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行きたくない…

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「はぁぁぁぁぁっ………」

朝から大きな溜息をいているのは、私…フェリシアです。

何でかって? それは、アレ。


「…………」

物陰からこちらを覗いている人物……何を隠そう、私のお兄様なのです。

どうしてああなったかを説明しましょう。


          ◇


「父上! 母上が厨房へ行ったのですが…もしかしてフェリシアが…?」

「ああ。さっき目を覚ましたんだが…」

「フェリシアっ!」

お兄様も心配してくれていたのだろう…駆け寄って来たのですが。


『お前の様な者が妹などと…我がカストリア家の恥晒はじさらしが!』


「また震え始めた……フェリシア、何故!? お前の兄だぞ?」

「シア…? 僕が怖いの…?」

「…………」

私は首を横に振る事しか出来なかった……

「なら、どうして……シア…」

「起きたばかりで感情が不安定なんだろう…ジルベール、すまないが…」

「………は…い。 部屋を出ています……」

お兄様がもの凄く項垂うなだれて出て行きました…

(ごめんなさい…お兄様。 今のお兄様は何も悪くないのに…)


          ◇


医学的には身体に異常は無かったのですが、あまりにも私がおびえて震えるものだから、目が覚めた日から2日間は安静にする様に言われて…今日が3日目だったのです。



「お兄様…そばへ来て下さい」

「………僕の事…怖くない?」

(お兄様はもう11歳だけど、前世だとまだ小学5年生……可哀そうな事をしてしまったわ…)

「怖くありません…傷付けてごめんなさい……」

謝ってから両手を広げると、ゆっくり近付いて来て…躊躇ためらいがちにも抱きしめてくれました。

「シア……シア……嫌われたのかと……目が覚めて嬉しい…良かった…」

「大好きですよ…ジルベール兄様…」

(こんなに優しいお兄様に、絶対あんなセリフ言わせないわ…)


ぎゅっ…と抱きしめ返すと、今度は後ろからフェルが抱き付いてきた。

「にいさまズルい。 ぼくもねえさまにぎゅーしてもらうの」

「ははっ…フェルドアも心配してたもんね」

「フェルも心配してくれたんだ…じゃあ……ぎゅ~~っ!!だね」

「きゃはは! ねえさまのぎゅーはきもちいいね」

そうやって3人できゃわきゃわしてると、お母様がやって来た。


「あらあら、楽しそうね。お母様も混ぜて欲しいわ」

「かあさま!」

フェルドアが、まっ先にお母様へ抱き付いたわ。

(あら、フェルったら…ふふっ。まだ7歳だものね)


「フェリシア。お父様が書斎で待っているわ…お行きなさい」

「分かりましたわ」

(なんだろう…)





「お父様、私をお呼びと聞きましたが…」

書斎に入ると、お父様が難しい顔をしていました。

「とにかく、そこに掛けなさい…」

「はい…」

ソファーに腰掛けると、お父様は1枚の手紙をテーブルに置いた。

「これは…?」

「………王家からの手紙だ…」

王家と聞いて、私の肩がビクっとれた…
お父様はそれに気付いたけど話を続けるみたい。

「先日の茶会で、私達は始まる前に帰って来たのだが…」

(私が倒れた所為せいね…)

「王子達がお前と話したいと言っているそうだ」

「あの王子達がですか!?」

「ああ…目の前で倒れたのだから、心配しているのも分かるのだが」

確かに心配はしているのだろう。 でも、今あの王宮に行く勇気は無い…
映像として見る分にはまだ良かったかもしれないけど…あの時私は…

(フェリシアの中に引き込まれて、あれをじかに体験してしまった…)

「……………フェリシア」

お父様がそばに来て抱きしめてくれる…どうやらまた震えていたみたい…

(だめね、どうしても体が反応してしまう…)

「いいんだ。無理する必要は無い。 まだ体調も戻っていないのだから」

「王家からの招待なのに、断れるのかな…」

「大丈夫だよ。王家へは私から断りを入れておこう…お前が王子達に会いたいかどうか確かめたかったんだ」

「………王子達もだけど…王宮に行きたくないです…今は、まだ…」

「分かった」


お父様は私と話した後、王家へ断りの手紙を出した。

それからしばらくは平穏な日常を送っていたけど、ある日を境にそれは破られたのだった。





「セレム……今何て?」

「………王宮からの使者が来ました」

申し訳無さげに言って来るのはカストリア家の執事なのですが…
今日お父様は出仕していて、お母様もお茶会で不在だったのです。

お父様はあれからも何度か、王宮への呼び出しを断っていたそうで…ごうやしたのであろう王子が直接我が家へ来るという事らしい。

(よりによって2人が居ない時に来るなんて…)

「……シア。大丈夫…僕が同席するよ」

「ありがとう、お兄様…」

取り敢えず、無事な姿を見せたら納得してくれるかしら…と、心の中で溜息をきながら会う事にした。

「セレム、王子が来たら応接間にお通ししておいてね」

「畏まりました」

「お兄様、支度してきます…」

「様子を見て僕が無理だと判断したら、王子には帰って貰うよ」

「はい…」


今の王子が悪い訳では無い…分かっているのだけど、体の方が無意識に反応するからどうしようもない……

(今はまだ、そっとしておいて欲しかったのに……)




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