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第四章 元冒険者、真の実力を見せつける

47:あの人たちの赤ら顔(前編)

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 双剣をさやに納めると、再び私を突風が囲む。

〈実に見事であった。やはり我が見出したとおり、なんじは我の神子みこにふさわしい〉

 この声は……まさか風の神・ウィンブレス!? 「ウィンブレス様、力をお借りしました」とか言っったから呼び出しちゃった!?

「あ、ありがとうございます」
〈これからも共に王国を守るのだよ〉
「はい。まぁ、騎士ですので」

 私の返答が予想していなかったことだったのか、風の神は「フォッフォッフォッ」と独特な笑いをした。

〈これは我からの御礼だ。汝の仲間を動ける程度までにはしておいたぞ〉
〈ウィンブレス様、どうして全回復まではなさらないのですか?〉
〈神子の活躍が薄まってありがたみが半減……ゲフンゲフン、全回復するにはそうとうな力が必要だからだ〉

 今、かなり本音が出たよね? 神なら全回復なんて容易いことだと思うけど。もしかして、意外と意地悪?

「あの、これから倒したモンスターをダンジョンの外に運びたいんです」
〈そ、それならばもう少し回復させてやろう〉

 ……思ってたより気まぐれなんだね。

〈ともかく、風の能力ちからを横着に使ったり、悪用してはならぬ。もしそう使ったならば……覚えておくとよい〉
「わ、分かりました」

 この言葉を最後に、ツッコミどころのある神との会話は終わった。取り囲む突風が止んだ。





 斬り刻んだデス・トリブラスを、一つ一つみんなで手分けして運び出す。
 進化したデス・トリブラスの物理攻撃に倒れた人(ただし一回目の攻撃はそこまで威力はなかった)以外は、クリスタルが倒すその瞬間、意識はあった。そう、サムもクロエもセスも、ディエゴもイアンもジェシカも。

らいなさい、矢の嵐! メタルブリザード!!」

 その瞬間を見た誰もが、記憶に深く濃く刻み込まれた。

 銀色の長髪がはためき、ダンジョンの中なのにもかかわらずサークレットの金色が輝き、大量の矢が飛んでいく光景は壮観であった。

 それだけではない。進化して現れたあの『目』を弱点と見ることができる発想も、一斬り一斬りが洗練されている双剣の技術も、倒したあとでも姿勢が乱れない美しさも、クリスタルは完全に冒険者ではなく騎士になっていた。

「君、やっぱり超能力を持っていたんだね」

 リッカルドがニヤリとほほ笑む。

「そうらしいんですよね……。ごめんなさい、まだ自分でも状況が理解できてません」
「超能力を持っているなら早めに使ってほしかったと思ったけど……その反応だと、この言葉はふさわしくないとみるべきか」 
「まぁ、落ち着いたら何があったか話しますね」

 オズワルドが話に割りこんできた。

「僕も聞いていい?」
「もちろんです」
「俺も聞いておこうか」
「はい、ディスモンドさんもですね。あぁ、他の方も興味がありましたらどうぞ」

 他にも希望者がぞろぞろ出てきそうなので、先手をうっておくクリスタル。

「妹の話、聞くか?」
「当たり前ですよ!」
「面白そうな話が聞けそうなんで」

 サムが妹と弟に尋ねると、当然だと返してくれた。それを聞いてクリスタルはなぜかホッとしている様子である。
 サムは声色を変えて尋ね――命令する。

「勝手にダンジョンに入ってきて、ただ足を引っ張って、一番初めにやられたその三人。史上最強と呼ばれたデス・トリブラスを倒しても、自慢せずにサボらずに最後まで仕事をする、手本と呼ぶべき我が妹の話を聞け」

 ディエゴたち三人は、蚊の鳴くような声で返事をしただけだった。





 持って行ったデス・トリブラスの肉片は、研究資料に使われるとのこと。倒せただけでも十分だが、今後の役に立つならうれしい以外の言葉はない。

 進化した敵に大ダメージを与えた上に仕留めたのが私だったことで、様々な手続きをしなければならなかった。手続きをしながら、ようやく自分が倒したのだと自覚が出てきた。

 気づけば夜だった。
 討伐成功祝いとして、ギルドがごちそうを用意してくれたらしい。ただ任務を達成しただけなのに……ね。

 そのごちそうを食べながら、あのとき何があったのか話してみる。結局話を聞きに来た人は、今日討伐に行った仲間のほとんどである。

「まだちゃんと整理はついてないんですが、話しながら整理していきたいと思います」

 まずはこの二つのことを話した。
 自分が追放されたあとに、冒険者ギルドで出た『クリスタルは超能力者ではないか』といううわさを聞いたこと。実際にリッカルドと実験をしてみたところ、飛ばした矢から風が出ているという結果になったこと。

「クリスタルの腕を信じて、俺に当たらないギリギリを攻めて発射してもらった。そうしたら、矢から風圧のようなものを感じたんだ。君たちも見ただろう。デス・トリブラスのトゲをクリスタルが掃討してくれたとき、矢が当たっていないところのトゲまで落ちていたことを」

 リッカルドが補足してくれた。他の人はそういえばそうだった、言われてみれば、というようにうなずいている。
 ディスモンドも何か言いたげな表情をしている。

「あ、ディスモンドさん、どうぞ」
「初日から上級ダンジョンに行った者なら、あれも見ていたはずだ。三体くらいのアウバールが同じ方向から襲ってきたときに、クリスタルが真ん中のアウバールを撃った。すると両脇にいたもう二体のアウバールもよろけていた。矢から風を出す超能力だと言われれば納得できる」

 確かにあのときは、その超能力的なものの効果が実感できた瞬間だ。思い返せば。
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