上 下
32 / 46
第三章 元女子高生、異世界で反旗を翻す

32:音楽家として宰相として、パーティーは大忙し!

しおりを挟む
 私はいつものグレーのスーツではなく、お呼ばれ用のドレスを着ていた。

「ちゃんとしたパーティーに出るの、久しぶりだから緊張する……」

 ピンク色のショートヘアも今日はしっかりセットして、青バラの髪飾りで片耳を見せる。青バラはアールテム王国のモチーフである。

 じゃあいつもはしっかりセットしてないのかって? そ、そんなことないし! ほら、特別な日の身支度って気合い入るでしょ? そういうこと!

 鏡の前で顔を左右に振る。銀色のリングピアスもゆらゆらと耳もとで揺れた。

「よし、これでオッケー」

 自分の寝室から出ると、ちょうど洗濯物を持ったジェンナと会った。

「今日は夜までいないので、しっかり留守番を頼みますね」
「はい、おまかせください」

 自分たちで掃除・洗濯・料理・買い物をしていたあの頃が、昨日のことのように思えてくる。でもどこか懐かしい。

「いつもありがとうございます」

 例の前世で鍛えた営業スマイルではなく、心からの感謝をこめて笑顔でお礼を言った。

「いえいえ。それでは皆さまのご準備が整ったらお声かけください」

 私は広間の方にスタスタと歩いていった。





「お姉ちゃん、どう?」

 私を見つけるやいなや、リリーはドレスのすそをつまんでこちらに駆けてくる。

「おぉっ、いいの着せてもらったじゃん! へぇ~かわいいっ!」

 リリーのドレスにあしらわれた細かい模様をじっくりと眺める。

「こうなってんのかぁ。なるほどなるほど」

 こういうの見ると、毎日のようにスーツを着ているせいもあって、中に眠る乙女心がくすぐられるっていうか……。

「髪の毛もアップにしてもらったんだね」

 チャームポイントであるツインテールを封印している。それだけで新鮮であった。

「準備はできたかい」

 シックなドレスに身を包むベルが姿を現す。
 これはこれで貫禄かんろくがすごい……!

 私はさっき別れたばかりのジェンナに声をかけた。
 外には馬車が待機している。私たち三人が馬車に乗りこむと、使用人たちがお見送りをしてくれた。

「「「いってらっしゃいませ」」」

 馬車の窓から使用人たちに手を振ると、御者が合図を出して馬車が動き始めた。





 ほぼ毎日のように歩いていく道を、座りながらゆっくり移動していくのは新鮮だった。
 私ひとりならば歩いていくものの、おばあちゃんであるベルも一緒なので馬車を選んだ。
 まぁ、あとはパーティーに行くっていう雰囲気づくりかな?

「もうすぐ着きますよ」

 御者の声に窓から顔を出すと、すぐそこまで王城が見えている。
 移動時間が長いと飽きそうなリリーは、まったく飽きている様子はない。

「えー、もう着いちゃうの?」
「まぁ、王城だからね」
「帰りも乗るんだから、その楽しみは帰りまで取っておきな」

 さすがなだめ方がうまいベルに、私は舌を巻く。
 王城の門の前に、正装の男性二人が待っていた。

「グローリア様、イザベル様、リリアン様、ようこそお越しくださいました」

 いつもいつもここにくるけど、こんなに丁寧に出迎えてくれることないし。
 ツッコミたいあれこれは心の中に留めておいて。

「お出迎えありがとうございます」

 先にリリーとベルを降ろし、私はサックスのケースを背負い、手を貸してもらいながら馬車から降りた。





 今日招待したのは、私が新しく交易を始めた三か国の代表たちである。
 全員が集まるまで待ちながら、みんなにあいさつをしてまわる。それが終わると私は会場の部屋を出て、王城の中にあるホールに向かった。
 私の顔つきは、宰相の顔から宮廷音楽家の顔に変わる。

「ご招待した全員がそろいました」
「よし、グローリア! 僕たちでパーティーを盛り上げよう!」

 そういうノリの曲じゃないでしょ。社交ダンス用の生演奏なんだから。
 私は団長に苦笑いをしながらサックスを組み立てた。三十秒くらいの超短いウォーミングアップをすると、待たせていたみんなに「オッケーです」とうなずく。

「それじゃあみんな、会場に移動するよ」

 団長が手を上げると、私たちは団長の後に続いて背筋を伸ばしながら歩いていった。





 部屋の外にもガヤガヤと話し声が漏れ出ている。
 中に入ると、私たち管弦楽団を拍手と歓声で出迎えてくれた。

「グローリア様は踊らないのかしら」
「そもそも宮廷音楽家だからな。踊るよりそちらの方が優先だろうね」

 ダンスのペアがコソコソとしゃべっている。
 さすがにこの人ごみでは会話の内容は聞き取れない。だが明らかに目線が私の方に向けられている。

 まぁ、気にしない気にしない!

 指揮者が指揮棒を持つ右手を構えた。
 私たちの演奏を背にして、何組かのペアが優雅に踊り始めた。自分が演奏している時はもちろん指揮者を見るが、休みの時は視線をずらしてダンスも拝見。

 私たちの演奏があるからこそ成り立ってるこの感じ、いいよね……。

 ホルンと同じの裏メロを吹いたり、クラリネットと同じの弾むようなリズムのメロディを吹いたり、ハーモニーを作り出す一員になったり。私は曲中に色々なパートにお邪魔している。
 そしてたまにソロが回ってくる。

 この曲の雰囲気に合うよう、おおらかなイメージでソロを奏でた。

 曲は続いているが、私は座っているイスの隣にサックスを置き、サックスをつるしているストラップも外して、イスの上に置いた。
 そのまま近くのドアから部屋を出ていく。何をするのかと思わせて、また別のドアから部屋に戻ってくる。

「あぁ、忙しっ!」

 公爵の身分でしかも宰相で、礼儀上何もしないわけにはいかない。たまたま近くにいた男性から声をかけられた。
 貿易相手国になったばかりのカルラー王国で、そこの国王の側近である。

「あれ、ついさっきまでそこで演奏なさっていましたよね」
「役目が終わったので」
「なるほど、それなら私と踊りませんか?」
「喜んで」

 その人にエスコートされながら、私たちは大勢の前に躍り出た。いつの間にかオーケストラから抜けて、こちら側に来ているのを知らない人たちが、私を見て驚いている。

 覚えたての社交ダンスだが、うまく踊れているかは分からない。
 でもダンスはけっこう好きだし、言っちゃあれだけどこの人、顔はいい方だと思うし。個人的にね。ダンス関係ないけど……。

 二曲連続で踊り終えると、表舞台から一旦下がった。

「つい数か月前に爵位を手に入れたばかりだとお伺いしたのですが、社交ダンスはいつから?」
「その数か月前、貴族になってすぐからです。足を引っ張ってしまいましたか?」
「いやいや……! とても数か月とは思えない」

 今日でこの人に会うのは二回目だが、とても表情が豊かで分かりやすい。驚きの表情だけで十分すぎるくらいに。

「私には何年かは経験があるように思えました。平民であられる時から趣味でしていたのかと、一瞬考えたほどです」
「ありがとうございます。そもそも、私はこの世界でまだ半年くらいしか生きてないので」

 あからさまに口をぽかんと開けて、「……え? マジ?」と言いそうな顔をする。
 顔が物語りすぎてしゃべんなくても分かるわ!

「グローリアさん、それってどういうことなのです?」

 私たちの前にいた婦人が話に割りこんできた。

「私には前世の記憶があるんです。こことは違う世界で、魔法がない世界。みながいう『アンマジーケ』に住んでいました。私は十八歳に事故で死に、起きたら体の大きさは変わらず、この王都の中で倒れていました」
「そんなことがあるのね! そこから公爵に?」
「はい」

 私が元平民であることは他の国にも知られていたようだが、さすがにアンマジーケ出身であることは知らなかったらしい。
 そうだよね。平民が貴族になることですらすごいのに、しかも公爵にまでなっちゃてるし。音楽家なのに宰相やっちゃってるし、しかも十八歳で。
 私のことを伝えるのに情報がありすぎってことだよね。

「さっきのダンス、なかなかよかったわよ。ダンス歴三十年の私から見てもね。磨けばより精練されると思うわ」
「ありがとうございます」

 あれはお世辞じゃないよね? そうだよね?
 貴族になって急いで習ったものだが、私には満足すぎる結果になってくれた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】

ゆうの
ファンタジー
 公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。  ――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。  これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。 ※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。

乙女ゲームの世界へ転生!ヒロインの私は当然王子様に決めた!!で?その王子様は何処???

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームの世界のヒロインに転生していると気付いた『リザリア』。  前世を思い出したその日から、最推しの王子と結ばれるべく頑張った。乙女ゲームの舞台である学園に入学し、さぁ大好きな王子様と遂に出会いを果たす……っ!となった時、その相手の王子様が居ない?!?  その王子も実は…………  さぁリザリアは困った!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げる予定です。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

やくもあやかし物語

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
やくもが越してきたのは、お母さんの実家。お父さんは居ないけど、そこの事情は察してください。 お母さんの実家も周囲の家も百坪はあろうかというお屋敷が多い。 家は一丁目で、通う中学校は三丁目。途中の二丁目には百メートルほどの坂道が合って、下っていくと二百メートルほどの遠回りになる。 途中のお屋敷の庭を通してもらえれば近道になるんだけど、人もお屋敷も苦手なやくもは坂道を遠回りしていくしかないんだけどね……。

悪役令嬢なのに下町にいます ~王子が婚約解消してくれません~

ミズメ
恋愛
【2023.5.31書籍発売】 転生先は、乙女ゲームの悪役令嬢でした——。 侯爵令嬢のベラトリクスは、わがまま放題、傍若無人な少女だった。 婚約者である第1王子が他の令嬢と親しげにしていることに激高して暴れた所、割った花瓶で足を滑らせて頭を打ち、意識を失ってしまった。 目を覚ましたベラトリクスの中には前世の記憶が混在していて--。 卒業パーティーでの婚約破棄&王都追放&実家の取り潰しという定番3点セットを回避するため、社交界から逃げた悪役令嬢は、王都の下町で、メンチカツに出会ったのだった。 ○『モブなのに巻き込まれています』のスピンオフ作品ですが、単独でも読んでいただけます。 ○転生悪役令嬢が婚約解消と断罪回避のために奮闘?しながら、下町食堂の美味しいものに夢中になったり、逆に婚約者に興味を持たれたりしてしまうお話。

あまたある産声の中で‼~『氏名・使命』を奪われた最凶の男は、過去を追い求めない~

最十 レイ
ファンタジー
「お前の『氏名・使命』を貰う」 力を得た代償に己の名前とすべき事を奪われ、転生を果たした名も無き男。 自分は誰なのか? 自分のすべき事は何だったのか? 苦悩する……なんて事はなく、忘れているのをいいことに持前のポジティブさと破天荒さと卑怯さで、時に楽しく、時に女の子にちょっかいをだしながら、思いのまま生きようとする。 そんな性格だから、ちょっと女の子に騙されたり、ちょっと監獄に送られたり、脱獄しようとしてまた捕まったり、挙句の果てに死刑にされそうになったり⁈ 身体は変形と再生を繰り返し、死さえも失った男は、生まれ持った拳でシリアスをぶっ飛ばし、己が信念のもとにキメるところはきっちりキメて突き進む。 そんな『自由』でなければ勝ち取れない、名も無き男の生き様が今始まる! ※この作品はカクヨムでも投稿中です。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

処理中です...