上 下
96 / 126

 第96話:リオルート・ルザハーツ

しおりを挟む


 ライツと愛那たちが城内を歩き進む中、騎士や城勤めしている者達が道を空け端に寄って丁寧に礼をしていく。
「・・・・・・」
(これから先、立場的にこういった対応に慣れなきゃいけないんだろうなぁ)
 愛那は背筋を伸ばし、視線はよそ見せずに真っ直ぐするなどを心がけながら歩く。
(今の私じゃ救世主としての実績もないし、敬われることに抵抗を感じちゃうな。・・・・・・庶民の感覚はそう簡単に変えられません!)

 到着を伝えるため、先に城内にいたハリアスが、大きな扉の前でライツたちを待っていた。
「こちらでお待ちです」
 ライツが頷きハリアスが扉を開く。
「マナ。行こう」
 愛那はライツの視線を受け止めコクリと頷く。
 開かれた扉の向こう側には温かみを感じる広い部屋があった。
 壁には絵画。床に絨毯。本棚とソファにテーブル。全ての色合いが茶系の落ち着いたもので、置かれてあるさまざまな小物などにも愛那は親しみを覚える。
(あれとか可愛い。・・・・・・なんだか、お城の中だし、もっと冷たいイメージがあったんだけど)
「お久しぶりです、兄さん」
 ライツのその声に愛那はハッとなる。
 右手の奥。一人掛けのソファから立ち上がり、こちらを見ている人物。
 リオルート・ルザハーツ。
 ルザハーツ公爵家当主。25歳。
(銀髪。・・・・・・ライツ様とは髪色が違うのね)
 胸の鼓動を落ち着かせながら愛那はライツと共にリオルートの近くへ向かう。
 その間、微笑を浮かべているリオルートの視線が愛那へと注がれ続けている。
(そんなに見ないで下さい~! 顔が強ばっちゃうから~!)
 顔だけでなく、体の動きもぎこちない愛那に気づいたライツが立ち止まって愛那の頭を撫でた。
(ええっ!?)
 この状況でそんなことをされた愛那が固まる。
「兄さん、そんなにマナを見ないで下さい。彼女の緊張に拍車がかかってしまう」
 その言葉にリオルートは声を上げて笑った。
「ライツ、おまえが女性を気遣うなんて初めて見た」
「からかわないで下さい」
「からかいたくもなるだろう」
 そう言って改めてリオルートは愛那へと視線を移し微笑んだ。
「初めまして、可愛らしいお嬢さん。私の名はリオルート・ルザハーツ。君の手をとっているその男の兄だよ」


しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!

白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、 《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。 しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、 義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった! バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、 前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??  異世界転生:恋愛 ※魔法無し  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

サイファ ~少年と舞い降りた天使~

冴條玲
ファンタジー
今、勇者でも転生者でもない町人Sが邪神と相対する――!  **――*――** みんなは、イセカイテンセイって知ってる? 僕が住むこの世界は、二柱の神様のゲームの舞台だったんだって。 世界の命運を懸けて、光と闇のテンセイシャが試練を与えられて、僕はそのど真ん中で巻き込まれていたらしいんだけど。 僕がそれを知ることは、死ぬまで、なかったんだ。 知らないうちに、僕が二つの世界を救ってたなんてことも。 だけど、僕にとって大切なことは、僕のただ一人の女の子が、死が二人をわかつまで、ずっと、幸せそうな笑顔で僕の傍にいてくれたということ。 愛しい人達を、僕もまた助けてもらいながら、きちんと守れたということ。 僕は、みんな、大好きだったから。 たとえ、僕が町人Sっていう、モブキャラにすぎなかったとしても。 僕はこの世界に生まれて、みんなに出会えて、幸せだったし、楽しかったよ。 もしかしたら、あなたも、知らないうちに神様のゲームに巻き込まれて、知らないうちに世界を救っているかもしれないね。

魂は柱の様に

ROSE
恋愛
弦楽器職人だった前世を持つヴィオラ。母を亡くした途端新しい家族を引き連れた父が戻ってきた。その日から、嫌な考えばかりが過る。見向きもしない父、贅沢好きな継母、愛らしい異母妹。住み慣れた屋敷が塗り替えられ、心の支えだった婚約者さえ離れてしまう未来を知っている気がする。説明できない不安が膨らみ、過ぎ去った音を求めてしまう。 あの方は、真っ直ぐでよく響く。

不遇スキルの錬金術師、辺境を開拓する 貴族の三男に転生したので、追い出されないように領地経営してみた

つちねこ
ファンタジー
【4巻まで発売中】 貴族の三男であるクロウ・エルドラドにとって、スキルはとても重要なものである。優秀な家系であるエルドラド家において、四大属性スキルを得ることは必須事項であった。 しかしながら、手に入れたのは不遇スキルと名高い錬金術スキルだった。 残念スキルを授かったクロウは、貴族としての生き方は難しいと判断され、辺境の地を開拓するように命じられてしまう。 ところがクロウの授かったスキルは、領地開拓に向いているようで、あっという間に村から都市へと変革してしまう。 これは辺境の地を過剰防衛ともいえる城郭都市に作り変え、数多の特産物を作り、領地経営の父としてその名を歴史轟かすことになるクロウ・エルドラドの物語である。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】貧乏子爵令嬢は、王子のフェロモンに靡かない。

櫻野くるみ
恋愛
王太子フェルゼンは悩んでいた。 生まれつきのフェロモンと美しい容姿のせいで、みんな失神してしまうのだ。 このままでは結婚相手など見つかるはずもないと落ち込み、なかば諦めかけていたところ、自分のフェロモンが全く効かない令嬢に出会う。 運命の相手だと執着する王子と、社交界に興味の無い、フェロモンに鈍感な貧乏子爵令嬢の恋のお話です。 ゆるい話ですので、軽い気持ちでお読み下さいませ。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

処理中です...