した時、管弦楽団と同じように、それぞれが衣装を用意することにした。
やはり平民や農民は、貴族より粗末な格好になってしまったのである。それをばっちり他国の人に言われてしまったのだから、あまりにも不覚だったと反省している。
「これで私たちの一体感が増すだろうし」
私はよれたすそをピシッと伸ばして、ろうそくの明かりが点々とする廊下を歩いていった。
みんな同じ服を着たアールテム音楽隊は、バリトンサックス奏者のケイトの邸宅に集まっている。
「全員集まってるね」
人数を数え、とりあえずホッとする私。
「ここで三十分くらい練習して、昨日言ったところに移動します」
満月が傾き、月光が窓から差しこんできている。
真夜中だが防音装備の邸宅のため、外には一切音もれはしない。(この国の建築技術どうなってんだ……?)
十分くらい自由に吹かせたあと、八つのファンファーレを一つずつみんなで合奏していった。
ちなみに八つのうち三つは、リリーとの合作である。
「昨日も言ったとおり、ここはもっと歯切れよく吹いてください」
私はトランペットとトロンボーンの人に指摘をする。
一応音楽隊だからね。曲の完成度が高いほど、『成功』に大きく近づくから。
「こんな感じでいいでしょう。それでは移動してください」
白い軍服を着た団体が、それぞれ楽器を持ってぞろぞろと出ていく。気づかれないよう静かに、楽器をどこかにぶつけないように。
王城の近くに着いた時には、すでに王城の包囲は始まっていた。
鎧がぶつかり合う音と、少しの話し声だけ。庭が広い王城なので、これくらいなら中には聞こえていないだろう。
「あっ、グローリア様!」
ひそめ声で騎士団の一人に声をかけられる。
「今、前衛が定位置に着きました。そこにいる人たちに続いて並んでください」
「了解です」
私は今言われたことを隊員に伝えると、人差し指を口に当てて険しい顔をする。
すぐにしゃべりたくなる女性たちや私より年下の子どもたちを、緊迫した空気で黙らせる。
夜明けまであと二十分。私は固唾をのみ、緊張で心臓がバクバクしながらその時を待った。
夜明け前。アールテム王国の王城を、武装したアールテムの国民が取り囲んでいた。平民や農民ついには奴隷まで、皆がただ王城だけを見てじっと待っている。
だが、他の国ともこの国の過去とも違うことといえば、後ろの方にキラキラと輝く集団がいることだ。
よく見ると楽器のようである。それらは普段ならば屋内で貴族がたしなむような、オーケストラで使われる楽器が大半だ。
なぜこんなものが軍隊の中にいるのか。
楽器を持つ集団の中央にいるピンク色の髪をした女が、サッと右手を挙げた。すると、大きく存在感を放つ楽器が姿を現した。
スーザフォンという、チューバの仲間の楽器だ。何といってもその特徴は、演奏者の頭の上に巨大なまるいベル(音が出るところ)があることだ。いつの間にかまた新しい楽器が生まれている。
うわさによれば、その楽器隊はかなりの爆音を出すらしい。いったい何をするのだろうか。
地平線が紫色に、オレンジ色に染まってきた。ピンク髪の女が後ろを向き、この軍の大将である騎士団長と指示を出し合う。
時は来た。
太陽が地平線から顔を出したその瞬間、早朝の冷たい空気に一つの声が響く。
「かかれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
その声を聞いた私はマウスピースをくわえながら、指揮をする時のように右手を構え、隊員に合図を出した。
ファンファーレの爆音が、冷たい空気を一掃した。
「オォォォォォォォォッッッッ!!」
雄叫びを上げながら王城の門を破っていく。
何で王城の周りとか敷地内に警備がいないんだって? どうやらカルラ―王国では、満月の夜に外に出ていると悪霊に取り憑かれるって言われてるんだってさ。大成功。
慌てて王城から出てきた警備たちだが、数人対大勢ではさすがに一人一人が強くても数にはかなわない。大量の兵士に無残にも踏みつぶされていく。
だんだんと明るくなりゆく空には、雄叫びと金属音と管楽器の音と太鼓の音が、それぞれ独立してこだましていた。
「ついに、これから寝て起きたら始まるんだよね」
「うん、お姉ちゃん。寝れないよ」
「お腹いっぱいだからすぐに寝れると思うよ。お姉ちゃんが隣でトントンするから」
日は傾いているが、あと二時間は上ったままだろう。
私はカーテンを閉め、ベッドのそばにイスを置いて、そこでリリーが寝るのを待っていた。
「いつもはジェンナさんなのに、何で今日はお姉ちゃんなの?」
リリーを寝かしつけるのも、使用人の仕事の一つである。だが今日は何となくそうしたかったのである。
「私たちが貴族になる前まではお姉ちゃんがやってたでしょ? 今日は久しぶりにやりたかった。明日は大事なことがあるからね」
「うん、いつもはちょっとさみしいけど、今日はお姉ちゃんがいるからさみしくない」
私がリリーの胸を優しくトントンとし始めると、たった数分で寝息が聞こえるようになった。
よかった、ちゃんと寝てくれた。
音を立てないようそーっと部屋を出ると、私も寝る支度を始める。
寝られたのは日が沈むころだった。
「グローリア様、おはようございます」
起きたのは真夜中、満月が一番高く上っている時だった。
ジェンナにだけ遅くまで起きててもらい、私とリリーを起こしてもらうことにしたのだ。
「あと少しで朝食ができあがるので、着替えてお待ちください」
「こんな時間までありがとうございます」
私はまだ開ききっていない目をこする。冷たい水で顔を洗い、ピシャリと両ほほを叩いた。
ふぅ、一気に目が覚めた!
私はあの格好に着替える。
「おぉ……イカつい格好」
音楽隊のみんなのために注文して作ってもらった、軍服である。白を基調に、縁取りはアールテムの象徴の青色、ところどころに金色の刺繍がほどこされている。
あとはいつもの、白いカチューシャに銀色のループ型のピアス、お守りの音符型のペンダント。
自分で見てもカッコかわいいとしか言えない。
「これを着てれば、『あの人だけみすぼらしい格好』とかないもんね」
これは私が殺されそうになったパーティーでの反省だ。音楽隊が演奏した時、管弦楽団と同じように、それぞれが衣装を用意することにした。
やはり平民や農民は、貴族より粗末な格好になってしまったのである。それをばっちり他国の人に言われてしまったのだから、あまりにも不覚だったと反省している。
「これで私たちの一体感が増すだろうし」
私はよれたすそをピシッと伸ばして、ろうそくの明かりが点々とする廊下を歩いていった。
みんな同じ服を着たアールテム音楽隊は、バリトンサックス奏者のケイトの邸宅に集まっている。
「全員集まってるね」
人数を数え、とりあえずホッとする私。
「ここで三十分くらい練習して、昨日言ったところに移動します」
満月が傾き、月光が窓から差しこんできている。
真夜中だが防音装備の邸宅のため、外には一切音もれはしない。(この国の建築技術どうなってんだ……?)
十分くらい自由に吹かせたあと、八つのファンファーレを一つずつみんなで合奏していった。
ちなみに八つのうち三つは、リリーとの合作である。
「昨日も言ったとおり、ここはもっと歯切れよく吹いてください」
私はトランペットとトロンボーンの人に指摘をする。
一応音楽隊だからね。曲の完成度が高いほど、『成功』に大きく近づくから。
「こんな感じでいいでしょう。それでは移動してください」
白い軍服を着た団体が、それぞれ楽器を持ってぞろぞろと出ていく。気づかれないよう静かに、楽器をどこかにぶつけないように。
王城の近くに着いた時には、すでに王城の包囲は始まっていた。
鎧がぶつかり合う音と、少しの話し声だけ。庭が広い王城なので、これくらいなら中には聞こえていないだろう。
「あっ、グローリア様!」
ひそめ声で騎士団の一人に声をかけられる。
「今、前衛が定位置に着きました。そこにいる人たちに続いて並んでください」
「了解です」
私は今言われたことを隊員に伝えると、人差し指を口に当てて険しい顔をする。
すぐにしゃべりたくなる女性たちや私より年下の子どもたちを、緊迫した空気で黙らせる。
夜明けまであと二十分。私は固唾をのみ、緊張で心臓がバクバクしながらその時を待った。
夜明け前。アールテム王国の王城を、武装したアールテムの国民が取り囲んでいた。平民や農民ついには奴隷まで、皆がただ王城だけを見てじっと待っている。
だが、他の国ともこの国の過去とも違うことといえば、後ろの方にキラキラと輝く集団がいることだ。
よく見ると楽器のようである。それらは普段ならば屋内で貴族がたしなむような、オーケストラで使われる楽器が大半だ。
なぜこんなものが軍隊の中にいるのか。
楽器を持つ集団の中央にいるピンク色の髪をした女が、サッと右手を挙げた。すると、大きく存在感を放つ楽器が姿を現した。
スーザフォンという、チューバの仲間の楽器だ。何といってもその特徴は、演奏者の頭の上に巨大なまるいベル(音が出るところ)があることだ。いつの間にかまた新しい楽器が生まれている。
うわさによれば、その楽器隊はかなりの爆音を出すらしい。いったい何をするのだろうか。
地平線が紫色に、オレンジ色に染まってきた。ピンク髪の女が後ろを向き、この軍の大将である騎士団長と指示を出し合う。
時は来た。
太陽が地平線から顔を出したその瞬間、早朝の冷たい空気に一つの声が響く。
「かかれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
その声を聞いた私はマウスピースをくわえながら、指揮をする時のように右手を構え、隊員に合図を出した。
ファンファーレの爆音が、冷たい空気を一掃した。
「オォォォォォォォォッッッッ!!」
雄叫びを上げながら王城の門を破っていく。
何で王城の周りとか敷地内に警備がいないんだって? どうやらカルラ―王国では、満月の夜に外に出ていると悪霊に取り憑かれるって言われてるんだってさ。大成功。
慌てて王城から出てきた警備たちだが、数人対大勢ではさすがに一人一人が強くても数にはかなわない。大量の兵士に無残にも踏みつぶされていく。
だんだんと明るくなりゆく空には、雄叫びと金属音と管楽器の音と太鼓の音が、それぞれ独立してこだましていた。
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