上 下
16 / 46
第二章 元女子高生、異世界でどんどん成り上がる

16:王位継承で戦争!? やらせるものかっ!

しおりを挟む
 順調、順調! 目標の「プロになってお金持ちになる!」のうちの一つは達成!

 転生してから三ヶ月ほどでプロになってしまった。
 あのまま前世で生きていたら、音楽大学に入って猛練習し、狭き門であるプロの楽団に入らなければ、プロにはなれなかっただろう。推定五年以上。

 まさか、転生したこの世界がイージーモードだった?
 そうは言っても、前世で培ってきたものがあったからっていうのもあると思うけど。

「あとはお金持ちになる、か」
「まだお金持ちじゃないの?」

 隣で本を読んでいたリリーが、こちらに顔を向けた。

「今はやっと貴族になれたっていうレベルだけど、お姉ちゃんは貴族のトップになりたいの」
「トップ……大公爵さま?」
「そう。お姉ちゃんがこの前吹っ飛ばした、大公爵の地位にね」

 貴族の中の地位が高くなれば、おのずと宮廷音楽家としての給料は増える。

「あっ、そうだ。リリー用に新しいサックスを作ってもらったから、明日にでも取りに行くね」
「できたの!? やったぁ!!」

 膝の上に本を置いて、バンザイで喜びを表すリリー。
 先月に『サックス増産計画』を始めた時から、サックス第二号は絶対にリリーに吹いてもらうと決めていた。

「えへへ、楽しみにしててね~」

 私はほぼ妹のリリーに、ぶっ通しで吹き続けて疲れた心身をしょっちゅう癒してもらっている。
 ほら、今の笑顔とかかわいすぎる!





 一方その頃、こんなのほほんとしている場合ではないことが起こっていた。
 アールテム王国の隣であるトゥムル王国から、圧をかけられていたのだ。

 国王の権力がなくお飾り状態であるのは、隣国にはとっくに知られていた。しかも病気になったということで、より権力はなくなっていた。

「アールテム王国の王位継承権は、我の息子にある」

 ついにそう言われてしまったのである。
 トゥムル王国国王の妃は、政略結婚で嫁がせた元アールテム王国の王女。息子がアールテム王国の血を引いていることを言いがかりにして、継承権を主張したのだ。

「嫌な予感がするねぇ」

 未だに暇つぶしで機織りをする手を止めて、ベルはため息をついた。

「これ……戦争とかになる感じ?」
「私の経験上、そうなるかもしれないねぇ」
「もしそうなったら、うちの国、完全不利じゃない?」
「うーむ……」

 もし戦争に負けてしまったら、宮廷音楽家である私は誰のために働かなければいいのか分からなくなる。
 国王に選んでもらってプロになった以上、それだけは避けたい。

「話し合いなしでは戦争にならないと思うから……」

 その話し合いの場に、私もいさせてもらうことはできないだろうか。
 あ、そうだ。

「いいこと思いついた。国王に提案してみる」
「なんだい? 何を提案するのかい?」
「『音楽』で戦争を避ける方法!」

 へへっ、我ながらすごいことを思いついた!
 私は思いついたことを忘れないよう、手帳を取り出してメモをとった。





 次の日、国王と皇太子のためにソロでサックスを演奏した。

「陛下、後ほどお話がございます」
「ほう、私に?」

 皇太子が退室すると、国王は玉座に座り直し、私は楽器を床に置いた。

「うわさで、隣国がうちの王位継承権を主張していると聞いたのですが」

 単刀直入に話を切り出す。

「ああ。応じなければ力づくでも取るという手紙がきてしまい……。話し合って解決したいものだが、どうしたらよいものか」
「力づくってことは……戦争で、ですかね」
「そうだろうな」

 前世で習った世界史の授業で、『◯◯継承戦争』とかで戦争しまくった時代があったような。
 やっぱり戦争は避けられない……?

「あの、さすがに会談なしでは戦争にはなりませんよね?」
「おそらく。王位継承は、必ず会談を通すようにしているからな」
「それならうちに招いて、宮廷音楽家わたしたちが招待演奏をいたしましょう」
「それはぜひやってもらいたいが……それが戦争をしないで解決できるものになるのか?」
「必ずや、やってみせます」

 こんな大口をたたくのは、もちろん自信があるからである。
 私は楽器を持ち上げると、「失礼しました」と言って部屋を出た。




 ついでに騎士団寮に寄ることにした。
 貴族になったことにより、かなり行動範囲が広くなったと感じる。騎士も国王に仕える仕事だ。

 ただの思いつきで行動するのが私の性だが、今まで前世で部長の座を逃したこと以外は、何とかうまくいっている。
 今の行動も、ただの思いつきである。

「あれ、あの見た目は……プレノート家のグローリア様?」

 寮の警護をする騎士たちが、こちらを指さしている。
 いつの間にか騎士団の人たちにも知られてる! うれししみ~!

「こんにちは。グローリア・プレノートです。団長さんはいらっしゃいますか」
「どんなご用で?」

 あ、やべっ。えっと、じゃあ……。

「国王陛下から伝言を承りまして、直接伝えてほしいとのことで」
「分かった」

 よし、とっさに思いついたことだけど何とかなった!

 新人っぽい騎士に団長室へと案内された。

「プレノート家のグローリア様がいらっしゃいました」
「通せ」

 腹の底から出していそうな、深い声が聞こえた。
 もちろん初対面ではない。

「急に参りましたことをお許しくださいませ」
「ベルからの縁だ。そんなんで怒ったりはしないぞ」

 この間の新築祝いパーティーに招いたうちの一人である。

「俺に何の用だ?」
「もしかしたら聞いているかもしれませんが、トゥムル王国のことで」
「もちろん聞いている。我々騎士団が出動することになりそうだからな」

 そりゃあそうだよね。

「今、話し合いで解決しようとしているですが、アールテムにトゥムル国王を招いて会談したいらしくて」
「そうしたら我々は警備だな」
「もしものために、戦争並の武器を用意しておいた方が……」

 私の言葉を聞いて、怪訝けげんそうな表情になる団長。

「そんなに緊迫しているのか?」
「手紙で、『力づくでも取る』と脅されたらしいです」
「なるほど……念には念を入れた方がよさそうだな」

 よし、これで『私でもダメだった時の対処法』の保険が作れた!
 トゥムル国王は気性が荒いうわさだからね、何してくるか分かんないし。

「えっと……何か企んでいるのか?」
「へぇっ!?」
「手紙でもいいところを、わざわざここに来て伝えるほどのことだからな」

 えっ、バレてる!?
 分かりやすくニンマリとほほ笑む団長だが、目が笑っていない。何を考えているのかは分からない。

「ふん……でも面白そうだな」

 時間差でやっと目も笑った団長に、心臓がバクバクしていた私はホッとしたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

自重しないユリス。世界の常識を打ち破る商品を作ったかと思えば奴隷を一流の存在へと育成し領地を並び立つ者がいない存在へ導いていく

あかさたな
ファンタジー
死んだ男は、神の計らいによりルビンス商会の次男に転生する。そこでは旦那を後ろ盾にする第一夫人と、伯爵家を後ろ盾にする第2夫人との間で跡継ぎに関して派閥争いが起きていた。主人公が王家の後ろ盾を得たことから有利になると、第二夫人派による妨害工作や派閥争いが激化。伯爵家も商会を乗っ取るために行動しだす。そんな中、主人公は自重?なにそれおいしいのと全く自重することなく、神の目で才能を見抜いて奴隷で最強の騎士団を作って戦争に参加して騎士団を無双させたり、魔法銃を作って自分も派手に暴れまわったかと思えば、情報マーケットを使いこの世に存在するはずもない物を職人と共に作り出したりしながら、第二夫人派を追い出したり、敵対する者を容赦なく叩き潰すと貴族となり領地を並び立つものがない最強の存在へと導ていく

ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番
ファンタジー
*『第16回ファンタジー小説大賞【大賞】・【読者賞】W受賞』 *書籍化2024年9月下旬発売 ※書籍化の関係で1章が近日中にレンタルに切り替わりますことをご報告いたします。 彼氏にフラれた直後に異世界転生。気が付くと、ラノベの中の悪役令嬢クローディアになっていた。すでに周りからの評判は最悪なのに、王太子の婚約者。しかも政略結婚なので婚約解消不可?! 王太子は主人公と熱愛中。私は結婚前からお飾りの王太子妃決定。さらに、私は王太子妃として鬼の公爵子息がお目付け役に……。 しかも、私……ざまぁ対象!! ざまぁ回避のために、なんやかんや大忙しです!! ※【感想欄について】感想ありがとうございます。皆様にお知らせとお願いです。 感想欄は多くの方が読まれますので、過激または攻撃的な発言、乱暴な言葉遣い、ポジティブ・ネガティブに関わらず他の方のお名前を出した感想、またこの作品は成人指定ではありませんので卑猥だと思われる発言など、読んだ方がお心を痛めたり、不快だと感じるような内容は承認を控えさせて頂きたいと思います。トラブルに発展してしまうと、感想欄を閉じることも検討しなければならなくなりますので、どうかご理解いただければと思います。

転生したら、全てがチートだった

ゆーふー
ファンタジー
転生した俺はもらったチートを駆使し、楽しく自由に生きる。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...