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スローロリスの刺青
しおりを挟む彼等には刻まれていたという。
おぞましい魔獣の刺青が…。
スローロリスの刺青
下手喰いのロリスちゃん
―変な女の子と、かわいい男の子―
その孤児院には、「変な子」と呼ばれるひとりの少女がいた。
少女には、少し歳上の好きな男の子がいた。
男の子は、他の子たちの憧れで、背が高くて、とてもかわいい顔をしていた。
だから、少女が話しかける前に、他の女の子たちや、男の子たちにウデをちぎられて連れて行かれた。
少女は、その男の子が欲しかった。
だが、少女が欲しいものは、いつも先に取られた。
だから、取られない方法を探していた。
少女は、お庭へと逃げ出した。
―ブランコのお庭―
少女は、地面へと座り、ブチブチと潰した。
餌を運ぶ、目眩のようなアリを。
しんどくなった数だけ潰した。
すると、そのお庭のブランコが揺れる音がした。
見ると、そこには「黒いローブの男」がいた。
ブランコに揺られながら、「分厚い本」を開く変なひと。
少女は、黒いローブの男へと近付いた。
あら、あなたも変なひと、と笑った。
少女は、黒いローブの男に色んな事をお話した。
みんなが嫌がるような虫のお話や、好きな男の子を叩いちゃうこと。
だが、黒いローブの男は、分厚い本を読むだけ。
何も答えてくれない。
だが、少女は、嬉しかった。
少女は、黒いローブの男へ訊いた。
「好きな男の子を、自分のものにする方法を」。
黒いローブの男は、分厚い本を差し出しながら言った。
「ならば、好きな男の子をグチャグチャにすればいい、
みんなが嫌がるほどにグチャグチャにすれば誰も触れず、
取ることもできない、
その方法は、この本の中に書かれている、害虫さえも喰らうあの愛らしい動物のページにだ」
少女は、その分厚い本を受け取った。
そして、開いた。
そこには、「スローロリスの刺青」と、黒文字で書かれていた…。
―イジワル―
少女は、好きな男の子へ意地悪をした。
好きな男の子の、機関車のオモチャを土の中へ埋めた。
そうすると、好きな男の子が泣いて探し回っていた。
その泣き顔はグチャグチャだった。
その泣き顔を見て、どうして、泣くのと訊いてくる女の子は、あとで階段の上から突き落とした。
ボキボキと骨が折れてほしくて、さいごの階段のように踏みつけた。
「邪魔よ死ね」と上から睨み付けた。
何人か、泣いた。
―グチャグチャ―
その日も少女は、好きな男の子のあとを付いて歩いていた。
好きな男の子が階段を上がると、少女も、同じように階段を上がった。
男の子は、部屋へと入り、修道女とお話をしていた。
修道女は言った。
あなたの家族になってくれる人が見つかったの、と。
少女は、眼を見開いた。
修道女は、男の子へ警告した。
「あの子には気をつけて」と。
そして、部屋から出てきた男の子のあとを付いて歩いた。
好きな男の子が、二階のお部屋をウロウロと歩いたから、一緒にウロウロとした。
好きな男の子が階段を降りようとした。
少女は、好きな男の子を階段の上から突き落とした。
好きな男の子は、ゴロゴロと落ちて、顔をグチャグチャにした。
その顔は、可愛かった。
―白いベッド(皿)のお部屋―
好きな男の子は階段から落とされたその日から、自由に遊べなくなった。
好きな男の子は、白いベッドの置かれた部屋の中のベッドの上で、あの子の事が気になって、夜もまともに眠れなくなり、物音がするたびに怖がっていた。
部屋の外では、みんなの悲鳴がした。
はげしく遊んでいる。
他の女の子も男の子たちも、その日から部屋には入って来なくなった。
修道女も、食事も入って来なくなった。
ひとりだから、お腹も痛くなったし、お漏らしもした。
出したら何か食べないといけないから、床を這いながら、ドアの方へ近付こうとした。
すると、あの少女がドアを開いて食事を持ってきてくれた。
―みんなとお食事―
少女は、好きな男の子へ、出来たての食事をあたえた。
とてもおいしいお肉のスープと、味の濃い頭のクラクラするジュース。
お腹が空いてるから何でもおいしく食べられた。
好きな男の子は、食事を残さずに食べた。
少女は言った。
「おいしいでしょ、みんなグチャグチャにしたら仲良くなったの」と。
好きな男の子は、それを訊いて眼を見開いた。
何かが喉の奥から逆流した。
口を押さえても、それはあふれた。
少女は、好きな男の子を見下ろしていた。
好きな男の子は、窓の外へ手を伸ばした。
だが、家族はもうソコにいる、とカーテンを閉められた。
好きな男の子は、絶叫を上げた。
―ゲテモノ―
数日後。
好きな男の子は、お部屋の中で病気にかかって、ひとりでは身体を動かせなくなっていた。
少女がドアを開くと、異臭がした。
少女は、好きな男の子の身体を揺らした。
だが、病気だからか、身体が揺れるだけで何も喋らなかった。
少女は、だんだんと悲しくなってきた。
いつもなら少しだけ笑ってくれるのに…。
少女は、好きな男の子の身体を揺らした。
そして、あの声は聞こえてきた。
【下手喰いのロリスよ、お前の望みは叶ったはずだ、
そんなゲテモノに触れるものは、きっとお前のような物好きだけだ、
だが、物好きは、お前だけではない、
奪われたくなければ、考えるのだ、
そのゲテモノを閉じ込める方法を】
少女は、考えた。
好きな男の子の顔を見て考えた。
そして、少しずつ好きな男の子を少女の中へと閉じ込めた。
黒いローブの男は、そんな少女の食事風景を後ろから見て、「もう誰にも触れられない」と呟いて、分厚い本を閉じた。
―下手喰いのロリス―
後に「下手喰いのロリス」と呼ばれ、指名手配されるその少女の好物は、あの時の男の子の中身のように「臭いお肉」
どこかの国で浮浪者がいなくなるのは、もしかすると彼女のせいかもしれない。
そんな下手喰いの腹には、ゲテモノ喰らいの振り子、「スローロリスの刺青」が、愛らしく刻まれているという…。
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