逃げてもいいですか？…ダメ？…なら契約を…

壊されゆく関係

応接室へ通されてから、もう１時間が経つ…

「………幾らなんでも遅過ぎるわ…」

『勝手に帰る訳にもいかんしな…』

その時、扉をノックする音が聞こえた。

「失礼します」

入って来たのは、此処へ案内してくれた侍従のアレクセイだった。

「カストリア公爵令嬢、お待たせして申し訳御座いません。本日、両殿下は大変お忙しく…お会いする事が出来ないとの事でして…」

「そうですか。　お忙しいなら仕方ありませんわね、今日は帰りますわ」

「本当に申し訳御座いません」

「構いません。両殿下に、お身体をご自愛下さいと伝えて頂けますか？」

「…畏まりました。馬車までお見送り致します」

「殿下が忙しいのでしたら侍従であるアレクセイ様も忙しい筈ですわ、見送りは結構ですのでお仕事に戻って下さいませ」

「それは……いえ、ご配慮有難う御座います」



　　　　　　　　　　◇



―――アレクセイside―――


一般開放区域の応接室から去って行く、カストリア公爵令嬢の後姿を見送る。


（殿下は一体如何どうされてしまったのか…）


カストリア公爵令嬢にはああ言ったが、なんとも心苦しいな…

両殿下共に、忙しくしている訳では無い…



　　　　　　　　　　◇



『ヴェルドカイン殿下、そろそろカストリア公爵令嬢が来られる時間ですが…』（いつもは令嬢が来るのを楽しみにしていらっしゃるのに…）


『何だ、来たら追い返せばいいだろう！』

『そうだよ。　僕達は忙しいんだ、彼女に割さく時間なんて無いよ』

『やだ、門前払いなんてかわいそ～。　せめて一般区域の何処かにでも案内してあげましょうよ。うふふっ』


『………』（何なんだ、この教養の欠片も無い女は…）


『アリエルは優しいな。　聞いたなアレク。　この王族エリアに連れてくる必要は無い』

『そうだね。　一般開放区域の一番小さい応接室にでも案内しとけば？』


『それでは公爵令嬢に対して、あまりにも失礼ではないでしょうか…』（つい先日まで、あれほど好意を持っていらした令嬢に…）


『構わんっ！　ある程度待たせた後で忙しいと言って追い返せ！』

『……承知致しました…』（何故これほど変わってしまわれたのか…）