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第二章 元女子高生、異世界でどんどん成り上がる

25:前世(アンマジーケ)の記憶を持つ若き宰相

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「問題が、サックスを吹いてくれる人を見つけることなんだけど……」

 私はプレノート邸に住んでいるみんなで夕食を食べながら、ベルに話を聞いてもらっていた。

「他の楽器を吹いてる人は、みんなプロなわけじゃん? でも私以外のサックス吹きは、みんな初心者だからさ」
「そこにリリーは入れるのかい?」
「今のところ、入れるつもり」

 リリーは才能もあると思うし、私としては即戦力なんだよね!
 私はステーキを一口大に切り、口に運ぶ。

「他の貴族ってさ固定概念が強くて、新しい楽器に挑戦しようと思ってくれないんだよ」

 吹奏楽をするには全体的に人数が足りないため、貴族たちに勧誘をしてみた。貴族ならば、何かしら音楽の教養を受けているからである。
 他の楽器なら挑戦してみたいと言うものの、サックスを吹いてみたいと言ってくれたのは一人しかいなかった。

「平民を入れてみたらどうだい?」

 やっぱりそうなるよね。貴族にいないってなると。
 しかし問題が出てくる。

「そうするとさ、『平民が私たちと演奏するなんて!』って怒られるかもしれないけど」
「それを正すのが、あんたの仕事じゃないのかい?」

 ハッとした。
 そうだよ、音楽は身分とか関係ないもんね!

「それならいっそ、農民にも声かけてみる?」
「農民は農業が忙しくてできないだろう」
「いや、中には農業より音楽に興味がある人だっているかもしれないし!」

 平民から貴族になった私だからこそ。新しい楽器を吹く私だからこそ。新しく作る音楽隊だからこそ。

 今までの固定概念をぶっ飛ばしたものでもいいんじゃない?

「それじゃあ、身分関係なく音楽を楽しむ楽団を作ろう!」

 おお! っと歓声がテーブル全体で起こり、ナイフやフォークを置いて拍手をし始める。

「ねぇお姉ちゃん、リリーのお友だちもサックスやりたいって言ってたよ」
「ホントに?」

 子供はまだ固定概念がないからかな。

「私の友人にもお声かけしましょうか?」
「ジェンナ、ありがとうございます!」

 使用人のジェンナも協力してくれるそうだ。

「平民や農民にも勧誘をなさるなら、絵の方が伝わりやすいでしょう。私が広告となる絵を描きますよ」
「ポスターを作ってくださるんですか! よろしくお願いいたします!」

 今日たまたま来ていた、うちの専属画家が名乗りあげてくれた。
 まだこの時の私は気づいていなかった。これでできた音楽隊が、アールテム王国を支える大規模集団になることを。





 私は、元トゥムル王国の領地に馬で訪れた。
 ちなみに騎士団の人に教えてもらい、馬は一週間くらいで走れるくらいにまで乗れるようになった。

「こんなに上達が早いのは今まで見たことないですよ! 最低でも数ヶ月はかかるのに」
「まるで馬と会話ができているみたいですよね」

 と言われてしまった。前世でも運動が苦手っていうわけではなかったんだけどね。

 さすがに宰相となるとたくさんの護衛がついてくれる。その中には乗馬を教えてくれた師匠二人もいる。

「旧トゥムル王国の領地に入りました」

 私は目を疑った。
 大国と呼ばれていたトゥムル王国。ハルドンが大口をたたくほどすごい国なのかと思いきや。

「みんなの目が死んでる」

 騎士団寮の中で治したトゥムル軍の兵士は、みんな威勢があってハキハキしていた。しかしそれは一部の人だけだったらしい。

「こんにちは。宰相になりましたのでごあいさつで伺いました」

 オンボロの服を着た、瞳に光のない虚ろな目でこちらを見てくる。農民か、奴隷で働かされている人だろう。
 私はスタッと馬から降りる。

「あっ、そう。……え?」

 その瞳に光が差しこんだ。

「馬の上からいばってこない……本当に宰相?」
「宮廷音楽家でもあり、宰相です」
「どうして奴隷である私に丁寧な言葉を使ってくるの?」
「奴隷であろうと、初対面の方と話す時はいつも敬語ですよ」

 珍しいものを見たとでもいうように、不思議そうな顔をする。

「働かないと主人にむちたたかれるぞ」
「どうせ貴族は奴隷になんか興味ない」

 同じ畑で働く人が、私に話しかけた女性を呼び戻す。

「みなさん、よろしくお願いします」

 前世のクセで、呼び戻した男性二人にもペコペコとおじぎをした。
 再び馬に乗り、馬の腹を蹴って旧王都に向かって歩き出した。





 その数日後、アールテムの人にとっても元トゥムルの人にとっても大きく生活が変わった。それにより、宰相のグローリアが都の民を集めて会見をしている。

「身分関係なく、稼いだお金の一割を税として納めていただくことにしました」

 いわゆる所得税だ。税収の方法が大きく見直され、貴族も『しっかり』税金を払うようになったのである。
 貴族の金持ち一人にちょっと税金を払ってもらえれば、重税を課した農民の十人分の税金になる。

 貴族からの反発があると思ったものの、思ったよりなかった。むしろ少なくなったのだ。
 グローリアが調べていくうちに、実は大公爵のトリスタンが貴族から税をとり、それをを着服していたのが発覚。貴族にも税があるとうそをついていたのである。

 国の政治を仕切る人と、貴族の代表として税を納める人が同じである欠点だ。

「あともう一つ、国民であれば誰でも、王都に通行証なしで入れるようにしました」

 これには都の民が反発した。
「野蛮人で王都が汚れる」だの「王都にも住めない奴が王都に来るんじゃない」だの「犯罪が増える」だの。
 しかし宰相は怒った。

「そんなの、ただの偏見じゃないですか! どうして身分や住んでいるところの違いだけで、そんな差を設ける必要があるんですか!」

 この言葉で都の民はすっかり黙ってしまった。

「身分差で、貴族だけが甘い汁を吸う時代は終わりました。これからは、平民だから農民だから奴隷だからという理由で、こうむる不利益を取り除いていきます」

 これには平民から「おおっ!」と喝采が起こる。

「ご存知の方もいますが、私にははっきりと前世の記憶があります。私たちがいう『アンマジーケ』の世界にいました。そこには貴族や奴隷といった身分はなく平等で、強いていうならみんなが『平民』の世界でした。身分がなくても七十年以上、政治を成り立たせることができていて、これからも貴族の身分が復活することはないと思います」

 この言葉から、『グローリアが誰にでも敬語を使って平等に接しているのは、前世の記憶があるからだろう』と、ここにいるみなが理解した。グローリアの価値観は前世の記憶に基づくものだと。

 そして誰もが思ったこと。
 この宰相はガラリと国を変えるだろうと。

 平民はこれほどなく平民派の宰相に大きく期待し、貴族は変わりゆく国を興味津々に眺めていた。
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